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滞仏日記「東京拠点は壮大なキッチンスタジオにしたらどうか、と思い付いた!だけ」 Posted on 2023/04/28 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昼寝をしていると、チャールズからいきなり電話がかかって来た。
いったいなんだろう、と思って出てみると、
「ツジー、高台の見晴らしのいい場所に一軒家が売りに出るかもしれないという情報をキャッチした。興味あるなら、あの手この手で調べてみる」
というのである。
興奮気味で、まるで自分のことのように盛り上がっている。
しかし、そこは高級住宅街なのだ。田舎だが、ノルマンディの一等地はパリ並みに高額なのである。ううう、無理・・・。
昨日、見たような廃墟ならばなんとかなるだろうが、チャールズが見つけた家はお屋敷の可能性が高い。
気に入っても先立つものがない。
もう少し、のんびりと、構えて、安い物件が出るのを待つのが、身の丈にあっている話なので、今はちょっと飛びつくことが出来ない。
なんとなく、タイミングがあわない、というような、浮かない返事を戻しておいた。忍法「お茶を濁す」術であーる。お茶、濁してばかりの、人生だね。
ところで、暗くなってばかりもいられない。父ちゃんはそういう時、頭を切り替え、楽しい方を向くようにしている。
ダメそうだな、という時は、いったん、違うことに気持ちをむけた方がいい。長い人生、自分の気持ちをダウンさせないことが何より大事。
自然と明るい方を見る気質が、父ちゃんの強みでもある。あはは。で、今、父ちゃんの計画の中で一番愉しみにしているのは、もちろん、東京拠点計画、であった。
そりゃあ、楽しいに違いない。

滞仏日記「東京拠点は壮大なキッチンスタジオにしたらどうか、と思い付いた!だけ」



その後、とくに進展はないのだけど、父ちゃんの頭の中では、いろいろ出来上がりつつある。
レジデンスの一室を好きなように使っていいわけで、しかも、52平米、悪くない。
父ちゃんが創作に使わない時は、そのアトリエをレンタルする、という路線はだいたいイメージ通り。家賃を払う以上、何か月も放置しておくことは難しい。
やっぱり、父ちゃんは愛情料理研究家なので、第一プランは、そこをキッチンスタジオにしたらいいのじゃないか、と・・・。
そこで、仲良しのdancyu編集長の植野さんに、メールを送り付けてみた。
「もしも、ぼくが東京にキッチンスタジオを作ったら、だんちゅーで借りて貰えますか・・・」あはは。この商売人が、と言われそうだけど、いや、皆さん、生きていくということは、そういうことなんだよ。仙人じゃないのだ、人は誰も。働かざるもの食うべからず。すると、植野さん、
「あ、うわさの?拠点計画ですね! 楽しそう!!!」
と返事がきた。
キター!!!!!!!!!!!!! 
す、するどい。さ、さすが編集長である。一生ついていきます。
日本屈指の料理雑誌dancyuさんが御用達のキッチンスタジオならば、話題になること間違いなし。
ふふふ、さすが、楽しいことを考えるのが大好きな父ちゃん、頭が冴えている。
「いろいろやりましょう! 使わせて頂けるなら、使用料もお支払いします!」
使用料・・・。そこだ。この植野さんの完璧なまでの返答に気を良くした父ちゃんであった。この飛びつき具合からすると、ヒットするかもしれない。いひひ。
「夏に戻った時に、打ち合わせをしましょう」
と約束をしあって、この話を爽やかにしめておいた。
ほら、気分がアゲアゲになったじゃないかァ!!!!!! 

