JINSEI STORIES
滞仏日記「ぼくは移民? それとも移住者? 或いはエトランジェ?」 Posted on 2023/01/13 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくはいつも何気なく、こうやって滞仏日記を紡いできたわけだけど、この日記も、今日のこの日記で、3453本目、となる。
おお、まぁ、毎日、飽きもせず、よく書いた。(;^_^A
滞仏日記の「滞仏」って、フランス國に滞在して、という意味で、つまりは20年近くフランスで生きているということを指している。
これって、もしかしたら、すごいことなんじゃないか、と今頃、気が付いてしまった。
しかも、今は確定申告の真っ最中で、笑、20年もここで納税してきた。
文房具や楽器などを買った領収書を整理しながら、うわ、こんなの20年もやってきたんか、と思った次第である。
そしたら昨日、デザインストーリーズの「パリ最新情報」を読んで、フランスの年金制度が変わる可能性が出てきたらしい。そのことで、デモが吹き荒れるかもしれない、という内容であった。(編集長のぼくだが、パリ最新情報の一番の読者でもある。あはは)
ところで、このぼくも、年金制度が変わらなければ、再来年くらいから年金が支給されることになっている。これまた、すごいことじゃないか。
日本で生まれたのに、フランスで年金がもらえるだ、なんて・・・。なんまんだ。
「ふらんす物語」を書いた作家の永井荷風は1907年の7月から10か月だけパリで暮らしている。
20年暮らした父ちゃんは、ある意味、すごいんじゃないかぁ。
で、先日、新聞記者さんに、
「辻さんは移民さらたんですか?」
と訊かれた。
これ、訊かれたの初めてだった。
皆さんは、「移民」の定義、つまり移民とは何かについて、わかります?
辞書を調べると、
移民とは「労働に従事する目的で外国に移り住むこと。また,その人。〔現在では,多く移住の語を用いる〕」と出てくる。
なんとなく、島国の日本で「移民」というと、「不法移民」とか、そういうイメージが多く付きまとうのだけれど、実は「移民」という言葉の明確な定義はあいまいだったりする。
国連などに問い合わせると、国際移民というものに明確な国際的定義がない、という前置きがあり、ただし、専門家によると、いかなる理由にかかわらず、定住国を変更した人を「国際移民」と呼んでいる、のだそうだ。
ぼくも知らなかったが、3か月から1年間の短期的移動を「一時的移住」といい、それ以上の居住国変更を「長期、または恒久移住」と呼んで区別しているのだ、とか。
となると、ぼくも「国際移民」ということになり、「移民です」と言ってもおかしくはない、ということになるのかもしれない。
もっとも国籍の変更などはないので、国際移住者が正しい表現かもしれないのだけれど、あ、いや、それでも「移民」か・・・。
実は、ここパリ、何世代もずっとフランス人という市民ばかりではない。
何世代か前にぼくのようにこの国にやって来た人の子孫がフランス人になって、首都パリの人々が「パリジャン」を名乗っていたりする。
実はぼくもれっきとした「パリジャン」なのである。(3世代暮らしていないと名乗れない江戸っ子の定義とは異なる)
欧州は地続きなので、英国系のフランス人、イタリア系、ドイツ系、スペイン系、アラブ系、ロシア系、中国系、ベトナム系、などなど、本当に多種多様な人々で構成されているのが、パリの人、ということになる。
カミュの代表作「異邦人」、仏語だと「étranger (エトランジェ)」となる。ぼくもエトランジェなのだ。
スティングが作詞作曲した「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」はニューヨークに移住した英国人作家のことを歌った歌で、ぼくはそれをもじって、「ジャパニーズマン・イン・パリ」という替え歌をたまに友人たちの前で歌ったりしている。
※ 朝日新聞の父ちゃんのインタビュー記事。
で、朝日新聞に新年早々に小さなインタビュー記事が出た。
ぼくは実物を持っていないのだけれど、dancyu植野編集長から写真が送られてきたので読んだ。小一時間、話したことがよくまとめられている記事であった。
ぼくのバンド、今度オランピアのステージにあがる父ちゃんバンドのメンバーは、ブラジル人、フランス人、アルジェリア経由イタリア系フランス人?、日本人という組み合わせなのである。(一人メキシコ系っぽい謎のベーシストもいる。笑)
前まで、ポーランド系ロシア人もいたし、グアドループ人もいた。
まさにエトランジェ・バンドなのであった。
でも、このメンバーが叩き出すグルーブは、世界中のビートが存在するからこそ、唯一無二のメランジェ(混ざりあった)ワールド・ビートなのである。
長期移住者であるぼくが見つめるこの世界は、永井荷風先生が見つめたあの世界とどれくらい違っているのだろう。
そう、考えると、今のぼくの立ち位置が面白く思えてくる。
世界への羨望をもっていた幕末の志士たち、たとえば、坂本龍馬が今、生きていたら、彼はどの辺の国に移住していたことだろう。そう考えると、面白くなってくる。
生きていることは、実に、無限で、面白い。
生きている限り、この世界を堪能してやろうじゃないか。
熱血!
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
いやぁ、20年は長かったです。いったい、父ちゃんは最期をどこで迎えるのでしょうね。ずっと旅を続けていくような気がするので、フランスにもいないような気がしてなりません・・・。不思議だぁ。
さて、1月29日に、オンライン・文章教室をやります。オンラインで世界と繋がる、この面白い時代に、日本語を徹底的に学んでみましょう。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいね。
さてNHKの「パリごはん」、またまた、新作が登場します。三四郎ファンの皆様、お待たせしております。チェックお願いします。
「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分)
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送
で、しつこいようですが、5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブ、やるよ!!!
5月29日のオランピア劇場ライブの翌日に、JALパックさんが企画をし、ぼくがよく知るレストランで、せっかくだからランチ会をやることになりました。ぼくも顔を出し、トークをやる予定ですので、せっかくパリに来られる皆さま、よろしければ、どうぞ、ご参加ください。JALパックさんに相談をすれば、モンサンミッシェルなどのツアーも・・・。この機会に、ぜひ。
詳しくは、こちらのURLをクリックください。
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続いて、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」はこちらです。無料でも聞けます。ってか、ほとんど無料に近いですので、思う存分楽しんでください。音楽が危機的な状況ですけど、ミュージシャンたちは頑張っています。
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