JINSEI STORIES
滞仏日記「帰り道に牡蠣屋でノルマンディ産を買い、ひさしぶりの家飯を作ったの巻」 Posted on 2023/03/27 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ブルターニュのサンマロからノルマンディのモンサンミッシェルまでの愛犬との旅(父子旅2)は無事に終わることになった。
午前中、モンサンミッシェルの最後の散歩をやり、親しくなったレストランやホテルの人たちと言葉をかわし、ぼくらは荷物を抱えて、昼少し前にチェックアウトをすませた。
「どうでしたか? 楽しめました?」
若いホテルマンが言った。この地域出身の子たちなのだろう。
息子とだいたい同世代かな、と思うが、英語が抜群に上手!
「日本に帰るんですか?」
「いいや、ぼくはフランスで20年暮らしている。仕事の時だけ日本に行くんだよ」
「へー」
とみんな好奇心旺盛な感じでぼくを見上げていた。
「東京ですか?」
「うん。東京生まれだよ」
「どんなところだろう? 行ってみたいなぁ。漫画やゲームでしか知らない」
「ゴミは落ちてないけれど、好き勝手に拡大した不思議な場所だよ。いろんな顔がある。新宿、渋谷、銀座・・・。いつか、一度、行ってみたらいいよ」
「そうします。日本に行くのが夢なんで」
「いいね。ぼくの逆だね。ぼくにとってモンサンミッシェルは憧れの島だった」
小さなトランクを押しながら、三四郎とモンサンミッシェルの城壁島を後にした。
ここでもたくさんの出会いがあった。
陸地側へと向かうバス停で、たくさんの若いアメリカの学生らと一緒になった。
修学旅行みたいなものかもしれない。
引率の先生がいろいろと注意をしていたが、誰も聞いてない。
「みんな、どうだった? トーマス、どうだった?」
「楽しかったです。歴史を学ぶことが出来ました」
「キャロライン、君は?」
「そうね、退屈だったわ。でも、こういうものがあるということを知ることが出来て、いい経験になったかな」
抱き合って、キスをしているカップルもいた。
先生がベンチに飛び乗り、記念撮影をしよう、と言い出した。
ぼくと三四郎もそこに参加して、ピースをしておいた。
横のおにいちゃんとお姉ちゃんが、ぼくの腕の中の三四郎を見て、笑っていた。
旅は道連れである。
「いい旅をね」
ぼくが英語で告げると、学生たちが、サンキュー、あなたもね、と言った。
ぼくは人に話しかけるのが好きなので、退屈することがない。
もちろん、人によっては、かかわらないで、という顔をする人もいるけれど・・・。
でも、99%の人は、
「HAVE A NICE TRIP!!!!」
と投げかけると、笑顔を向けてくれる。
旅は人生を豊かにさせてくれる。
戦争はいけない。
ぼくらは英国車にのって、モンサンミッシェルを離れた。
ここからパリに戻るか、それともノルマンディの家に戻るか、という新たな選択肢がぼくらを待ち受けていた。
「どうすっかな、サンシー」
だいたい、同じくらいの距離と時間である。
プロモーターのベルトランは早くパリに帰ってこい、と言うのだけど、パリに戻ると、練習が出来ない。ご近所さんがいるので、大きな声で歌えないのが大きな問題なのである。
この旅の最中も、(ギターはつねに持って歩いている)、ちょっとは練習したのだけれど、本格的な発声練習はできていない。
ということで、ぼくはハンドルを切った。
ノルマンディの自宅に戻って、少しの間、歌の合宿をやることにしたのである。
帰り道、海岸沿いのコースをとると、県道沿いに小さな魚屋が出ていた。とれたての牡蠣が並んでいる。ぼくは車をとめて、新鮮な牡蠣を物色した。
「さっき、とれたばかりだから、一週間は持つよ」
「そりゃあ、すごいね」
「この半島の先で、おれが、とった」
「そりゃあ、新鮮だ、しかも、大きいね。いくら?」
「特別に14個で8ユーロにしときます(普通はダースな販売なのだけど、なぜか、14個売りであった)」
「買った」
交渉成立。これほど粒の大きな牡蠣を14個で8ユーロってのは安い。
最後に、いい買い物が出来た。
昼、自宅で、牡蠣を開けた。
新鮮な牡蠣は元気なので、ちょっとやそっとじゃ開かないのである。
そういう場合は、牡蠣の平たい膨らんだ方の先端をハサミで2ミリほどカットし、そこから牡蠣ナイフを差し込んで、貝柱をカットしてやると、すぐに開くのだ。
そのまま、一つすすってみた。
じゅるっと音がした。うわっわわわわわ・・・。
うまい。さすが、ノルマンディの牡蠣である。ええと、白ワイン・・・。
ヨード感もちょうどいい。やっぱ、白だよね。サンセールかな。
ええええ!!!!!! し、しまったぁあああああああ。
ぼくは、ライブに向けて、禁酒中なのだった。愕然!
牡蠣と白ワインはセットなのに、なんてもったいないことをしてしまったことか・・・。
白ワインを飲まずに牡蠣を食べるのは、ある意味で、地獄でショートケーキを貪るようなものじゃないか・・・。
仕方がないので、もったいないけれど、4つだけ生で食べて、あとはパスタにすることに。
ペリエをシャンパンだと思って、胃に流し込むことになった。ひゃああ、味気ない。
あはは。
あと二か月の辛抱なのであった。
がんばれ、父ちゃん、最高のライブまで!!!!
熱血~。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
なんとか、三四郎との父子旅2も終わりました。ブルターニュの大潮による砕波はすさまじかったですね。それからモンサンミッシェルの山頂に広がる天空の中庭も素晴らしかったです。お見せできないのですけれど(ちょっと怖い)、修道院で自撮りした写真のぼくの身体の半分がエメラルドグリーンになっていたり、不思議な経験も何度かありました。今は、生まれ変わったような新しい自分なので、すっきり、です。あと、2か月と迫ったオランピアまでこれで頑張れそう・・・。
さて、そんな熱血父ちゃんが講師をつとめる「カフェ飯教室」が4月16日に開催されますよ。さらに、5月7日には「熱血小説教室」もあります。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてくださいませ。
それから、もう一つのお知らせ。
オランピア劇場ライブの翌日、日本からお越しの皆さん、JALパックさんがパリの(父ちゃん推薦の)レストランでランチ会を開催します。父ちゃんも、ライブの翌日ですがちらっと顔を出しますので、パリ旅行を計画されてる皆さん、チェックしてみてください。
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エディットピアフも立った。ビートルズも立った。ローリングストーンズも、マドンナも、スティングも立った。オランピア劇場でのライブが近づいてきました。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。
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https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/
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フランス国内、もしくは周辺国、あるいは世界各地にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。旅慣れていない皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。
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https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/
ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。
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