JINSEI STORIES
滞仏日記「ライブ近づき事務所の出入りが増え、父ちゃんと三四郎のさらなる引っ越し計画」 Posted on 2023/01/17 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、4か月後にコンサートが迫り、音楽スタッフ、宣伝マンなどの出入りが多くなってきた。というのもパリの自宅は一部がオフィスと兼用なので、会議もあれば、資料や機材も置いてあり、時々、バタバタと人が出入りする。田舎の自宅に戻りたいけれど、今、フランス向けの宣伝がスタートしたばかりなので、落ち着くまでパリに留まらないとならない。ぼくの生活している場所(事務所の奥に小さな寝床。三四郎は風呂場が家)に人が来ることはないのだけど、いちいち三四郎がスタッフさんに構って貰いたいものだから事務所に顔を出すようになり、とはいえ、ずっと風呂場に閉じ込めておくわけにもいかず、スタッフさんが顔を出す日中平日の午後、ぼくらは屋根裏部屋(現在は音楽ルームと呼んでいる)へと移動をすることになった。
昼ごはんを食べた後、散歩をし、裏口にあるエレベーターで最上階まであがる。屋根裏部屋には学生さんとかが暮らしているのだけど、うちの建物の屋根裏部屋はけっこう綺麗な造りをしており、一見すると(あくまでも一見すると、です。すいません、話を盛る癖があって)、ビジネスホテルなのである。静かだし、半分くらいの部屋は使われてないので、そこはいわば、パラダイスみたいな世界なのである。三四郎は廊下で放し飼いにしても問題なさそうだし、(今のところ)、何より、窓から見える景色が実にパリっぽくてかわいいのだ。ぼくはパリの屋根から突き出る煙突ファン。
ということで今日は朝から荷物を長谷っちに手伝ってもらって、少しずつ上にあげている。とはいえ、コーヒーメーカーとか、湯沸かし器とか、椅子とか、小さなテーブルだとか、小さな荷物・・・。来年は「こたつ」でも、買おうかな。
さすがに料理とかは出来ないけれど、小さな冷蔵庫をネットで買って、ワインとかは冷やすことが出来るようにしたい。三四郎は気に入っているようだ。
この物件は事務所を借りたらくっついてきた付帯物件なので、家賃がかからない。意外と広い。15~20平米くらいはあるのだと思う。ただ、屋根裏部屋なので、一部、屋根が斜めになっている。それが可愛いのだけれど、よくそこで頭を打つ。これは田舎のアパルトマンの屋根裏部屋と一緒である。
「先生、なんか、いい隠れ家になりそうですね」
「ちょっと、どのくらい歌うと騒音になるか、試したいので、君、廊下で、チェックしてくれないか」
ぼくは、ギターを弾き、歌った。暫くすると、長谷っちが戻って来て、ドアの隙間を確認しはじめた。隙間が5mmくらいあいている・・・。
「けっこう、響きます。ここを布で埋めたらもう少しましになりますかね。ま、でも、騒音、というほどじゃないです」
「なるほど、じゃあ、日中、一時間程度の練習にしようかな」
「それがいいですよ。それなら問題ありません」
不思議なものである。
小さな窓から、見える世界を眺めながら、今日も練習に勤しむのだった。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ところで、JALパック・パリが企画したライブ翌日のランチ会が「完売」したことを受け、参加できなかった人のために、当日、追加でランチ会がもう一回行われることになりました。まだ、先のことですが、パリ旅行を計画されている皆さん、ご参考ください。詳しくはこちらの、URLをクリックしてみてください。
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また、父ちゃんのオンライン・文章教室(エッセイ編)ですけど、ご興味のある皆さんは、下の地球カレッジのバナーをクリックくださいね。
そして、NHKの「パリごはん」来月、新作(秋冬編)が登場をします。
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】です。ついにちくわず男の義和Dが編集に入った模様です。4か月半に及ぶ、父ちゃんのアフター子育ての記録です。引っ越しあり、三四郎との旅もあり、てんこもりですぞ。
「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分)
そして、再放送もあります。
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送