滞仏日記「東京拠点は壮大なキッチンスタジオにしたらどうか、と思い付いた!だけ」



ノルマンディの不動産屋マリーさんの言葉を思い出した。
「ムッシュはセンスがいいから、内装をご自分でやれば、物件の価値が上がりますよ」
昨日の日記で書いたことと、つながった。
あの廃墟の内見は意味があったのだ。ノルマンディ一で大成功不動産業者マリーさんがいうのだから、自信を持とう。
このことを、来週やる予定のシマちゃんとのZOOM会議で提案をしてみよう、と思った父ちゃん、ビジネスセンス、冴えている??? 
いや、皆さん、これも老後のため。三四郎のためだ。
愉しみながら頑張らないと、人生なんてものは苦しくなるだけじゃないか。
「じゃあ、それ、料理業界の人しか使えないんすか? いくらで貸すんです? キッチンスタジオって、そんなに需要ありますかね。先生はビジネスセンスゼロだからなァ」
長谷っちが電話の向こう側でえらそうに言いやがった。ぐやじー。
「長谷っち、そんなことはない。ぼくがデザインするキッチンスタジオだから、使い勝手もいいに決まっているし、みんなでわいわい、楽しくやれるようにするし、料理教室も出来れば、ホームパーティも出来る、お父さんが愛する家族のためにごはんを作ることもできるし、提携するレストランのシェフが来て、銀婚式ご夫婦のためにそこでプライベートレストランだって出来る、どうだ、これでも、需要はないか? しかも、個人で借りると高いかもしれないけれど、グループで借りて頭数で割れば格安で借りれるわけだから、お得よ」
「でも、管理運営とか経費かかりますし、掃除も一回いれると2万円くらいかかるんでよ。先生、知っています。現実は維持費がかかるんです。元がとれないでしょ?」
ひゃあ、詳しい。確かに、そこ考えてなかった。
ここは、専門家のシマちゃんに相談をし、レジデンスで運営をしてもらう方がいいかもしれない。そういうそろばん勘定のセンスはない・・・。
「そうですね、そのシマちゃんさんと一緒にやって、大変なところは全部やって貰わないと、先生には無理、普段ノルマンディの田舎にいるわけだから」
「まあね、でも、長谷っち、そこで、ぼくが年に何度か、プライベートレストランをやるんだ。4人のお客さんに向けて、フルコースふるまう、どう、歌と踊り付きだ」
「歌と踊りも? 需要あるんですかね。今はいいけど、何歳までやるつもりです?」
「お前さ、なんで、ぼくの夢をかたっぱしから、つぶしていくんだよー」

滞仏日記「東京拠点は壮大なキッチンスタジオにしたらどうか、と思い付いた!だけ」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
とほほ、長谷っち悪気はないんです。ただ、ぼくを心配してくれているわけです。なので、感謝をしています。でも、この計画は失うものはないところからスタートしているわけで、やっぱ、シマちゃんと相談をし、皆さんに楽しんでもらえるような世界観、現実的な世界観を築いていきたいと思います。dancyu様は顧客第一号決定なので、最初のイベントはdancyu祭りですかね。ふふふ、お笑いユニットだんちゅーでござる、出動準備~。笑。
ということで、そんな東京拠点計画父ちゃんが講師をつとめます、敷居のめっちゃ低い小説教室が5月7日にオンラインで開催されますよ。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。

地球カレッジ

滞仏日記「東京拠点は壮大なキッチンスタジオにしたらどうか、と思い付いた!だけ」

5月29日、フランスは連休中ですけど、祭日の月曜日、オランピアのライブです。ぜひ、お時間のある皆さん、お越しください。
フランス国内、もしくは周辺国にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。日本からは遠いですから、来ていただきたいですが、時間がせまってきましたから、ご無理はさせられません・・・。無理のない範囲でお願いします。あ、席は絶対売り切れませんので、当日券山ほどあり、ご心配なく・・・。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

もしも、日本から行きたいけど、不安という皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。現在、日本から50名くらいの方が来るだろうという予測です。本当に、大変なところありがとう。必ず、いいステージにしますね。約束!!!

5月29日 辻仁成 パリ・オランピア劇場 ライブコンサ-ト!


ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

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自分流×帝京大学