JINSEI STORIES
滞仏日記「サヨナラ、長谷っち。でも、年末に、幸福な結末が待っていた」 Posted on 2022/12/29 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日はプロモーターのベルトランと、オランピア劇場の宣伝を担当するサラさんと、カフェミーティングがあった。
長谷川さんに通訳をお願いしていたのだが、やめたい、と昨日言われたので、別の人に、通訳をお願いすることになった。
サラとは、ライブ終了まで宣伝を担当してもらうので、契約を交わさないとならず、通訳の専門家がどうしても必要だったのだ。
この件で、朝に「通訳するのは前からの約束でしたし、お給料頂いているので参加させてください」と長谷っちからメッセージが入った。でも、無理させたくないので、「今日は大丈夫だよ」とお伝えをしたのだ。
「その代わり、ランチでもしながら、今後のことを話そうよ」
ということで、午前中は超大事な宣伝会議に・・・。
フランスではあまり知られてない父ちゃんの音楽を一気に広め、オランピアを満杯にさせるための宣伝活動が、サラさんの仕事であった。まずは、やる気があるのか、それから何が出来るのか、やれば満杯になるのか、などを話し合うことになった。
「サラ、ぼくの音楽、どう? 聞いてくれましたか?」
「とってもいいですね。受けると思いますよ。私は空とZOOが好きだった」
まずは、合格点。今日のミーティングに音源を聞かずに来るような宣伝マンなら雇えないなぁ、と思っていたので、・・・よしよし。
サラはぼくが過去に受けた取材(パリマッチやエクスプレスなど)をすべて調べてチェック済みであった。
ベルトランが口を挟んだ。
「まだ5月29日のライブまで5か月あるけれど、今、2000席のうち、400枚くらいのチケットが売れてる。特に、200€(3万円弱)のVIP席は完売したんだ。まずまずの滑り出しだと思う。1月になってフライヤーなどを撒き始め、3月、4月、5月で集中的に宣伝をやって、売り切りたい。サラ、君の戦略をきかせてほしい」
サラは30代の元気はつらつ、聡明な女性であった。
何か言うと、即座に返事が戻って来る。
ジャパンエキスポなど日本の文化系のイベントをこれまで多く担当してきた、数少ない日本通でもある。
「ムッシュ辻は、小説家として読者がいるのはリサーチでわかりました。音楽と小説を結びつけるのがやはりいいと思う。まだ、小説は読んでないですが、日本文化に興味ある人は多いので、そこを繋げることを考えます。1月は仕込みをやり、2月くらいから、取材などを開始して、3,4月にテレビに出演してもらい、音源をラジオなどで広めていきます」
「テレビ?」とぼく。
「ええ、前回、私が担当したアーティストがテレビ出演をし、チケットが売り切れたんですよ。文科系テレビ(アルテやTF1など)を通して情報を収集する人がまだフランスは多いんです。オランピアでライブをやった作家はいないので、そこも話題になるでしょうし、出版社の力も借りれたら、と思っています。あとは、日本文化のコミュニティをフル活動して、辻さんがやってきた映画や他の仕事も、そこにミックスチャーさせたい」
このような話し合いが2時間ほど続いたのであった。この人で行こう、と思った。サラと握手をして、ぼくらは別れることになった。笑顔の素敵な人だった。
長谷川さんがぼくの仕事のアシスタントをしてくれてから、彼に意見を求めることが多かったので、なんとなく、寂しい、というのはあるけれど、引き留めるのも違うかな、と一日考えて、ぼくは結論を、すでに、持っていた。
長谷っちに、打ち合わせが終わったので合流しましょう、とSMSメッセージを送った。
ぼくたちは、中華系の手打ちうどんのお店でランチを食べることになった。
「長谷っち、ぼくにいい考えがある」
まずは注文をしてから、切り出した。(ここの豚ひき肉のうどんが最高なので、それを二つ注文したのである。えへへ)
「やはり、仕事は君が望んだとおり、やめたらいい。今月いっぱい。だからもう、終わりということになる。でも、一日考えたんだけど、ぼくの弟子になりたい、という君の夢を叶えてあげたい」
「え? いいんですか?」
長谷っちの顔がパっと明るくなった。
これまでは仮弟子ということになっていた。見習いであった。
働きながら、3か月ほど、様子を見て、いけると判断をしたら、弟子にする、と約束していたのだ。見習い期間は終わった。
