JINSEI STORIES

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」 Posted on 2022/12/24 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、一仕事が終わり、疲れたのか、昨夜はよく寝付けず、明け方までベッドの上でごろごろ考え事をしていた。
ぼくは毎年、年末に次の一年の自分の目標を決めることにしている。
今年は、すでに来年の5月29日のオランピアを成功させるのが大目標なので、そこまでどういう生活をおくるのか、が課題ということになる。
ま、前半は健康維持&体力づくり、そして歌とギターがメインになるのだろう。※ 新作小説は、再来年を目標にしたい。
仕事部屋の一角にマットを敷いて、ローラー運動を始めた。
これはぼくの健康維持に欠かせない道具である。
人間はだんだん身体を動かさなくなる。
筋が強張り、筋肉が堅くなるので、ローラーで緩めて、常に、柔らかい肉体を維持しないと、声も出なくなる。
今日は、ちょっと離れた地区にあるお気に入りの商店街まで、三四郎を連れて、買い出しに行った。

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」



滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」

飼い主の顔は覚えていないのだけれど、なぜか、この街の犬の顔はだいたい覚えたかもしれない。
この周辺に柴犬が数匹いるのだけど、その中の一匹に「つんどら」という子がいる。
飼い主は女性二人(かっぷるだと思う)で、いつも、そこかしこでお会いするので、向こうも「三四郎」のことは覚えてくれた。
もちろん、飼い主はほぼ素性を明かさない。
なので、ぼくもその人たちの名前は知らない。今日は髪の短い方の女性だけだった。
「ぼんじゅーる」
「ぼんじゅーる」
ぼくらは笑顔だ。ぼくがしゃがむと、柴犬はぼくの傍にやってくる。
「君は、日本の血をつい出るんだぞ」
(一昨日の日記で書いた柴犬とは別の子)最近、フランスは柴犬だらけ。
有名なユーチューバーが飼ったのが始まり。彼は日本まで柴犬を引き取りに行ったのだ。その直後、フランス人がこぞって柴犬を飼うようになった。
柴犬はぼくが日本人とわかるのか、すべての柴犬がぼくのところにやってくる。で、最近不仲の三四郎が焼きもちを焼く、という構図であった。
攣りあがった目が可愛い。あいきょうがある。
「この子のお父さんが日本から来たの。この子はこっちで生まれたのよ」
十斗と一緒だ、と思ったけれど、余計なことは言わなかった。
「良い一日を」
ぼくは立ち上がり、彼女にそう告げた。
柴犬と一緒に、ずっと笑顔でぼくを見送ってくれた。穏やかな朝であった。

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」

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商店街の入り口のいつものカフェでカフェオレを飲んで、新聞スタンドにちょっと立ち寄って、商店街を端から端まで歩いた。
実は離婚する前、この辺に住んでいたのだ。
あまり、今は思い出すこともなくなったが、生まれたばかりの十斗を背負って、よく買い物してたっけ。
でも、今はこの黒い子犬がぼくに寄り添っている。仲良くしようね、さんちゃん・・・。

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」



イタリア人がやっている惣菜屋が商店街の中心にある。
そこで、ミラネーゼを一枚買った。5€である。
十斗がいたら3枚は買うけど、一人なので、1枚。
しかも、その一枚も食べきれるものじゃない。衣をはがして、三四郎のおやつになる。
戻って、パスタを茹でた。マーシャルから貰った野菜がいろいろとあったので、ミネストローネスープを作った。
多めに作った。明日も食べればいい。
健康のために野菜は大事である。にんにくたっぷり、乳化でとろとろの父ちゃんのペペロンチーノ。
あはは、全部、イタリア料理だね。金曜日のランチはイタリアンが似合う。

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」



窓から差し込む光りをじっと見つめながら、静かなランチとなった。
2022年も終わるのだ、と思った。
でも、5月のライブがあるので、年をまたぐという気もちが起きない。
目標に向かって、どうやって体調を管理し、ベストのライブをやるか、だけにぼくは集中している。
なので、これまでと年末の在り方がちょっと違うような気がする。
すくなくとも、人生というのは長く、曲がりくねっているので、いくつかの目標があると、頑張ることができる、ものだ。
小学生の頃、ぼくは次の電信柱まで頑張ろうと思って歩いていた。
電信柱に着くと、その次の電信柱を見て、そこを目指す。
今のぼくにとって、オランピア劇場でのライブは、次の電信柱なのである。
そこへ向かって歩くことが出来ることを「充実」と呼んでも差支えはないのだろう。
年末の商店街で、仔牛のカツレツを一つ買って、三四郎と家路に向かう間中、ずっと、ぼくは、今日も元気に生きることが出来ていることに感謝を覚えていた。

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
パリには電信柱がないので、かわりに、街灯でしょうかね。次の街灯を目指しながら、三四郎と毎日、歩いているところです。こうやって、なんとか、2022年が無事に終わってくれることを祈るばかりです。
さて、次の地球カレッジは、来年の1月29日、日曜日になりました。まだ、発表にはなっていませんが、課題を書き参加されたい皆さん、以下をご参照ください。
ちょっと、変わる可能性もありますが・・・。
「エッセイの書き方教室、第1回」
今回の地球カレッジ「文章教室」は、どうやってエッセイを構想し、実際に書き、また、推敲をしていくのか、についての講座となります。課題応募されたエッセイの中から選ばれた数本のエッセイを、辻仁成が細かく指導、推敲、研磨していきます。
「エッセイ依頼内容」
今年最初の課題は、また一から、食にまつわるエッセイとなります。
「お子さんやパートナー、家族、同居人に日々作るごはん」について、その人生の深部を書いてください。題して、「日々のごはん」です。字数は1000字前後、1500字以内、とします。締め切りは1月22日とさせていただきます。詳しくは、明日にでも・・・。えへへ。

滞仏日記「街灯まで頑張って歩いたら更に次の街灯まで、という父ちゃんの生き方」

お知らせです。
父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。探せば、無料でも聞けるみたいです。あはは。


https://linkco.re/2beHy0ru

それから、来年、2023年5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブやります。
パリ・オランピア劇場公演のチケット発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。

https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/

フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/



地球カレッジ
自分流×帝京大学