JINSEI STORIES
父ちゃんの文章教室「末長く読まれるエッセイやブログを書きたい人へのご案内」 Posted on 2023/01/21 辻 仁成 作家 パリ
ぼくは文筆家を生業としている。
長いもので、すでに、30年以上、作家生活が続いていることになる。
父ちゃんの場合、音楽や映画など様々な仕事をこなすので「筆一本」という作家ではないが、どうやって飯を食っているのか、と問われれば、やはり筆に負うところが大きい、と認めざるを得ない。
雑誌やwebサイトのエッセイの依頼から、小説だったり、時には広告の文章だったり、実にさまざまな執筆依頼が飛び込んでくる。
これが、一つ一つ、書き方、向かい方が異なるので、一緒くたには出来ないが、文筆家で生きるという上では、そこに差はない、と思っている。
文章とか出版の仕事で食べていきたいという人が最近、父ちゃんの周りには多く集まってくる。
しかし、それがエッセイであろうと、小説であろうと、大事なことは、ひたすら書くこと、なのだと思う。
書きたいという欲求がなければ、いいものは書けない。
仕事にしても、趣味であろうと、大事なことは、人様が読んでくださる文章を紡ぐわけだから、「うまいなぁ」と納得してもらうことがもっとも大事だと、ぼくはあえて、皆さんに言っておきたい。
作家によっては、当然のことだけれど、文体とか文章力だけを重視する人もいる。
しかし、10年も物書きを続けていれば、どの人もそれなりの文体を獲得することが出来る。みんな、先生、と言われるようになる。
しかし、大事なことは、そこじゃない。
東大を出た人が、全員、末永く愛される作品を、書けるわけではない。
そりゃあ、当然であろう。
「AIがそのうちベストセラー小説を書くようになるから、作家という職業は廃業ですね」と言われたことがある。ぼくは、それはない、と思う。
もちろん、AIがベストセラーを出す可能性は十分にある。
AIがまもなく、ヒット曲を量産すると音楽業界では言われて久しい。特に、メロディラインに関して言えば、AIは人間以上に、上手に真似ることが出来るのではないか。
じゃあ、AIはどのような小説を書くというのであろう。驚くほどに上手な文体が生まれるはずだけれど、それでぼくの心が動くかどうかは、何とも言えない。
これが実は、小説を書く上でとっても大事なヒントになる。
つまり、技術があるだけでは、あるいは、ヒットの法則を計算できたからと言って、その作品が末長く愛されるわけではないのだ。
AIが人間を越せない理由は、人間の経験や人間の心の底にこそ眠っている何かの差。
残念ながらAIは人間の経験を情報として処理し、人間ならばこう考えるだろう、こういうことを書けばヒットするだろう、という計算に基づいて書いてくる。(あるいはその計算を多少壊しながら、予定調和にならないことを計算尽くで書いてくる)
そういう文章に、人間が心を動かされたなら、それは人間の敗北に過ぎない。
ぼくが「うまいなぁ」と思う文章は、もちろん、文章として上手なことがある種の条件ではあるけれど、しかし、そこじゃあ、ないのだ。
へー、驚いた、そんなこと考えもしなかった、というある種の畏怖の中から、浮き上がる凄み・・・。
さて、ぼくは今年も父ちゃんの文章教室を数回、開催する予定である。第一回目は、来週、29日、である。
書くことを日々の中心に置いてみたい皆さん、ご参加あれ。詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリック!