JINSEI STORIES

滞仏日記「調子が出ない、自信喪失のダサダサ父ちゃん、ああ、どうしたらええんじゃ!」 Posted on 2022/12/09 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、朝、ぼくはアップルミュージックのお試し聞きで自分の新作アルバムを聞いていたのだが、これが、視聴版だからしょうがないのだろうが、いいところで「ぶちッ」と切れてしまう。仕組みで1分半のところで終わる。その切れ方が、容赦ない。
ノって来て、さあ、サビだ、歌うぞ~、と思うところで「ぶちッ」
「えええ」
と毎回、自分の愛する曲が、切断されるたび、言葉が飛び出している。申し訳ないけれど、無料なので、許してほしい。
「ZOO」もサビに行く前で、切れてしまう。ううう、愛をあげられないじゃないかぁ。
それでも、音がいいし、結構なところまで聞けることも分かった。ちょっと我慢をするとなんとなく全部聞けるので、ま、よしとしましょうか。
このアルバムの曲は、全部、オランピア劇場で歌う。それに加え、10曲弱、用意しないとならない。
今日はギターを持ち出し、三四郎を相手に午前中、練習をやった。

これが、ぶちッと切れる、視聴版です。
こちらの再生ボタンから、お試しください。どうぞ。



実は、ちょっと困ったことがあって、昨日くらいから、バタバタしている。
というのは、ぼくのバンドのリーダー的存在のパーカッション、ジョルジュ・ベゼラが、メロディ・ガルドというアメリカのジャズ歌手に見いだされ、全米ツアーなどに同行していたのだけど、爆発的な人気が出てしまい、スケジュールをおさえられなくなってしまった。メロディと奪い合いなのであーる。
そればかりかギャラも数倍に跳ね上がって、手が出ない~。
彼はもともとサンタナなどとも仕事をしていて、フランスでは有名なパーカッショニストだったが、見いだされるとあっという間に世界的なミュージシャンになっちゃうのだから、すごいね。
「もちろん、ツジー、君との仕事、やらせてもらうよ。でも、スケジュールがないんだ。リハーサルをやれるのが二日間程度だと思う」
「ジョルジュ、たった二日間のリハーサルでオランピアは難しいよ。ぼくにとってオランピア劇場は人生をかけた大勝負なんだよ」
そこで、とりあえず、話し合いは終わった。あとは、マネージャー同士でスケジュール調整をしないとならない。5月29日のスケジュールだけ、おさえることができたが、どうなることやら・・・。困ったぞ。
ジョルジュだからこそ、歌える曲がある。
ロックダウン直前の2020年、一緒にライブをやったのが縁で、その後、ずっとやってきた。今回のアルバムでも、全11曲、素晴らしい演奏を決めてくれている。
バンマスのジョルジュがいない状態ではオランピアには立てない。
「ツジー、とにかくその日はおさえるから、心配するな。13日まで時間をくれ、なんとか調整をしてみる」
やれやれ。

滞仏日記「調子が出ない、自信喪失のダサダサ父ちゃん、ああ、どうしたらええんじゃ!」

※ 左端の帽子のブラジル人がジョルジュである。



田舎にいるのだけど、落ち着かない。
三四郎と海を見ている場合じゃないのかもしれない。少しのんびりしようと思っていたが、パリに戻って、あちこち働きかけた方がいいのかも。
明日、ニューアルバムの発売日だけれど、宣伝らしいことは何もしてないし、どうやって、音楽好きなフランス人に自分の音楽を届けたらいいのか、わからない・・・。
腕を組んで、三四郎と英国海峡の海原を見つめた。ま、じたばたするわけにもいかないか。とりあえず、フライヤーとポスターを大至急作って、配らないと。
ベルトランは5000枚刷ると言っていた。それをどうやって、配っていくか、である。作っても貼られないと、作っても置かれないと・・・。
三四郎とミンホエの中華レストランで食事をしていると、携帯に、URLが届いた。お、福岡の宗大介からだ。
「辻さん、PV、完成しました。納品します」

滞仏日記「調子が出ない、自信喪失のダサダサ父ちゃん、ああ、どうしたらええんじゃ!」



フランス向けに、東京滞在中、プロモーションビデオを作ったのだった。新宿、渋谷、六本木、西麻布、銀座などを徘徊し撮影した、久しぶりのMVであった。
急いで家に帰り、三四郎と、ドキドキしながら見た。
父ちゃん、かっこつけて、歌っている。おおお、なんか、恥ずかしいのである。
MVだから、しょうがないけど、穴があったら入りたい感じがする。
それをパリのスタッフさんに送り、YouTubeに入れて貰うことにした。とにかく、恥ずかしくても、宣伝をしないとならない。
日本語の歌詞、63歳のロン毛のおじさん、予算ゼロのビデオ、大丈夫だろうか・・・。
ぜんぜん、自信がなくなってしまった。
すると、長谷っちから電話が入った。
「先生、YouTubeへのアップが出来ないみたいです」
「なんで?」
「知りませんが、著作権の問題だそうです」
「ぼくの曲なのに?」
「ちょっと調べてみますが、先生、作詞作曲はどこに権利を預けていますか?」
「ジャスラックだけど、全部、JINSEI TSUJIで」
「わかりました。YouTubeと話してみますね。お疲れ様です」
「あ、長谷っち」
「はい、先生」
「あのね、ぼく、ちょっと自信喪失中なんだけど、なんか、励ましてくれないかな」
「は? わたしがですか? 先生らしくないですね」
「不意に、裸の王様みたいな感じがして、エンジンかからないんだよ」
「先生、大丈夫ですよ。明日になれば、先生は生まれ変わります」
ぼくは噴き出した。明日?
「それ、いいね。明日にならないといけないんだね?」
「そうです。今日はもう捨てましょう。明日、目覚めたら、先生は生まれ変わっていますよ。だから、大丈夫です。お酒でも飲んで、弱気な先生は捨てちゃってください。先生、人生なんか、蹴っ飛ばしましょうよ」

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つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
長谷っち、ありがとう。
ということなので、ぼくはワインでも飲んで、今日は寝ることにします。明日か明後日、くらいにとりあえず、Youtubeで「ガラスの天井」2022バージョンを配信出来ると思いますから、ダサダサかっこつけ父ちゃんを笑ってやってください。でも、どうぞ、お手柔らかに笑ってね・・・。えへへ。
さて、お知らせです。12月22日はいよいよ、今年最後の地球カレッジ。今回はスペシャル版で、パリ市内中心部からぼくが暮らすカルチエ(地区)まで、ブラタモリならぬブラツジ散歩をさせてもらいます。とくに仕掛けもなにもない、素の父ちゃんによる、かっこつけ、一切ない、冬の散歩道です。行きつけのカフェに立ち寄ったり、マーシャルの八百屋で野菜を買ったり、ケーキ屋さんでクリスマスケーキをピックアップしたり、何も起こらないかもしれませんが、ぶらぶらしたいみなさん、生配信での散歩、おつきあいださい。ださださ父ちゃんがご案内いたします。詳しくはこちらの地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

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