JINSEI STORIES
滞仏日記「ついに、父ちゃん三四郎隊、フランス国境を超えてスペインへ」 Posted on 2023/01/08 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、サンジャンドリュズにマカロンの元祖が存在するという噂を、出発前に訊きつけた父ちゃん、さんちゃんを連れて、サンジャンドリュズのマカロン屋を探したのだった。
これこそ、旅の醍醐味である。
予定がいい加減なので、何時までにどこへ行けみたいなものがない。集合も解散もなし。あはは。
サンジャンドリュズを彷徨うこと数十分、ついに、元祖マカロンを見つけた。
これであーる。おお、シンプルだぁ。
ここからピエール・エルメはあのイスパハンのマカロンを創作しただなんて、素晴らしすぎないか。とりあえず、齧ってみた。
え? これ、食べたことがある。
こ、この元祖マカロン、日本の丸ボーロ? いや、ぶっせ? 「ぶっせ」もフランスが発祥? そうか、なるほど。
でも、ともかく元祖マカロンは日本人にはなじみの味なのであった。
昼過ぎまでサンジャンドリュズを満喫した父ちゃんと三四郎(サンシーは、もう、浜辺に降りていけないこんな海の街は犬的には意味がないわん、と不機嫌極まりない状態)、相談をしあって、やはり、初志貫徹、スペインまで足を延ばそう、ということになったのだった。えへへ。
実は、グーグルマップを見たところ、もう、スペインは目と鼻の先なのである。じゃあ、行ったるべ。
おおお、ついに。
しかし、バレンシアは遠すぎるので、フランスから一番近い街、サンセバスチャンを目指すことにした。
とりあえず、まずは・・・。
とりあえず、今のところ・・・、
サンセバスチャンはホタテのカタチをした湾を持つリゾート地で、山と海に面しており、新鮮な海の幸、山の幸に恵まれ、ミシュランの星付きレストランのみならず、日本の居酒屋的な小皿料理のスタンドバー、タパスも数多く存在する、酒のみ父ちゃんにはたまらない避暑地なのであーる。
三四郎とタパス巡りをし、呑み歩くのもいいかもしれない、ということで、一気にスペイン熱が膨らんだ父ちゃん三四郎隊であった。←自分だけで、さんちゃんは関係ないんじゃないですか、というご意見、ごもっともです。
ということでホテルをチェックアウトして、ぼくらは一路、スペインを目指すことになったのだけれど、・・・。
「パパしゃん、スペイン語大丈夫わん?」
と心配するサンシー坊であった。
「大丈夫だよ。スペイン語もフランス語も同じラテン語から派生してんじゃん。屁の河童だぜ」
だいたい、賢明な読者の皆さんはこの時点で、先読みをされたことであろう。
ああ、スペイン語がわからなくて、この後、大変が待ち受けているんだろうな、と。
ふふふ、ご名答。
うわああ、不意に、高速の看板が、スペイン語になったぁぁぁ~。
わ、わからんちん!!!!!!!!
いきなり、絶体絶命状態になった父ちゃん、ハンドルを握りしめる手に汗が。その様子を見て、不安になった三四郎であった。
「サンシー、どこからがスペインだったの?」
「パパしゃん、ぼくまだ生まれて15か月だから、わかるわけないわん」
「なんだ、あの文字! 読めないじゃないか。そもそも、父ちゃん、ラテン語なんか知ららないんだもん」
同じ高速道路なのだけど、ある瞬間から、多分、国境を越えたあたりで、標識がすべて、スペイン語に変わったのだった。凄いぜ、ヨーロッパ。しぇんげん条約!
