JINSEI STORIES
滞仏日記「昔は息子と父子旅だった。今は三四郎と父子旅2がスタートした」 Posted on 2023/01/05 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくは、シングルファザーとして生きなければならなくなった時、まず、一番心配だった小学生の息子と、旅をはじめることをした。
ご存じのように、「父子旅」と名付けられることになった。
ぼくらは世界中を旅することになる。
家が冷たい空気に包まれていた頃、息子を連れて二人きりで旅に出るようになった。
最初に選んだ場所は冬のストラスブールであった。
その時、息子は「パパがおじいちゃんになっても、一緒に暮らそうね。ぼくの家族と」と言ってくれたのだ。
あの一言がぼくをその後、今日まで支え続けてくれている。
その子も大学生になった。
そして、ぼくらの父子旅は終わりとなった。
欧州のほぼ全域、そして、アフリカや東欧、ロシア、アイスランド、アメリカ、日本の北海道から沖縄まで、ぼくらは何十万キロもの長い旅を敢行した。
成人になり、巣立っていった息子とは旅をしなくなった。
そこで、ぼくは三四郎を連れて父子旅2を続けようと思いたったのだ。
血は繋がっていないが、三四郎は子犬ではあるが、ぼくの子供のような存在である。彼との旅の中で、ぼくはぼくを振り返ることが出来るに違いない。
彼は語らないが、ぼくに寄り添ってくれる大切な存在なのである。
それにしても、欧州は、犬との旅が実に快適である。
犬連れで旅をしている人は多い。空港でもよく犬を見かけるし、犬連れ家族への理解はかなり寛大と言える。
ほとんどのカフェやビストロは犬連れを歓迎してくれるし、お客さんも笑顔を向けてくれる。もちろん、犬連れがダメな場所もあることはあるが、日本と比べると圧倒的に少ない。(なぜか、高速のサービスエリアで犬は禁止というところがあった。初めての経験だったけれど、理由を知りたいと思った。他は全部大丈夫だったので)
今、ぼくは中央フランス、トゥール市と高速の間あたり、のどこだかよくわからない小さな街のシティホテルに滞在しているが、
「問題ありませんよ。ただ、犬は一匹、15€かかります」
と言われた。
人間一人分に比べればかなり安い。
なんで、15€かかるのか、部屋に入ってわかった。
犬用のベッドと、犬の餌入れ、水入れが準備されていたのだった。
でも、三四郎はホテルが用意してくれたベッドは気に入らないみたいで、笑、普通の椅子に飛びのって、
「ここがぼくの場所だよ」
という顔をした。
うちは、自己申告、言った者勝ち社会、なので、
「いいよ、じゃあ、そこで寝なさい」
となった。
絶対、ベッドにはあげない。
厳格なルールを作って、それを守らせることでダメなものがあることを彼は学んでいる。息子が今、お金の価値観を学んでいるのに似ている。
レストランで、人間が食べているものを欲しがらないように躾けるのはぼくの大事な仕事なのであった。
住み慣れた家ではない、いつもとは異なる場所でぼくらは寝泊りをした。
同じ部屋で寝るのははじめてのことになる。この旅のあいだはずっと、狭いホテルの一室、相部屋になる。
今も、彼は椅子の上で寝ている。
彼を起こさないように、ぼくはこの旅日記を暗い部屋のベッドの上で書いているのだ。
あと、2時間くらいしたら夜が明けるので、朝ごはんを食べて、出発することになる。
旅をしているあいだ、ぼくはいろいろなことを考えている。
普段は振り返らない過去などを振り返ることもある。
不確実性の高い未来について、想像することもある。
もちろん、旅をしていても仕事は容赦なくやってくるので、それを捌きつつ。
ずっと書き続けてきたツイッターの「おやすみ」と「おはよう」をやめたので、日本時間を考えないでよくなった。
ちょっと寂しいけれど、その分、時間を気にしなくてよくなって、好きな時に、早寝が出来るようになったのであった。あはは。
さ、どこまで行けるかちょっとわからないけれど、旅を続けよう。
天気と相談をしながら、進路を決めたい。
遠くの空は晴れている。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
パソコンを二台、持ってきました。携帯も二台。ハードディスクも二台ありますので、ほぼ、どこでもあらゆる仕事が出来る態勢になっています。どこにいても仕事が付きまとうのは、生きているのだから仕方がないことですが、「買い物」「掃除」「食事の心配」などしないで済むのがいいですね。ホテル生活は、大いなる気分転換になります。ホテルの受付の女の人がやさしかったのが嬉しかったです。
ということで「文章教室」の、お知らせです。
次の地球カレッジは、1月29日、日曜日です。
「エッセイの書き方教室、第1回」。
今回の地球カレッジ「文章教室」は、どうやってエッセイを構想し、実際に書き、また、推敲をしていくのか、についての講座となります。課題応募されたエッセイの中から選ばれた数本のエッセイを、辻仁成が細かく指導、推敲、研磨していきます。
「エッセイ依頼内容」
今年最初の課題は、また一から、食にまつわるエッセイとなります。
「お子さんやパートナー、家族、同居人に日々作る、作ってもらっている、頂いている、ごはん。外食も含め」について、その人生の深部、喜怒哀楽を書いてください。題して、「日々のごはん」です。字数は1000字前後、1500字以内、とします。締め切りは1月22日とさせていただきます。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。
それから、2023年5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブやります。
パリ・オランピア劇場公演のチケット発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。
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フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、
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続いて、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」はこちらです。無料でも聞けます。ってか、ほとんど無料に近いですので、思う存分楽しんでください。音楽が危機的な状況ですけど、ミュージシャンたちは頑張っています。
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https://linkco.re/2beHy0ru