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滞仏日記「10人の不意のお客様をさばいた父ちゃんシェフの力技」 Posted on 2022/12/21 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、不意に、シェフ友のチャールズ一家(子供2人)がパリにやって来ることになり、最初は外食かな、と思っていたのだけれど、仕事納めだったこともあり、事務所のスタッフさんらもいたので(たまたま、小さなお子さんがついてきていて)、ええい、面倒くさいいっぺんに済ませちゃえ、ということになり、父ちゃんシェフ、またまた、壊れたキッチンで、料理をすることになったのだった。
あはは、マジか。
長谷っちが、ちょっと事務道具を片付けてくれて、テーブルセッティングとかも手伝ってくれて、(アペロだけ参加)、事務所はなんとなくパーティ会場に早変わり。
賑やかな夜になったのであーる。
長谷っち、本当にいつも役立つ。※彼の小説も読まなきゃ。

滞仏日記「10人の不意のお客様をさばいた父ちゃんシェフの力技」



不意打ちだったので、ちゃんとした料理は出来なかったのだけれど~、子供たち3人には日本を代表するポークカレーライス、三四郎にはドッグフード(鳥のささみ付き)、大人たち7人には、焼き枝豆あたりからはじまり、太巻き、ラディッシュ・ホムス、定番サーモン・マドレーヌなどなどのスターター、その後、定番のイカの煮ものとか、もろもろ、冷蔵庫にあるもので創意工夫ということになったのであーる。
ってか、チャールズ(ミシュラン、星付きシェフ)が連れてきたのが、パリの三ッ星レストランの料理人で、奥さんのミハーはパティシエだし、そういう人らを相手に、あるもので料理して出しちゃう、あまりに怖いもの知らずな、父ちゃんなのであった。
あはは。人生という醍醐味じゃ。
あ、ワインとシャンパーニュは、たまたま、知りあった15区のワイン屋(Moment Divin)、趣味がいいオーナーのトマさんのところ(で、クリスマス用に彼のセレクションでまとめ買いをしていたの)で、それが役立った。とくにシャンパーニュのパイヤードは美味しかったぁ。みんな、喜んでいた。
ワインと料理とのコンビネーション、大事だからね。※ちなみに、ここの梅酒のチョコが美味いんだよなぁ。あはは。

滞仏日記「10人の不意のお客様をさばいた父ちゃんシェフの力技」

滞仏日記「10人の不意のお客様をさばいた父ちゃんシェフの力技」



実は、三四郎は大のチャールズ好き。
ここのところ、ぼくに叱られっぱなしで、逃げ回っていた三四郎に強力な援軍の登場で、あった。
なので三四郎はチャールズの膝の上・・・。
犬という生き物はいい人間がすぐにわかるのだ。チャールズは料理人としても最高だけれど、何よりも人間が大好きだ。彼の子供たちもお父さんが大好き、あはは、何よりである。
田舎の浜辺でたまたま知りあって仲良くなり、遊びに行くようになって、今度は、パリの家までやってきたこの一家、いったい、ぼくとは、どういうご縁があるのかな。
「いや、美味しいねー、ムッシュ、ツジー」
奥さんのミハが褒めてくれた。嬉しい。
チャールズはぼくの定番、プロヴァンス風イカ煮込み玄米パスタ添え、を食べて、笑顔になった。やった。
何より嬉しかったのは彼らが連れてきた料理人のSさんが、本当に美味しい、と言ってくれたことであった。彼は、すべて残さず食べたくれたのである。

滞仏日記「10人の不意のお客様をさばいた父ちゃんシェフの力技」



さて、こういう不意のお客様、しかも10人にもなる食事会をどうやってこなすのか、ということだ。
まずは、冷蔵庫をチェックし、何があり何がないか、を見極める。
来るのが分かったのが16時、彼らがやって来たのは20時であった。
5時間の勝負である。ありったけのお米をまず、炊いたぁ。

