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滞仏日記「今、ゼレンスキー大統領がパリの自宅の近くにいる、という不思議」 Posted on 2023/02/09 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、フランスはどのテレビ・チャンネルを見ても、ゼレンスキー大統領の顔が映し出されている。ゼレンスキー大統領とマクロン大統領、それにドイツのショルツ首相がエリゼ宮殿で会合をしているのだ。
あのゼレンスキー大統領がパリにいる、と知って、驚いた。
あまりに電光石火のパリ入りだからである。
実は、父ちゃんの家からエリゼ宮はそう遠くない(歩いて行くことが出来る)。
そういえば、パリを離れる時、高速道路の入り口周辺に警察車両が多いなァ、と思っていたので、なるほど、そういうことか・・・と腑に落ちた。
ロンドンを経由して、パリに入ったそうだ。
このあと、ブリュッセルのEU会議に出席をするのであろう。
その前に、英国、フランス、ドイツのトップと会談をし、まもなくはじまるとされるロシア軍の再攻撃を前に、武器供与などについて、話し合いがもたれるのであろう。

滞仏日記「今、ゼレンスキー大統領がパリの自宅の近くにいる、という不思議」



フランスはちょうど今、新しい戦闘機ラファールと旧型の戦闘機ミラージュの入れ替えのタイミングで、旧型のミラージュ戦闘機ならば、提供できるはず。
マクロン大統領はこの旧式をとりあえず、ウクライナに供与する方向じゃないか、と父ちゃんは踏んでいる。
それってあなたの感想ですよね? と言われそうだけれど、ま、私の意見ということで聞き流してもらいたい。フランスがミラージュを供与することで、米国のF16への道も出来るのかもしれない。ドイツがレポルド2を出したので、フランスも何か出す、みたいなことなのかもしれない。
この供与合戦、かなり奇妙ではあるが、ゼレンスキー大統領にしてみれば、喉から手が出るくらい、ほしいものであろう。
とまれ、英国、ドイツ、フランス、そしてEUがどこまで踏み込んでウクライナを支えようとするのかが焦点になる。
ロシアの侵攻から一年、ここ数日、ゼレンスキー氏の動きから目が離せない。
それにしても、こういう戦争のさなかに、国を離れるのも大変なことだろう。
相変わらず、英国議会でもあのカーキ色のセーターで登場していた。戦時下なので、ジャケットは着ることができないのだろうし、顔つきも一年前とは異なって目つきが険しくなっていた。
心持ち、太ったように見えたのはぼくだけだろうか? いや、むくんでいるのであろう。心が休まる日はないだろう。
生き続けて、ほしい。

滞仏日記「今、ゼレンスキー大統領がパリの自宅の近くにいる、という不思議」



トルコとシリアでおこった地震で1万人以上の方がおなくなりになった。(日本人としては、やはり、他人事とは思えない)
とくにシリアは内戦が続き、国内が分裂しているので、救援物資を送るのにも、アサド派、親トルコ派、クルド派と大きく三つに分裂をしており、複雑な問題が横たわっているのだ。
物資が届かない可能性がある、と国境なき医師団の先生がテレビで語っていた。
今のこの世界は問題が多すぎて、あらゆることを同時に見つめるのが難しい。
トルコ、シリア、ロシア、そして、イラン、イスラエル、この周辺の複雑な問題が絡み合っている。
何より、核兵器を持つ、持たないによって、この平和の維持の重みも異なって来るのであれば、この星の未来とはなんぞや、ということになる。
厳しい綱渡りが際限なく続くのであろう。

ぼくは無事に、田舎にたどり着くことが出来た。
三四郎と散歩をし、そのあと、テレビにかじりついてゼレンスキー大統領が何を発言するのか、EUはどこに落としどころを見つけようとしているのかを、見つめている。
祈るような思いで、・・・

滞仏日記「今、ゼレンスキー大統領がパリの自宅の近くにいる、という不思議」



つづく。

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