読めるのは「San Sebastián」くらいで、あとはわからんちんなのである。
しかも、一瞬、携帯の4Gが使えなくなってしまったじゃないか。衛星回線を使っているワーズ(GPS)が黙ってしまった。いきなり、宇宙に放り出されたような不安に襲われた父ちゃん一行であった。
暫く、標識だけを頼りに走っていたが、途中で、GPSが復活・・・。
「次を右に降りてください」
「おお、接続された」
たぶん、国境を越えた瞬間、スペインの携帯会社の電波に変更になったのである。その数分間だけ、GPSが黙ったのであろう。
やれやれ。冷や汗ものであった。
ともかく、父ちゃん三四郎隊はまもなく、サンセバスチャン市内へと入ったのであった。
あ、ちなみに、フランスを出る前に今回は先にホテルを予約しておいた。
というのも、国が違うので、犬事情がさっぱり分からず、犬を受け付けるホテルが見つからない場合は、野宿ということも考えられたからである、・・・。
これは賢明な判断であった。
というのも、ホテルに到着してわかったことだが、スペインのレストラン、犬が入れない店が多いらしい。
実際、ホテルの人に、館内で、唯一レストランとバーにだけ、犬は入れません、と注意をされてしまった。
サンシー、すまん。ここはフランスとは違うみたいだ!
サンジャンドリュズの海は犬が禁止だった。果たして、サンセバスチャンのラ・コンチャ湾の浜辺はどうなのであろう・・・。不安を抱えながら、早速、海を目指した父ちゃん&三四郎の前に待ち受けていたのは、
「おおおおお!!!!!」
な、なんと、犬パラダイス・ビーチであったぁぁぁ。凄い、もの凄い数のわんちゃんが、走り回っている!!!
ということで、三四郎のリードを外して自由にさせてあげることに。
さんちゃんは数日ぶりに、自由の身となり、浜辺を他のお犬様たちと走りまわったのであった。
ああ、なんて、幸福な眺めであろう。
しかも、犬に国籍的な偏見も言語的な隔たりもない。様々な犬種が三四郎の周辺に集まって来て、三四郎は一瞬で、サンセバスチャンの人気者になったのであった。
めでたし!!!
ひゃっほー、スペイン到着!!!!
やったね、サンシー!
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ついに、我々はスペインにたどり着いたのでした。長旅でしたが、到達した喜びに勝るものはありません。長閑で、パリよりもうんと穏やかな気候のサンセバスチャン、ぼくらは満喫をしています。暫く、ここに滞在をして、その先のことを考えることにしますね。声援、ありがとうございます。千キロ以上は走破したことでしょうね・・・。愛車にも感謝です。
さーて、毎度、お知らせです。
次の地球カレッジ「文章教室」は、1月29日、日曜日に開催されますよ。
「エッセイの書き方教室、第1回」。
今回の地球カレッジ「文章教室」は、どうやってエッセイを構想し、実際に書き、また、推敲をしていくのか、についての講座となります。課題応募されたエッセイの中から選ばれた数本のエッセイを、辻仁成が細かく指導、推敲、研磨していきます。
「エッセイ依頼内容」
今年最初の課題は、また一から、食にまつわるエッセイとなります。
「お子さんやパートナー、家族、同居人に日々作る、作ってもらっている、頂いている、ごはん。外食も含め」について、その人生の深部、喜怒哀楽を書いてください。題して、「日々のごはん」です。字数は1000字前後、1500字以内、とします。締め切りは1月22日とさせていただきます。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。
それから、2023年5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブやります。
5月29日のオランピア劇場ライブの翌日に、JALパックさんが企画をし、ぼくがよく知るレストランで、せっかくだからランチ会をやることになりました。ぼくも顔を出し、トークをやる予定ですので、せっかくパリに来られる皆さま、よろしければ、どうぞ、ご参加ください。JALパックさんに相談をすれば、モンサンミッシェルなどのツアーも・・・。この機会に、ぜひ。
詳しくは、こちらのURLをクリックください。
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続いて、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」はこちらです。無料でも聞けます。ってか、ほとんど無料に近いですので、思う存分楽しんでください。音楽が危機的な状況ですけど、ミュージシャンたちは頑張っています。
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