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滞仏日記「カフェ文化こそが、フランスで暮らす醍醐味なのであーる」 Posted on 2023/02/05 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、朝早く、パリを出て、ノルマンディの家に昼前、たどり着いた。
ちょっと暖かくなってきたのと、三四郎が太ったので、海辺を走らせるために、果敢にアクセルを踏みこんだ父ちゃんなのであったぁ。
拙盤「ジャパニーズソウルマン」を大音量でかけながら、オートルートをぶっとばした(もちろん制限速度130キロ以内で)父ちゃん。ガラスの天丼、天丼、天丼食いて~♪ ☜違うやろ。(ほんとうは、ガラスの天井ね、えへへ)
パリから不意に呼び出しがあっても、がんばれば日帰りで行ったり来たり出来る距離なのである。
だんだん、慣れてきたし、スペインまで車で往復をしたことを考えれば、長距離運転など苦じゃない。
パリと田舎、どっちが住みやすいか、と言えば、田舎の方が圧倒的にすごしやすい。
空気も美味しいし、やはり、なんといっても夕陽が素晴らしい。
それに寒いと言われていた田舎も、思ったほど、寒くなかった。
あと、事務所は人の出入りが多くて(スタッフの皆さん、ごめんちゃーい)、今はオランピアライブに向けて、連日、いろんな人が出入りし、ピエールとか居座っているし、ぼくちんと三四郎、居場所がないのであーる。
一応、奥にぼくと三四郎の部屋があるのだけれど、落ち着かない。
騒がしい時は、屋根裏部屋に三四郎と逃げているが、海の近くにアパルトマンがあるし、だいたい、今の時代、ZOOMで会議も取材も、地球カレッジだって、なんだって出来る。
場所を選ばない時代になったわけだから、無理してパリにいる必要もないのだ。
ということで、今、この日記は田舎で書いておーる。☜サンセットをながめながら・・・。
おほほ、落ち着く・・・。

滞仏日記「カフェ文化こそが、フランスで暮らす醍醐味なのであーる」



あと、超残念なお知らせではあるが、事務所周辺に、いいカフェを一軒も見つけられなかった。
前に住んでいたカルチエ(町)には、八百屋もパン屋も美味しいレストランも心地よいカフェもいっぱいいっぱいあったのだけど、・・・ここにはない。
同じパリなのに、ぜんぜん、空気感が、違う。
少なくとも行きつけのカフェがないことが、ここになじめない最大の理由なのである。
サクレクール寺院はよく見えるのだけど、カフェのギャルソンの切れ味が違う。
若い経験のないギャルソンさんが多く、なんて言うのか、やり取りが味気ない、空気感がもの足りない、というか、やっぱいカフェって、熟練のギャルソンがいてこそなんだよなぁ。
で、実は数日前、毎朝、三四郎と通っていたカフェ(モジャ男がギャルソンをしていたでしょ? 三四郎にチーズをよく与えていたあの、モジャモジャ頭)に久しぶりに行ってみたら、なんと、閉店していた・・・。えええっ、嗚咽・・・。

滞仏日記「カフェ文化こそが、フランスで暮らす醍醐味なのであーる」

滞仏日記「カフェ文化こそが、フランスで暮らす醍醐味なのであーる」

滞仏日記「カフェ文化こそが、フランスで暮らす醍醐味なのであーる」



三四郎がベニヤ板が打ち付けられた入り口を、絶望するようなまなざしで見つめていた。
ピエールに訊いたら、売ったのだ、という。
定年の年齢になったから、疲れた、らしい。メイライの店もなくなり、ぼくも引っ越し、心なしか、前のカルチエ(我が町)が、もう別人のようになっていた。
とはいえ、新しいカルチエにはぼくが好きになれそうなカフェがマジ一軒もなかった。レストランも若い人むけばかりで、口に合わなかった。
なので、ぼくは残念なことに新しいカルチエを愛せないのであーる。ぎょえええ、今か!!! これは、致命的ではないだろうか?
もうすぐ、NHKのBS番組「パリごはん」の秋冬編最新作がオンエアーされようとしているが、申し訳ない、今回で最終回は免れないかもしれない。(なので、どうぞ、どうぞ、絶対、お見逃しないようにね~!!!)
だって、このカルチエには、マーシャルも、ピエールも、アドリアンもいないのだから、番組が出来ないじゃないか。アドリアンなど絶対にここには住まないであろう。
でも、あくまで事務所として借りたので、ぼくとしては別にがっかりしているわけではない。仕事の時だけ、パリに戻って、屋根裏部屋で寝泊まりして帰ればいいのだから。

