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退屈日記「筆が進まない絶不調父ちゃんが、見事に復活を遂げるまでの記録」 Posted on 2023/01/19 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、とりあえず、キッチンの、傾斜していた食器棚は大工事のおかげで元に戻ったのであった。
それは本当にご覧の通り綺麗に元に戻った。しかし、であーる。
キッチンの裏に位置する事務所のトイレの壁に、くい打ちによって大きな穴がいくつも出来てしまい、その壁が今度は剥がれ始めるという極めて恐ろしい状態がはじまったのであったぁ・・・。なんと!!!!
その時、ぼくはちょうど、トレイに行きたかったのだが、そういうカタストロフ状態のトイレをみて、出るものも出なくなってしまい、・・・ううう、困った。
同時に、工事人は青ざめていたが、今は直す材料がない、と言い残して、帰って行ったのであーる。そんな~。
でっかい穴が、横一列に、そして、足元にはその残骸が散らばって・・・。溜め息しか出てこない!
これこそが、まさに、ザ・フランス、なのだ。おフランスなのであーる!!!
パリ中心部はこのように何もかもが古いので、新築のマンションでもない限り、こういうことの繰り返しなのだ、思い知ったか、セルバンテス!。
工事人は、壁が薄すぎた、と言い残して、去って行った。
この状況を再び不動産屋と大家に伝え、その工事人か、また別の工事人が、穴を塞いでペンキを塗るまで、ぼくの日常は落ち着かないことになりそうだ・・・。
それにしても、ぼくは呪われているのだろうか・・・。
やれやれ。

退屈日記「筆が進まない絶不調父ちゃんが、見事に復活を遂げるまでの記録」



人生というのは、このように、行きつ戻りつ、いいこともあれば悪いこともある。一難去ってまた一難の繰り返しなのだった。
ということで今日は、どうも、気力が、あかんのであーる。
頑張らないとならないのだけど、次々に降りかかる災難を前に気持ちがいま一つアップしない。実は、小説がちょっと煮詰まっている、ええと、つまり筆が進まないのである。
一言で言うと、今はちょっと、小説を書くのが「苦しい」。
小説執筆用机というのがあって、そこに小説専用パソコンがあり、24時間態勢でスタンバっているのだが、なかなか、そこに腰が落ち着いてくれないのである。
今は、5月29日のオランピア劇場へと一同が向かっていて、ミュージシャンもスタッフさんも一丸となって、盛り上がっている。
それが終わるまで、気分的に、小説モードにならないのかもしれない。
ま、仕方ないか。
今日はピエールがミュージック・ビデオ撮影のためのカメラ機材をとりにやって来た。
「やあ、ピエール」
「やあ、ツジー」
「あのね、今日、ぼくは鬱だからさ。カメラ渡すだけね」
「え? あ、もちろん。気を付けてくれよ。無理するな」
そうなんだよね、無理しちゃいけない。身体と心は一つなので、仕方がない。

退屈日記「筆が進まない絶不調父ちゃんが、見事に復活を遂げるまでの記録」



こういう時、ぼくは「熱血」を呼び覚ますイメージトレーニングをやる。
実にバカバカしいものなので、万人に有効とか限らない。
前にもちょっと書いたのだけど、一人インタビューというのを、よくやる。瞼を閉じると、幻のインタビューアーが出現するのだ。
「辻さん、辻さんの創作の根底には何があるんですか?」
「まー、そうだね、君、熱血かな」
「でも、熱血だけじゃ小説や音楽は続けられないですよね? 映画だって、完成させました。どうですか? 達成感はあります? どういう評価が出るか、怖いと思うことはありますか? いや、そもそも、辻さんはご自分が天才だと思いますか?」
「君、いい質問だけど、ぼくはね、自分は天才だと思っていると思うよ。間違いなく、思ってるに違いないだろうよ。ただ残念なことに、世の中が認めないんだ。これが、あいつら、認めないんだ。こんちくしょーめ」
「なるほど。ということは、認められたいですか?」
「白状するかね、君、実はぼくはね、小さい頃、ドキドキしていた。早く誰かぼくの才能に気づいてくれよって、小学一年生の頃にはすでに、知っていたんだ。真っ暗なベッドの中で叫んでいた。世界はまだぼくを発見してない~、いつだ~、いつ発見されるんだ~、このぼくは!!!ってね」
「そうとうなアホですね。でも、面白い。で、今は発見されたと?」
「いやいや、君、そうじゃない。昨日も、ベッドの中で思った。まだ、世界はぼくを発見してないじゃないかって。これからなんだよ、ぼくはまだひよっこだ。これから発見されるんだよ。しかし、出来ることなら、生きているうちに発見してくれ、死んだ後に発見されても嬉しくなんかない、今すぐ、発見したまえ!」
「・・・。どうやったら、発見されるんですかね」
「君、それはいい質問だ。でも、ぼくにもわからない。わかっているのは、ぼくはいつか、誰かが少しずつこのぼくという厄介な存在を発見していくだろう、ってことだけだ。残りの人生の中のどこかで、誰かが、ぼくの才能を発見するんだよ。それがちょっと予定よりも遅いのは認めないとならない。遅すぎるな。早くしないと、ぼくが死んでしまうじゃないか。おい、早く発見しろよ、何をしているんだ、このままじゃ世界が終わってしまうじゃないか!!!」

退屈日記「筆が進まない絶不調父ちゃんが、見事に復活を遂げるまでの記録」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
あと20年以内に世界はぼくがやろうとしていることを発見するとは、思うのですけど、それが、ぼくが生きているうちに成し遂げられるのか、死んでからか、そこが、よくわからないのが、悩みでもあるわけです。あはは。こういう、くだらないインタビューを自分内宇宙でやることで、ぼくはぼくを自己啓発しています。いいですか、気は確かですから、ご安心ください。ここまで書いていたら、ちょっと熱血が戻ってきました。はい。気は確かです!
さて、そんな復活傾向にある父ちゃんからのお知らせです。
さて、1月29日が迫ってきましたね。父ちゃんのオンライン・文章教室(エッセイ編)ですけど、ご興味のある皆さんは、下の地球カレッジのバナーをクリックくださいね。
今年、第一回目の熱血授業、気合いが入っておりまする・・・。

5月29日のオランピア劇場での父ちゃんの単独ライブ、これはね、たぶん、もう生涯で一度しかできないライブだと思います。間違いなく、ぼくの歴史の中で、最高の瞬間になるはずだから、見に来てほしいです。
JALパック・パリが企画したライブ翌日のランチ会が「完売」したことを受け、参加できなかった人のために、当日、追加でランチ会がもう一回行われることになりました。まだ、先のことですが、パリ旅行を計画されている皆さん、ご参考ください。詳しくはこちらの、URLをクリックしてみてください。

5月30日 辻仁成 オランピア公演記念 『感謝!Merci!』 トーク&ランチ会 《追加設定》



そして、NHKの「パリごはん」来月、新作(秋冬編)が登場をします。
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】です。ついにちくわず男の義和Dが編集に入った模様です。4か月半に及ぶ、父ちゃんのアフター子育ての記録です。引っ越しあり、三四郎との旅もあり、てんこもりですぞ。
「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分)
そして、再放送もあります。
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送

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