JINSEI STORIES
父ちゃんの料理教室「年末の牡蠣屋で有頭エビを買い、海老味噌パスタを作る」 Posted on 2022/12/17 辻 仁成 作家 パリ
そうだ、牡蠣スタンドが出てたんじゃなかったかな?
冬になると、ノルマンディやブルターニュ辺りから毎年、牡蠣の業者がやって来て、カフェの軒先を借りて、販売所を開設する。
仕組みはわからないけれど、冬のパリの風物詩で、老舗のカフェとかには必ずカフェスタンドが登場する。
牡蠣剥き職人(貝類全部開けてくれる人)のことをエカイエというのだ。
カフェが経営していることもあるけど、だいたいは場所貸ししているようだ。
ポールが交差点で警察官と立ち話をしているのが見えた。
お、おるやん。しかも、ビニールのエプロンをまとい、軍手までしてる。やった。
「ありゃ、珍しい。旦那、お元気でしたか?」
「ああ、もちろん、やってないかと思ったよ。カフェが閉まってるから」
「この時期は休まず営業してまっせ。1月1日だけは休みますけど、2月末まで、うちは休まず営業です」
見事な牡蠣がずらりと並んでいる。
一時期、60年代から70年代にかけて、フランス中の牡蠣に病気が広がり全滅したのだそうだ。
それを救ったのが、なんと、宮城県のマガキ!
マガキの稚貝(種・卵)が輸入され、絶滅を防ぎ、しかも、もともとの牡蠣も復活したのだとか・・・。
確かに、日本の牡蠣と味が似ている。
「旦那。この14ユーロの有頭エビのカクテル、ひとパック買うと二パック分の値段で特売中ですよ。お得でしょ?」
「は? ぼくがフランス語が苦手だってわかってるからだましてるな? なんで二倍になるんだよ?」
あはは、と笑ったポール、と引き攣るぼく・・・。
「冗談ですよ。ひとパック買ったら、もうひと箱、おまけ」
「おお、マジか。買う。それなら、安い」
ポールはニカっと笑った。フランス人は必ず、冗談を言うのだ。
「牡蠣はどれにします」
「あんまりヨード感の強くないのを、12個」
「了解、じゃあ、これがおすすめ。隣の小さいの12個でも、こっちの大きいの12個でも、料金は一緒。旦那、どっちにします?」
ポールは二つの牡蠣をつかんでぼくの目の前に突き付けてきた。一センチくらいの差がある。
「え? 小さいほうがおいしいの?」
「いや、中身は一緒ですよ」
「じゃあ、大きい方が得じゃないの?」
「ぴんぽーん」
なんだか、よくわからないけど、・・・ぼくは笑った。
中身が一緒なのに、小さいのをわざわざ買っていく人がいるのか?
それにわざわざ大きいのと小さいのを選り分けて売っているのだとしたら、その意味が分からない。
「意味なんて、ないですよ。ノルマンディ人のセンスです。ガッハッハ」
やれやれ、付き合って笑ってやったけど、まァ、いいか。
素晴らしい食材をゲットすることが出来た。
ちょうど、冷蔵庫の中にサンセールの白ワインがあったっけ・・・。
酸味が多少あるので、好んでは飲まないのだけど、その酸味のおかげで、魚介類、とくに牡蠣との相性は抜群なのである。
ポールの店で牡蠣を買ったら開けようと思って冷やしておいて正解だった。
「さてと、ビストロ、辻食堂の開店であーる」
父ちゃんは、誰もいないキッチンで、大声を張り上げた。
何事も景気づけが大事だからである。
エビのカクテルはすでに茹でてあり、フランス人はこのまま皮を剥いてマヨネーズなどにつけて、アペロのアテとして食べることが多い。
日本だと、生の有頭海老を買う。ようは、一緒である。生だから、より、味噌感が出ます!!
フランス人はエビ好きだが、エビの美味しい食べ方をあまりご存じない。(偉そうでごめんんなちゃい)
そもそも、この有頭エビの頭をみんな捨てている。勿体ないじゃないか、実は、ここに旨味が詰まっているのに・・・。
今日は有頭エビ・パスタの作り方を教授したい! 前置きが長かった・・・・あはは。
※、木べらでこうやって、エビの頭の部分を押しつぶしていく。すると中から、ミソがあふれ出る・・・。
※ 剥いたエビは、こうなる。普通はこれをマヨネーズソースで食べるのだが・・・。
弱火で香りを移したオリーブオイルの中にエビの頭の部分を放り込み、木べらなどで、押さえつけながら炒めると、まもなく、中のミソがじわっと出てくる。
そこに白ワインなどをまわし掛けすると、さらに味が伸びて広がるのだ。
弱火で煮詰めながら、一方で麺を茹で、一方で手早くエビの身の処理をする。
いつもはトマト味にするのだけど、今日はふたパックもエビが手に入ったので、ミソ量がはんぱなく、勿体ないから、トマトではなく塩コショウのみで味を調えることにした。
エビの頭はミソが出た後、それを別容器に取り出し、さらに押してソースをかき集める。
とにかく、この頭部こそがエビの一番美味しいところなので、しゃぶり尽くす勢いが大事であーる。
硬めに茹でた麺をソースと絡め、強火にしたら、そこにお玉一程度の麺のゆで汁を加え、乳化させる(とろみが出るのであーる)。
ここで大事なことは火力なので、必ず、強火でやること。
素早く絡め、乳化の状態を見て、皿に移し分け、粒コショウでもガリガリとかければ、完成となーる。
ボナペティ!!!
ぜひ、やってみてくださいね。
※ 生エビじゃないので、パスタを絡める直前に、エビを投入しないと、硬くなってしまう。この写真はエビを入れた直後の状態、ここにすぐパスタを絡め、強火で乳化を完成させたら、すぐに皿にうつす。ここは速度がものを言う。
※ 牡蠣はこのケースに入っている。次回、持っていくと2ユーロ返してくれる。いいシステムであーる。真ん中の赤いのがビネグレットソースである。
さて、お知らせです。
22日、パリの左岸をオンライン散歩します。NHKの「パリごはん」で最多出場の八百屋のマーシャルの店まで歩く90分、もしかするとピエールとか、アドリアンとか、おなじみメンバーに会えるといいですね。なんも言ってませんが、彼らは暇人ですから、街角でうろちょろしていそうですですです、笑。今年最後の地球カレッジ、楽しい冬の散歩道になれば! 詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。