JINSEI STORIES

フランス芸術日記「詩人、作家、劇作家、画家、評論家、映画監督、ジャン・コクトーの魅力」 Posted on 2023/01/16 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日はコクトーの「ぼく自身、あるいは困難な存在」を読んだ。
ジャン・コクトーをご存じであろうか?
コクトーは詩人であり、小説家であり、劇作家であり、映画監督であり、画家であり、あと何があったかな? そうだ、評論もやってた。

ジャン・コクトーのことが好きか、と問われるといつも言葉が、のどもとで詰まる。
好きだけど、尊敬しているわけじゃなく、嫌いでもないし、でも気になる存在・・・。
パリで暮らすきっかけのささやかな興味の対象の一つだったかもしれない。
ボリス・ヴィアンもそうだった。
小説はヴィアンの方が好き。
この辺の話はとくに避け続けてきた。
できれば、避けて通りたい。
好きだったし、嫌いだった。
でも、毎朝、コクトーが描いた猫の絵のカップで苦いコーヒーを飲んでいるのは事実なのだ。
あはは、嫌い嫌いは好きのうちだからである。
彼はーチャーミングだと思う。
同じ時代に生きていたら、仲が悪かったと思う。
絶対に。
 

フランス芸術日記「詩人、作家、劇作家、画家、評論家、映画監督、ジャン・コクトーの魅力」



パリから車で1時間ほどの村、ミリィ・ラ・フォレ。ここにコクトーの家(?)があった・・・。
今は美術館のようになっている。
彼の書斎や寝室や戯曲の書きかけだとかファッショナブルな写真などが展示されている。
正直、とくに何か心惹かれるものがあるという場所ではないのだけど、コクトーはフランスのあちこちに、こういう一時期住んでいた、今は美術館、みたいなところがある。
移動が多かったのだろう。
 

フランス芸術日記「詩人、作家、劇作家、画家、評論家、映画監督、ジャン・コクトーの魅力」

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そこから車で5分ほどのところにコクトーが内装を施したサン・ブレイズ・デ・サンプル(Saint-Blaise-des-Simples)礼拝堂がある。
ここは昔、ライ病患者用病院の付属礼拝堂であった。
だからか、今も敷地内には当時治療に使われたと思われるハーブがたくさん植えられてある。
そして、この礼拝堂の中にコクトー自身が眠っている。
眠っているのだ。それは凄い。
礼拝堂の中の墓石にはJe reste avec vous(私はあなた方と一緒にいます)と彫られてある。
さすが、詩人だ。

エディット・ピアフの信奉者で、なんと彼女が死んだその同じ日に彼女の死の衝撃のせいで心臓麻痺を起こし、ジャン・コクトーは他界したのだという・・・。
それも凄い。
ピアフはぼくも大好きだから、共通点、発見。
そういうことも何一つ知らない無知なぼくは礼拝堂の中で正直に「私はあなたが気になったが、嫌いだった」と告白してしまった。
でも、正直な言葉だったけど、言ったあと、私もだよ、と聞こえた気がした。あはは。
だから、礼拝堂には3分もいられなかった。確か前回来た時も3分で出た。
よっぽど気になる存在なのだろうなぁ、と思う(笑)。
 

フランス芸術日記「詩人、作家、劇作家、画家、評論家、映画監督、ジャン・コクトーの魅力」



フランス芸術日記「詩人、作家、劇作家、画家、評論家、映画監督、ジャン・コクトーの魅力」

 
そもそもコクトーの幼稚な絵が好きじゃない。
帰りがけ、ショーウインドーに並べられていた皿やコーヒーカップが目に留まった。
お、あの猫の絵が描かれている。
しかも、1959という特別な数字まで。
1959年とは、コクトーがこの礼拝堂を改修した年だそうだ。
私はその皿を2枚、カップを1つ、小皿を3枚買い、店員さんに「そんなに買う人はいないわよ」と褒められた。
「いや、この絵はそんなに好きじゃないんだけど、たまたま1959年って、ぼくの生まれた年なんですよ。珍しいからね」と言ったら、この皮肉を彼女はとっても気に入ってくれて、お皿を1枚タダにしてくれた。
フランス人というのは実に面白い。
そういうフランス人が好き。 
 

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コクトーはいったい何をしたかったのだろう、と礼拝堂を出た時に思った。
ぼくは礼拝堂を振り返った。
そこが嫌いだったわけじゃなく、でも、居心地がいいというわけでもなかった。
何か、彼の内部にもぐりこんだような落ち着かない気持ちにさせられた。
コクトーのことを自分は何か知っているだろうか、と振り返ってみる。
思い出せるものは彼が描いたイラストばかりだった。
そして、あの青白いどこか三島由紀夫的な不健康な顔。
しかし、全部がとってもフランスっぽい、と思った。
モノクロの彼の映画を学生の時に観ながらそう思ったことを思い出した。
鏡の中の自分と向き合う非常にナルシスティックな映画だった。

ミリィ・ラ・フォレのコクトーの家の中で唯一足が止まった場所があった。
それはコクトー自身が喋っている、壁に埋め込まれたテレビジョン。
口早に、彼が何かについて語っていた。
耳を傾けた。ジャズについての論説じゃないか。
ぼくはしばらくその人の喋る、奇妙な姿を見続けた。

ああ、この人があの猫の絵を描いた画家なんだ、と思った。
 



フランス芸術日記「詩人、作家、劇作家、画家、評論家、映画監督、ジャン・コクトーの魅力」

 
ミリィ・ラ・フォレを離れる時、礼拝堂で見たコクトーの言葉が聞こえてきた。

「私はあなた方と一緒にいます」

確かに、いるな、と思った。
この人はぼくにとってそういう存在なのかもしれない。 
 

フランス芸術日記「詩人、作家、劇作家、画家、評論家、映画監督、ジャン・コクトーの魅力」

さて、ええと、お知らせです。ああ、こういう自分が嫌い。
えへへ。
NHKの「パリごはん、秋冬編」放送日ですが、
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】なのです。
「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分)
そして、再放送も!
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】

ついでに、命をかけたパリ「オランピア劇場」でのライブ、5月29日、・・・あと、4か月半、おおお、近づいてきましたね。よっしゃー、熱血~。
朗報です。在仏の皆さん、フナックでチケットゲットできますよ!!!フナックのチケット売り場で堂々と発売中です。
それから、オランピア劇場ライブの翌日に、JALパックさんが企画をし、ぼくがよく知るレストランで、せっかくだからランチ会をやることになりました。ぼくも顔を出し、トークをやる予定ですので、せっかくパリに来られる皆さま、よろしければ、どうぞ、ご参加ください。JALパックさんに相談をすれば、モンサンミッシェルなどのツアーも・・・。この機会に、ぜひ。
詳しくは、こちらのURLをクリックください。

5月30日 辻仁成 オランピア公演記念 『感謝!Merci!』 トーク&ランチ会 《追加設定》



続いて、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」はこちらです。ルクセンブルグで28位とお伝えしましたが30位から圏外に落ちたのに、今日、また29位にランクインしたんです。ルクセンブルグ大公国に感謝!!!
無料でも聞けます。ってか、ほとんど無料に近いですので、思う存分楽しんでください。


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