たしかに、仕事が続けられなければ弟子になって何をするんだ、ということになるけれど、今の彼には弟子入りが励みになるのじゃないか、と思ったのだった。ぼくは、彼に、言葉では言えないほどの感謝がある・・・。
「とくに、弟子にしたからといって、何もしないけれど、君の小説をたまに読んで、アドバイスをするくらいならできる。たまに、呑んだり、喰ったりしながら、話し合うことも出来る。そういう師弟関係でどうだい?」
「ほんとうですか?」
「ああ、ほんとうだとも。ぼくが仕事で日本で身動きがとれなかったあの時期、三四郎と離れて暮らさないとならなかったあの長い期間、そして、しかも、引っ越しが重なり、その中心的な仕事を君が手伝ってくれた。つまり、君は合格したんだ。君は慣れない仕事に疲れ、やめたくなった。それはぼくに責任がある。逆を言えば、君には感謝しかない。三四郎も君に懐いている。たまに、三四郎と遊んでもらえればそれでいいし、これは仕事じゃなく、三四郎と君との関係だから、その辺は君の判断に任せるけれども」
「先生、もちろんです。三四郎は大好きですから」
三四郎が、長谷っちを見上げた。ぼくはサンシーの頭を撫でた。
「よし、ともかく、弟子になってくれよ」
「ありがとうございます」
長谷っちの目が赤くなっていった。
ま、これが、本年度、最高の幸福な結末ではないだろうか?
皆さん、これでよかでしょうか?
では、ご一緒に。
「合言葉は、熱血~」
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
いやぁ、長谷川さん問題はこれが一番の着地点でしたね。そして、ベルトランは燃えています。カメルーン系フランス人の彼にとって、ぼくのコンサートを成功させることは、彼自身のキャリアにも大きな成果となるはずですから。新登場人物のサラさんにぼくは期待をしています。フライヤーも5000枚できたので、ぼくの音楽におけるアシスタントのマコちゃんが、こつこつ、市内、配り始めます。(パリの日本のお店の皆さん、ご協力ください。マコさん、長谷川さんにかわって、よろしくお願いいたします)
とまれ、幸福の結末にかんぱい!!!!
さて、次の地球カレッジは、来年の1月29日、日曜日になりました。課題を書き参加されたい皆さん、以下をご参照ください。
「エッセイの書き方教室、第1回」
今回の地球カレッジ「文章教室」は、どうやってエッセイを構想し、実際に書き、また、推敲をしていくのか、についての講座となります。課題応募されたエッセイの中から選ばれた数本のエッセイを、辻仁成が細かく指導、推敲、研磨していきます。
「エッセイ依頼内容」
今年最初の課題は、また一から、食にまつわるエッセイとなります。
「お子さんやパートナー、家族、同居人に日々作る、作ってもらっている、頂いている、ごはん。外食も含め」について、その人生の深部、喜怒哀楽を書いてください。題して、「日々のごはん」です。字数は1000字前後、1500字以内、とします。締め切りは1月22日とさせていただきます。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。
父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、実は、中華料理との相性も抜群なんです。このアルバム聞きながら、喰らいつく中華刀麺はもう、超・ソウルフルですからね。中国手打ちうどんの弾力に負けない、父ちゃんの音楽、跳ね返りますよー。
長谷川さんには一日も早く元気になってもらい、ジャパニーズソウルマンを、がんがん聞いてもらいたいものです。はい。
☟
https://linkco.re/2beHy0ru
それから、来年、2023年5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブやります。
パリ・オランピア劇場公演のチケット発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。
☟
https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/
フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、
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https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/