JINSEI STORIES
滞仏日記「朝、起きて、悲惨なキッチンのせいで一日が台無しになることありませんか？」 Posted on 2023/04/06 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、人生には苦手なものがある。
わかっちゃいるが、なかなか、克服できないこと・・・。
明日にしようと思って、いつも掃除や片付けをやらないで寝ると、次の日が大変なのである。
経験がある人も多いと思うが、明日片付けようと思って今日やらないと家が大変なことになるのであーる。
今日が、まさに、そんな朝であった。
７時半に目が覚め、寝室から出ると、キッチンのシンクに昨日やらなかったものたちが溢れかえっていた。
朝、最初に目撃するものが、炊事場に山積みになった洗い物・・・、これは悲惨。
この光景を、新しい希望の朝に、見させられることくらい、きついことはない。
これ、主婦（主夫）の皆さん、ご理解頂けると思うが、一人暮らしの父ちゃんにとって、この光景はまさに人生を絶望へと押しやるものだ。
なので、ぼくは出来るだけ頑張って、片付けたいのだけれど、そこは人間だから、明日でいいか、ということになってしまい、残念な翌日がもれなくついてくる、というありさまなのであった。
あゝ無情。
ぼくの母さんは毎晩、寝る前に炊事場の掃除を一生懸命やっていた。
「母さん、明日にすればいいのに」
と、言ったことがあった。すると、
「ひとなり、わたしは朝起きて散らかった炊事場を見ることくらい苦痛なことがないのよ。それほど一日を台無しにすることはないったい。だから、水滴を一つも残さず、掃除をし、ピカピカにして一日を終えることを人生の基本にしとるとよ」
へーそんなもんかな、と思ったが、今、その言葉が身に染みる。
一人暮らしだから、どんどん、その辺が怠慢になってしまうのだ。明日でいいか、という考え方は、大敵なのであった。
それでも、今朝は、調子が出ず、三四郎と散歩に連れ出した。（この散歩も毎日というのが、辛いが、犬を飼った責任なので、かわいそうだし、眠くても散歩は行く）
海で彼を走らせ、帰ったら掃除をやろうと思って、途中の犬カフェに顔を出すと、な、な、なんと、チャールズがいた。
まさかの三日連続の登場であった。世界は狭い・・・。
朝から、いろいろな話をした。最近、ぼくが描いた絵の写真をチャールズに見せたりしていると、
「ところで、君は苦手なこととかあるの？ なんでも器用にやっちゃうけど」
と笑われてしまった。
「掃除と計算」
とぼくはこたえた。すると、チャールズが、
「食べたらすぐに片付ければいいんだよ。料理人はみんな作りながら片付ける。それをしないと大変なことになるからだ。もう、癖にしちゃうことだ。散らかしたら片付ける。食べたらその場で洗う。これがセットだと思えば、克服できるよ」
と素晴らしいアドバイスをくれた！
なるほど！
※ 三四郎は怒らない優しいチャールズが大好き！！！ 父ちゃんは怒るから、顔色を見ている・・・。
※ 最近は、片付けるのが面倒なので、ワンパン食をやるようになり、確かに、フライパン一つで済むのだけど、生活がね、寂しい感じになるとです・・・。
ということでやる気になって、アパルトマンに戻ると、玄関には靴が脱ぎ捨てられ、床は埃だらけだし、キッチンは荒れ放題、服が洗濯機から溢れているし、手のつけようがないくらい酷い状態だったのである。
とりあえず、窓を開けて、掃除機をかけようとしたが、ぼくが買ったドイツ製の掃除機が、めっちゃ重くて、そこですでにめげているのであった。☜すぐ何かのせいにしちゃうのが、父ちゃん。
午前中、いっぱいかかって、なんとか掃除をやった父ちゃん。わかってはいるのだけど、チャールズが言うように、食べたらすぐにピカピカに片付けるというのは、難しい。
締め切りに追われ、ライブに向けて練習もし、打ち合わせもあって、その上、三四郎のめんどうや世話もやった上で、・・・おお、片付けが待っているのであーる。
母さんとチャールズが言った、食べたらすぐ片付ける、という習慣を身に着けることからはじめないとならない。明日の朝、心地よく目覚めたいからである。
やれやれ。
皆さん、お互い、がんばりましょう。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
今日は、アスパラとからすみと生ハムのリゾットを作って食べました。お腹いっぱいになり、コーヒーとアップルパイを食べたら、人間だから、眠たくなって、ちょっとソファでごろんとした父ちゃん、目が覚めたら、今朝に続き、もう一度、衝撃のキッチンを目撃することになったのです。これは、なかなか、手ごわい人生じゃ。あはは、涙。
さて、そんなお掃除大嫌い父ちゃんですが、４月１６日に、「カフェ飯教室」を、そして、５月７日に「敷居のめっちゃ低い小説教室」を開催いたします。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてねー。
さあさ、御立合い。
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