JINSEI STORIES
退屈日記「パリの高級デパートを狙う、新たな泥棒集団の手口が凄い!!」 Posted on 2023/01/31 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、約束の時間までちょっと早かったので、その近くの高級デパートに立ち寄った。で、館内をふらついていたら、デパートの店員さんに呼び止められた。
アジア系の店員さんである。けっこう、多いのだ。
それにしても、とにかく退屈そう。
確かに、もうすぐ、セールの終わりだし、たいした服が残ってないし、インフレだし、人が異常に少ないし・・・。
「あなた、日本人でしょ?」
「お、なんでわかりました」
「韓国人かも、と最初、思ったけど、骨格も、髪型も、ぜんぜん違う」
「ですね。ロン毛だし」
「それで、中国人かな、と思ったけど、歩き方が、違うでしょ」
「あー、よく言いますよね。日本人ってどういう歩き方なんですか?」
「日本の人は、重心の位置が他のアジア人とは違うのよね。それに、歩く速度が遅い」
「へー」
「あとは、顔かな。おにいさん、たれ目だから」
「あはは」
何かを売ろうとしているわけじゃない。本当に暇なのだ。
ぼくは店内を見回した。
ひと頃は、中国の観光客で溢れていたけれど、コロナのせいでか、団体客も見当たらない。
「コロナで観光客減ったので売り上げも減りましたか?」
「まー、でも、観光客は減ったけれど、たとえば中国本土と携帯でやりとりしながらこっちに住んでいる中国の人らが仲介屋をやってる」
パリに住む中国の人たが、(だいたい若い人)、が本土のお客たちと携帯で繋がり、爆買いをしているのだそう。彼らは結構な手数料を貰っている。大繁盛らしい。
「しかもね、うちの顧客カード持ってるから、年に一度だけ、顧客感謝デーがあって、その日を狙って大量に買うと5%分の金額が自分のカードに入っちゃうのよねー」
「よくわからないですが、すごいですね」
「そこで何万ユーロもまとめ買いする仲介屋もいるわけよ」
この人、男の店員さんなのだけど、なんとなく、言葉遣いがふわふわしている・・・。
「コロナで中国から来ることが出来ない人のかわりに、こっちにいる中国の若い子たちが仲介する。うちもそういう子たちで今はずいぶんと潤っています」
「なるほど。日本人は?」
「減りましたねー。10年前までは、まだ買いに来ていたけど、今は、ぜんぜん。中国人がトップで、次が韓国、次が台湾かな」
「なるほど」
「ぼくも台湾人」
「へー、そうなんだ」
「中国語出来るからね」
ウインクをされたので、ギクっ。
「見て見て」
ムッシュが、少し離れたところにいるマダムを指さした。
「あの人のシャネルのバックとか、狙われてる可能性があるのよ」
「なんでわかるの?」
「泥棒たちが忍び込んでいる」
「そんなの恰好ですぐわかるでしょ? 守衛さんがいるじゃないですか」
「いいえ、そうじゃないの。ここに来る泥棒は、みんなめっちゃブランドの服着て綺麗な恰好しているから見分けつかないのよね。ロシアの大金持ちかな、と思うような恰好でやってきて、泥棒をするんだから、あーた」
「店の品を盗むの?」
「いいえ、そうじゃないの」
「ほら、あそこのマダム、無防備でしょ? 商品選ぶのに一生懸命で、バックとか、ああいうところに置いちゃってるでしょ。そしたら、綺麗な恰好の泥棒が近づいていき、それを普通に掴んで、肩にかけて、そのままエスカレーターで優雅に出ていくのよ」
「捕まらないの?」
「だって、綺麗な恰好をしたマダムがシャネルの鞄持っていてもおかしくないでしょ? 守衛さんも、気づかないし、だーれも疑いやしません。うちの商品だったら、出る時、警報が鳴るけれど、あのマダムの鞄なんだから、警報ならないわよね。で、そのまま、出ていっちゃう。盗まれた方のマダムは、自分の鞄がないことに気づいて探すんだけど、その時は後の祭り。これが今の泥棒の主流。みんな、泥棒がブランド着て、お洒落になっているんだもの。気を付けてくださいね」
その店員さん、ちょっと、待ってて、と言って、商品を物色しているマダムの近くまで行き、
「鞄、気を付けてくださいね」
と忠告をしはじめた。
ホエー、恐ろしい世の中である。
ピエールと待ち合わせた約束の時間になったので、ぼくはデパートの外に出た。
実は、今日から、ピエール監督作の「空」のミュージック・ビデオ製作がスタートしているのである。
早く着きすぎて、デパートに立ち寄ったら暇な店員さんにつかまり、有意義な情報を得てしまった、という次第である。
約束の公園に行くと、ピエールがα6600を掴んで撮影をしていた。実際には、スタビライザーという高性能の自撮り棒のようなもの(笑)にカメラは装着されている。
鮮やかな青い服を着たマダムが、めっちゃキレのあるスパニッシュダンスを踊っていた。ひゃああ、かっこええ。
ちょこっと撮影を見学して、撮影済の映像などを見せてもらったが、あのピエールが、別人のようであった。
良かった。実はあの男、口が軽いので、超不安だったのである。あはは。
いやいや、ここだけの話ではあるが・・・。
※ こちらが「空」の音源である。無料で訊けるので、訊いてみて想像してくださいね。なんでも、タダで訊ける時代でよかったよかった。
☟
https://music.youtube.com/watch?v=KNgSiVXKfVA&list=OLAK5uy_lMIOWPBDVdhhCSMMrjEXin9zif5ISLCtQ
さすが、元ボリショイバレエ団のダンサーだけあって、動きが凄かった。
今日から、二週間ほど、断続的に晴れた日を狙って撮影が続く。
撮影の合間に、みんなでカフェに立ち寄り、今後の予定などを話し合った。
ぼくはみんなに、「鞄だけは気を付けて、お金持ち風の泥棒が流行っているらしいよ」と忠告をしておいた。
皆さんも、気を付けてくださいねー。
今日も読んでくれてありがとうございます。
恐ろしい時代になったものです。インフレが凄いから、泥棒も知恵をつけていますね。でも、ぼくは20年、暮らしているけれど、用心深いからまだものを盗まれたことはありません。携帯も三回、落としたけれど、全部、戻ってきました。☜何自慢?
さて、父ちゃんの5月29日のオランピア劇場でのライブ、直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。FNAC(フナック)でも買えます。
☟
https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/
フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、
☟
https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/
そして、新作「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分) 放送時間のお知らせです。
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送
さらに、
●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」の再放送が決まりました。
【NHK BSプレミアム】 2月12日(日)12:30〜13:29
(初回放送 2022年9月23日)
お知らせ多すぎますね・・・。メモしておいてねぇ。えへへ。