JINSEI STORIES

滞仏日記「サッカーの試合を一緒に観たいと息子が言うので・・・」 Posted on 2022/12/11 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、とにかく、異常に寒いのである。
各部屋についている暖房器具5台を全部つけ、ついでにデロンギを2つもつけ、さらに、簡易暖炉まで燃やしても、凍えるような寒さなのだ。
一昨日から、首の裏側が痛くて、なんだろう、と思っていたら、冷え過ぎで緊張し、筋肉痛になったことがわかった。三四郎も暖房の前から動かない。
これは酷い寒さである。
かわいそうなので、三四郎のベッドを一番大きな暖房機の前に移動させ、その左右をデロンギでガードしてやった。なかなか凄まじい光景であった。あはは。
猫はこたつで丸くなる、という歌があったが、三四郎は暖房に囲まれ丸くなる、であった。
ノルマンディとブルターニュ地方は寒波到来中なのである。

滞仏日記「サッカーの試合を一緒に観たいと息子が言うので・・・」



起きて、日記を書いていたら息子からメッセージが飛び込んで来た。
「今夜、ごはん食べに行ってもいいかなぁ」
「あ、今、田舎なんだよ」
と伝えたら、
「今夜、イングランドとフランスの試合なんだよ。世紀の一戦だよ、観ないの?」
と、来た。
「それ、帰って来いってこと?」
「いや、一緒に観た方が楽しいかなって」
ということで来たばかりだけど、息子がサッカーを一緒に観たいというのは珍しいので、また、すぐに戻ればいい、と思い直し、一度、帰ることにしたのだ。
やっぱり、サッカー熱はすごいので、子供とサッカー観戦するのは、家族的に、大切かもしれない、と思ったのだった。
それに、英国海峡から吹きすさぶ海風は冷たすぎる。パリのアパルトマンはセントラルヒーティングなので超温かい。やっぱり、帰ろう・・・。
部屋を掃除し、荷物をまとめ、各部屋の窓をしめていたら、おおお、地面が凍って真っ白になっているではないか・・・。
いつもはびゅんびゅん飛ばしている車が徐行運転をしている。アイスバーンか!
どのような状態か確かめるために、一度外に出てみた。
かつて経験したことがないくらい、めっちゃ滑る氷の路面であった。溶け始めたアイスリンクのよう・・・。
歩いている人が転んだり、動けなくなったりしていた。
「べーりーでいんじゃらーす」
と外国の人が叫んでいた。
奥さんが、ご主人につかまり、ご主人は電信柱につかまって動けないでいる。
ぼくは小学校高学年から中学まで帯広にいたので、アイスバーンの怖さを知っている。
うわ、これはダメだ。

滞仏日記「サッカーの試合を一緒に観たいと息子が言うので・・・」



嵐は頻繁にやってくるし、川が氾濫することもあるし、その上、この辺は地滑りも起きるし、冬はめっちゃ寒いし、停電もたまにあるし、ついでに幽霊も出る。それが田舎というものなのだった。※幽霊を除く。
帰り支度だけ終わらせ、地面が融けるのを待ってから、ぼくは出発することにした。
自分の車を坂道に停車させていたので、周囲にお湯を巻いた。湯気が立ち込め、一部が溶解した。
急いで車に乗り、エンジンをかけ、急ブレーキを踏まないよう、超用心しながら、坂道を下ったのである。
どの車も、人が歩く速度くらいの、のろのろ運転であった。
それでも、息子が待つパリに戻らないとならない。
フランス対イングランドの試合は夜の20時からであった。
徐行運転をしながら、高速道路へと向かった。
幸いなことに、高速は、通行止めになっていない。新しい路面はなんらかの技術で凍らないのかもしれない。
それでも安全運転で、パリを目指した。標識には130キロと出ているが、ぼくは80キロくらいの安全運転を心がけた。
大型のベンツが一台、高速の入り口でひっくり返っていた。
たぶん、朝方、事故ったに違いない。もちろん、運転手さんはすでにいなかった。きっと、あちこちでこういう事故がおきたため、レッカー車が足りないのに違いない。
これはやばい、気を付けなきゃ、と思った。
無事にパリに戻れるのだろうか・・・。
途中、サービスエリアで何度か休憩し、のんびりとパリを目指した。
普段よりもうんと時間をかけ、なんとか、無事、夕方、パリに到着したのであった。
めでたし。

滞仏日記「サッカーの試合を一緒に観たいと息子が言うので・・・」



ぼくは息子に電話をかけた。驚かしてやろうと思って・・・。
「パリに戻って来たぞ~、ひゃっほー」
「え、そうなんだ」
「サッカー一緒に観るか」
「でも、よく考えたんだけど」
「なに?」
「パパのところ、テレビあったっけ? なんか壊れてなかった?」
「おお、そうだった」
テレビがなくても、パソコンで番組を掻い摘んで観ることのできる時代なので、テレビを修理するのを忘れていたのである。
「あのね。ウイリアムとかトマとかうちに来て、試合を観ることになったんだ」
気まずい空気が流れた・・・。しゅん。
「あ、じゃあ、パパ、うちに来る? みんなで観る?」
「や、いいよ。疲れたし」
「だよね。ごめんね」
「いいもん」
「あはは」
ということで、明日、一緒にご飯を食べる約束をした。
父ちゃんは、パソコンで三四郎とサッカーを観戦しながら、夕飯でも食べることにしよう。えへへ。

滞仏日記「サッカーの試合を一緒に観たいと息子が言うので・・・」



つづく。

ということで、パリのアパルトマンはとっても暖かいので、身体が楽になりました。三四郎ものびのびとしています。やっぱ、田舎は春から秋までがベストかもしれないですね。何かがあっても、このような厳寒の冬だとすぐに移動も出来ませんし、戦争の影響で来月から計画停電(一月)がありそうなフランス。暫く、田舎には行けないかな、と思いはじめています。しゅん・・・。
さて、12月22日、ぼくが暮らすパリの街(カルチエ)の周辺をお散歩します。行きつけのカフェを覗いたり、ケーキを買ったり、とくに何もしませんけど、冬の散歩道を歩く心に優しいイベント、ゴールは「パリごはん」でもおなじみ、マーシャルの八百屋! そこで冬野菜でも買おうと思っております。ライブ感満載なこのクリスマス・オンラインツアー、ご興味のある皆さん、ぜひ、こちらをクリックくださいませ!

地球カレッジ



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お知らせ2です
父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」が昨夜、配信&販売開始されました。お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。

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滞仏日記「サッカーの試合を一緒に観たいと息子が言うので・・・」

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