滞仏日記「10人の不意のお客様をさばいた父ちゃんシェフの力技」



まず、時間がない。なので、煮込みは圧力鍋でやれるものがいい。その時点で3人の子供たちにはカレーライスと決めた。
さっとつまめて、見栄えもいい、太巻きを今回は前菜の一品で作っておいた。
先に子供たちを食べさせ、彼らを遊ばせてから、最後に、大人がご飯をゆっくり食べるのがフランス方式なのである。
冷凍庫に枝豆、食糧庫にトマト缶、野菜庫に、プティトマトを発見。日本から持ってきた玄米のパスタもあった。
こういう時は作り慣れたものが失敗はない。
料理雑誌ダンチュウの料理会(25名分を作った)の時のレシピがある。それがいいだろう。
不意のお客人に、特別なことをやると失敗するので、ここは定番の、サーモン・マドレーヌ、イカのプロヴァンス風煮込み、ちょっと日本を意識して太巻き、焼き枝豆、などを作ることにした。
ここで大事なのが、作る順番である。多少、太巻きは時間が経っても食べられるし、冷めても美味しいサーモンのマドレーヌなどは先に作ってしまう。
それから、イカだけはスーパーで買わないとならないし、こればかりは長谷っちにもわからないので、自分で走ることに。足りない食材もその時にまとめ買いをする。買い忘れるといけないのでメモに書いて、行けば、時間もかからない。トマトペースト、ニンニクなど、足りない材料を調べ、その時に一緒に買ったのだった。
イカの煮込みも、集合時間の少し前までに完成させておけば、みんなとゆっくりカンパイも出来る。
ということで、彼らがやって来る20時までに、ほぼすべてを作り終えていた。

滞仏日記「10人の不意のお客様をさばいた父ちゃんシェフの力技」

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チャールズたちがやって来た。
ぼくの仕事部屋から長谷っちに一人掛けソファ2脚を移動してもらい、アペロはソファ周辺で、その間に、子供たちには事務所の方テーブルで先にカレーを食べさせ、大人七人はつまみながら飲んでいる・・・。
お酒のサービスだけは長谷っちにやってもらい、その間に、ちゃちゃっとメイン料理を拵え、運ぶ父ちゃんなのであった。(ここで長谷っち、おつかれさま・・・退場。奥さんとのディナーがあるのだという、笑)
大事なのは、お客さんがしらけてしまうので、主役が席をあまり離れないこと。子供たちがカレーを食べてるあいだに、スターターで盛り上がり、子供たちが食べ終わってゲームをはじめたら、席をかわり、大人のメイン料理となった。デザートのケーキまですべて食べつくした10人であった。あはは。

と、ここからが凄かった。大人7人の中に3人も料理人がいるので、彼らが片付けをやってくれたのである。
「ひとなり、座っていて、10分で終わるから」とチャールズ。
さすが、プロだ。ぼくだったら翌日、半日はかかっていただろう片付けを、わずか、10分で終わらせてしまったのである。凄い。めっちゃ、プロの仕事であった!!!!
シャンパングラスやワイングラスなど、壊れやすいグラスも綺麗に磨かれ、棚の中へと納まっていた。
ぼくは作ったことよりも、このプロの片付けに感動をしたのであった。これは、敵わない、と思った父ちゃんである。←プロ相手に、これ、普通は思わない。えへへ。
0時半に彼らは帰って行った。
10人が、家を出て行った。やれやれ、と振り返ると、事務所は元通りに戻っていたのである。

滞仏日記「10人の不意のお客様をさばいた父ちゃんシェフの力技」

※ 奥さんがチャールズのためにケーキをカット。見せつけてくれますね。ちなみに、ケーキはルノートル社のチョコレートケーキです。



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
実は、三四郎がまたまた、とんでもないことをしでかしたのです。サーモンのマドレーヌ、3つ残っていたのだけど、みんなが飲んでいる隙にキッチンに忍び込んで、全部、食べてしまったのです。絶対に上れないテーブルに置いてあったのに、曲芸師のように椅子に飛び乗り、そこから一気にテーブルにジャンプして・・・。発見したのはぼくで、ワイングラスを片付けに来たら、バクバク食べている三四郎と目が合い! さすがに怒りました。たくさん、ご飯をあげた後だったのに、・・・。するとチャールズがやってきて、ツジー、しょうがないよ、犬だもの、というのです。犬だと思ってない父ちゃんはちょっと落ちこんだのでした・・・。※気を付けないと・・・。

さて、明日、22日ですけど、パリのぼくが暮らす地区を散歩する、地球カレッジ、本年度最後のオンラインツアーがあります。とくに何も仕掛けはありません。ぼく一緒に、ぼくの暮らす街を一緒に歩いてみたいみなさん、どうぞ、ご参加ください。ゴールでは、「パリごはん」で大馴染みのマーシャルが待っているのです。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

地球カレッジ

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お知らせの2です。

●ボンジュール!辻仁成の冬のパリごはん
【BSP】12月24日(土)午後2:59〜3:58
【BS4K】12月25日(日)午後0:00〜0:59
※初回放送 2022年2月23日
※BSP4K別日時
番組ホームページ
https://www.nhk.jp/p/ts/6XW8NZ748V/schedule/te/KWM998V2RY/

滞仏日記「10人の不意のお客様をさばいた父ちゃんシェフの力技」

父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。


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それから、パリ・オランピア劇場公演のチケット発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。

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フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、

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自分流×帝京大学