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滞仏日記「コシノジュンコ、この100年で最大級のインパクトにノックアウト」 Posted on 2023/02/08 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ということで、父ちゃんはコシノジュンコさんに会うため、約束をした5区にあるレストラン「HamLim」に30分も遅刻して到着した父ちゃんであった。(携帯に、まってるわよー、とメッセージが飛び込んで来た~、すいません。ストの影響で、飛んでいきます~)
すると、入ってすぐ右手の大きなテーブルのど真ん中に、おおお、いたぁ!
「じゅんこ♪」
おお、やはり、いつもの髪型で、・・・存在感半端ない。
「じゅんこ♪」
ジュンコさんは、実に明晰な頭脳の持ち主、81歳とは思えない。おしゃべりな父ちゃんを押しやって、どんどん喋るのだから、今回もまた驚いてしまった。
左にお孫さんの大学一年生Y君と、右にお友達の娘さんのパリの語学大学の学生をしているYさんが角さん、助さんのような感じでじゅんこをガードしているではないか。その中央にクレオパトラのように君臨する、じゅんこ♪
おとなしい二人の若者たちにも会話に参加してもらいたいので、話を向けるのだけど、その都度、じゅんこが割り込んで来る~。(パリの秘書のHさんもいます)
「じゅんこ♪」
若者たちに喋る隙さえ与えないそのエネルギーと速度とパッションにやられっぱなしの、父ちゃん、なのであった。
父ちゃんの熱血ごときでは到底勝てないコシノジュンコ・パワーがすごい。
とにかく、どういう時代を生きたか、という話からはじまり、今の時代のファッションの話しだけにとどまらず、ロシア・ウクライナ戦争にまで話は及んで、プーチン大統領と会った時の印象から、戦争を早く終わらせないとウクライナの人々が本当に本当にかわいそうで、ウクライナは本当にきれいな国で、きれいな人たちなのよ、と言葉を詰まらせる一幕まであり、実に、実に濃厚な2時間なのであった。
じゅんこ先生は若かりし頃の携帯の秘蔵写真をぼくに見せてくれた。ピカソのお子さんと一緒に踊る、良き時代の良き一枚なのである。
しかし、着目すべきは、あの専売特許のような髪型が、今もなお健在で、なんと半世紀以上前の写真と一緒なのだ。
23歳の時の髪型と、83歳の今の髪型が、一緒って、すっごくないですか???
その凡人にはまねできないところが、コシノジュンコ先生の素晴らしいところなのであった。
「じゅんこ♪ 君の名を呼べばぼくは切ないよ」と思わず、長渕剛さんの名曲を口ずさんでしまったじゃあないか!!!

滞仏日記「コシノジュンコ、この100年で最大級のインパクトにノックアウト」



「ジュンコさん」
ついに、名前を呼んでしまった父ちゃんであった。
「はい」
「その、その素晴らしい髪型、23歳の時からかわらないんですね?」
これは失礼な質問かもしれないと思いながらも、作家的好奇心をとめることは出来なかった。
「それがね、やっぱり、おちつくところ、これが一番楽なのよ」
ヘルメット型と形容したら怒られそうなので、他の言葉を探すのだけど、鉄腕アトム的な髪型とか、何か、近代的な陶芸的髪型と言えばいいのだろうか、とにかく、前方がとがっていて、後方が跳ねている。前方後円墳ヘアーなのであーる。
その頭髪は、ふさふさと、ぼくの目の前で躍動しているのであったぁ~。素敵なのであーる。
23歳の時のアイドルのような写真の髪型と寸分たがわない、まったく、一緒だし、その芸術レベルの髪型はジュンコ先生の頭部の一部というよりも、もはや、ある種の芸術家ならではのインパクトを醸し出しており、それは国宝級作品のような素晴らしさで、見つめるぼくを釘付けにさせるのだった。
何よりもぼくを驚かせたのは、その髪型の下にある二つの目のなんとまっすぐによどみなく、突き刺さって来る力・・・。
これは正直に記しておきたいが、こちらが後ろめたい自分の半生を恥ずかしく思うくらい強い澄み切った目力をもっていらっしゃったのであった。
ぼくは、恐れ入り、深々と頭を下げて、そこを後にすることになるのだが・・・、生涯忘れることのない一夜となった。

滞仏日記「コシノジュンコ、この100年で最大級のインパクトにノックアウト」



5区のレストランを出て、パリの夜の街に出たぼくは、目の前に聳えるパンテオンを見上げながら、心の中に焼き付いた、あのジュンコ先生の頭髪を思い出していたのである。
うちの母親と5歳程度しか違わないというのに、2時間、この世界の情勢をしっかりと語り続けたコシノジュンコ先生の持つ、可能性、人間の可能性を教えてもらえたのだった。
恐るべし、83歳・・・。
角さん、助さん的な若者たちに訊いた。
「すごいね、じゅんこさん。どう思う?」
すると学生のYさんが、
「すごいです。とっても勉強になり、憧れます」
と言ったのであーる。
憧れかぁ、いい指標ではないか。そういう大人に自分もなりたい。

滞仏日記「コシノジュンコ、この100年で最大級のインパクトにノックアウト」

このデザインブックの中に、コシノジュンコの今のすべてがはいっています。80代、凄いですよ。可能性は限りないですね。デザインを目指す皆さん、ご参考に!



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
人は会う度にいろいろとわかってきますね。コシノジュンコさんも最初に会った時は、めっちゃ怖い人だったのだけど、何度かご一緒しているうちに、こんなに情の深い芸術家はいないなぁ、と思わされたのだから・・・。10年後、20年後も楽しみな人だと思いました。ぼくも負けずに長生きをしてみたいです。

地球カレッジ

滞仏日記「コシノジュンコ、この100年で最大級のインパクトにノックアウト」

さて、父ちゃんの5月29日のオランピア劇場でのライブ、直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。FNAC(フナック)でも買えます。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/



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