滞仏日記「カフェ文化こそが、フランスで暮らす醍醐味なのであーる」



それとは対照的に、ノルマンディには友だちががんがん増殖中。
「ひとなりー、いつ戻って来るの~」
チャールズ夫妻をはじめ、ジャンフランソワや、アンヌや、同じアパルトマンのカイザー髭ご夫妻など、カフェのギャルソンたちもみんな人間味があって、すでに親しい。
ボンマルシェの近くにぼくがよく通ったカフェがあった。牡蠣スタンドを冬に出すカフェだけど、ギャルソン全員、マジ、最高だった。
冗談ばかり。どうでもいい内容の面白い立ち話をする。いろんな情報も提供してくれるし、疲れている時は、こっそりワインをくれたり、ぼくが生クリーム好きなのを知っているから、ババオーラムは生クリーム増量&ラム酒大量がけしてくれるし、反対側を歩いていても、手を振って、ウインクしてくれるし、行くと喜んでくれるのだけれど、・・・事務所周辺のカフェには、そういういい感じのギャルソンがいないのである。
皆無なのだ。
ギャルソンってそつなくコーヒーを出せばいいってもんじゃない。
その街の人々に必要不可欠な存在なのだ。
最高のギャルソンがいる街で暮らしたい。
あゝ、残念。
ガラスの天丼、天丼、あゝ、食べられないガラス~の天丼♪ ☜違うやろ!!!

滞仏日記「カフェ文化こそが、フランスで暮らす醍醐味なのであーる」



ということで、ここの田舎には、いいカフェがいくつもある。
ジェレミアのカフェ、犬カフェ(犬の散歩コースにある)、ポールのカフェ(ビストロ)、サッと思い出すだけでこんなにある。全部、味わい深い。
ジェレミアと最初に会った時、
「なにー」
と漫画のセリフを言い合い意気投合した。あはは。
彼の選曲が素晴らしく、店内で流れる空気感がたまらないのだ。目の前に夕陽が見える。
ジェレミアはぼくよりうんと年下なのに、よくぼくの時代の音楽を知っている。いい本屋もあるし、カーブ(ワイン屋)もあるし、美味しいビストロもある。
田舎なので物価も安いし、人はギスギスしていないし、適度に文化があって、もちろん、ボンマルシェやギャラリーラファイエットはないけれど、でも、十分生きていける。
そして、仲間たちがいて、
「おかえりー、ひとなり」
と言ってくれるのだ。
「元気だったかい、オランピア、どう? いい調子?」
ということでさっそく、行きつけのレストランに行き、たらふくマンマした、父ちゃんであった。
そのまま、三四郎と目の前の海に行き、走り回ったのだった。
つまり、カフェがなければ、生きてはいけない父ちゃんと三四郎なのであった。
熱血~。

滞仏日記「カフェ文化こそが、フランスで暮らす醍醐味なのであーる」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
先日、息子がやって来た時に作ったのが、こちらの恵方巻です。南南東の方角を向いて、二人でがっつりと食べきりました。ぼく、たぶん、生まれてはじめて恵方巻をやったわけです。いいことあるかな~、ミスタードーナッツ。☜違うやろ。

地球カレッジ

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※ お米二合分、で作りました・・・、半分にカットしたものを南南東を向いて食べたけれど、おしゃべりせず、初めてだったので、途中で、喉に詰まって、さぁ大変でした。笑。オランピア劇場ライブが成功するように、お願いをした父ちゃんでありました。あはは。

滞仏日記「カフェ文化こそが、フランスで暮らす醍醐味なのであーる」



さて、父ちゃんの5月29日のオランピア劇場でのライブ、直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。FNAC(フナック)でも買えます。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/

そして、新作「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分) 放送時間のお知らせです。
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送
さらに、
●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」の再放送が決まりました。
【NHK BSプレミアム】 2月12日(日)12:30〜13:29
(初回放送 2022年9月23日)
お知らせ多すぎますね・・・。メモしておいてねぇ。えへへ。

自分流×帝京大学