JINSEI STORIES
パリ日記「未来展望。本格化する父ちゃんの2拠点生活の必要性と今後」 Posted on 2023/03/05 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、コロナ禍が峠を過ぎて、父ちゃんの2拠点生活が本格化している。
日記のタイトルも「滞仏日記」から、「パリ日記」と「ノルマンディ日記」とに枝分かれした。
まさに、2拠点生活の先端にこの日記が突入をしたことを意味している。
コロナ禍が始まった2020年の春、最初のロックダウンの最中に、都会にいることにある種の畏怖を感じるようになり、ノルマンディへの移住を決意した父ちゃん。
最初に飛び込んだ不動産屋の女社長、アンヌマリーは「ムッシュ、あなたには先見の明がある」と呟いた。
ロックダウンが解除されてすぐにノルマンディに行き、アパルトマンを探した父ちゃんは、たぶん、その後はじまるパリジャンの大移動の草分け的存在、まさに先駆けであった。いまだにこのことはアンヌマリーとの間で、語り草になっている。
「当時、ツジが真っ先にここに来て、アパルトマンがほしい、と言ったのよ。ええ、あなただった。まだ、みんな家から出るのも恐れていたマスクの時期よ。最初のロックダウンが明けてまもなくのことだった。不動産業は閑古鳥が鳴いていた時期だった。でも、あなたがアパルトマンを購入した直後、パリジャンが都会から次々逃げ出しはじめ、その翌月にはノルマンディ中のアパルトマンが品薄になったのよ。あなたが購入したアパルトマン、その2か月後には、1,5倍の値段になっていたことでしょう。ツジ、あなたの言葉を忘れないわ」
ぼくがアンヌマリーに言ったのは、
「この感染症がきっかけで世界は大きな変革期を迎える。多くの人々は人間性をもとめて大都市を脱出し、田舎での生活にシフトする。感染症の一つは収まっても、次から次に新たな問題がこの世界に押し寄せてくる。人口問題、食料危機、温暖化、・・・戦争。得体のしれない出来事がこの星の未来を暗黒にする可能性がある。そういう現代病から逃げて、ぼくらは人間性を取り戻さないとならない。新しいルネッサンス、・・・そのための田舎暮らしなんですよ」
※ 2拠点生活における食べるものの違いも、今後の課題の一つである。どのような食生活をこころがけるか・・・。上は、今日父ちゃんがこしらえたパスタ。下は田舎である日に作ったチラシ寿司。
※ パリで食べるものと田舎で食べるものとの違いも面白い・・・。
コロナは収束したかに見えたが、パンデミックがばらまいた世界の分断の芽が新たな不安をまき散らし、1年前に、ロシアがウクライナに侵攻し、第3次世界大戦前夜のようなこのいまの世界のゆがみを生み出した。
ぼくは心を落ち着かせるために、田舎に拠点をうつした。
もちろん、完全にうつすのは無理なので、2拠点生活というスタイルをとることになる。実は、多くのパリジャンが今、この2拠点生活を実践している。
ぼくの日記にたびたび登場するジャン・フランソワもその一人だ。
彼はもともと大企業の幹部だった。
きっかけはパリの同時多発テロであった。子供をここでは育てられない、と思ったのだとか・・・。
運転手付きの暮らしをしていたが、人間関係が難しいその時の責任ある仕事にも疲れを覚え、テロが大きな引き金となり、家族でノルマンディに居を移し、今はエアーB&Bのオーナーをやっている。
民宿といっても彼の場合は高級民宿を十数軒コントロールしている。中堅のリゾートホテル規模のことをたった一人でやっているイメージであろうか。まさに、先見の明がある!
同時に、付帯する不動産業や前の会社の顧問などもやっており、それらの仕事の関係で、パリとノルマンディを往復する2拠点生活を実践しているのである。
NHK・BSの「パリごはん」の一回目の放送のために、ぼくは彼のインタビューを試みた。残念なことに、その映像が使われることはなかった。
ぼくはジャン・フランソワと同じような考え方を持っていたのだ。ぼくらは、これからの世界は、この2拠点生活が重要になる、と信じていた・・・。
ジャン・フランソワと会う度に、ぼくらはこの生活の問題点と大変さ、素晴らしさを語り合っている。
いつか、そういうことを多くの人が必要とするはずだ。
もう、すでに必要としているのではないか。日本でも、奥多摩や九十九里に拠点を移して、2拠点を結んで生きている人々が増えた、と聞く・・・。
世界的な兆候なのである。
※ 上、都会のデザート。下、田舎のデザート。どっちも美味い!!!
実は数日前、ジャン・フランソワと田舎でばったり出会ったが、彼はちょうどパリから戻って来たところであった。そして、ぼくはまさにパリに出発しようとしているところなのであった。
同じ頻度でぼくらはパリと田舎とを行き来している。双子の惑星のように。
「息子と君のオランピア・ライブに行くからね」
とジャン・フランソワは言った。
「その時は、パリで同じ空間にいることになるね」
ぼくらは笑いあった。
2拠点生活の良さは、仕事と日常が分離されることにある。
仕事の時だけ、戦闘モードでパリに出向き、一気に仕事を片付けるのである。
そして、仕事が終わったら羽根を休めに田舎に戻る。あくまでも生活の基盤は田舎にあることが大事だ。
都会は仕事をする場所なのだ。
もともと、フランス人は田舎に別荘を持っていた。でも、その基盤は都会だ。あくまでも別荘は休むための場所だった。
ぼくやジャンフランソワが実践しようとしているのは、田舎をベースにして、仕事の時だけ都会に行くという生活スタイルである。
軸足を田舎に置くことで、心の深い安寧が得られる。
とくにこれからますます進むだろう世界の分断を目の当たりにしながら、生活の基礎を田舎においておくことで、自分のペースを保って生きることが出来る、という寸法である。
自分の表現スタイルも大きく影響を受けることになるだろう。
この生活の実践が今後、どのような効果を生み出すのか、ぼくにもまだわからない。
でも、ジャンフランソワとぼくは「先見の明」がある。来たるべき世界の変質に、惑わされないで生き切ることが出来ると思っている。
ぼくは今、ノルマンディの田舎で、新しい人生の設計図を描いている。このことはいつか、ジャンフランソワと話し合ってみたいものである。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
この、2拠点生活というもの、電子の世界でもできると思っているのです。電子の世界だからこそ、それが可能かもしれないと思う時もあります。しかし、これはちょっと難しい話しになるので、それに、考察中だから、また、いずれね・・・。
さて、そんな2拠点生活者でもある父ちゃんの「文章教室」が3月19日に全世界規模で開催されますので、ぜひ、ご興味ある皆さん、ご参加ください。電子の荒野で、逞しく生きるための文章教室になります。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてね。めるしー。
そして、エディットピアフも立った。ビートルズも立った。ローリングストーンズも、マドンナも、スティングも立った。オランピア劇場でのライブが近づいてきました。ファイト!
フランス国内、もしくは周辺国、あるいは日本、世界各地にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。旅慣れていない皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。
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ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。
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