JINSEI STORIES
滞仏日記「また水漏れ、もー頭にきた父ちゃん。フランスどうなってんの!?」 Posted on 2022/12/07 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ということでやっと田舎での日常生活がスタートしたのだ。
朝、三四郎に朝ご飯を与えようと餌の置いてあるバスルームに行くと、な、なんと、水浸しじゃないかぁ!!!!! ぎょえ・・・。
「は~?」
とびっくらこいた父ちゃん。
ここまで書いて読者の皆さんは、『またですか? 辻さん。あんたおかしいんじゃないの?』と思われても仕方がないのだが、これ、ぼくがおかしいんじゃなく、あまりにおかしいのは、ここフランスなのである。つまり、ぼくのフランス人生は呪われている。
旧アパルトマンで3年間水漏れが続き天井崩落までおきた。漏電もあった。
それで引っ越したのに、新居のキッチンの食器棚が壁から剥がれ、落下寸前で、弟子の長谷っちに頼んで現在、業者さんと見積りを出して貰っている。
なので、キッチンが直るまで一時的に田舎のアパルトマンに逃げてきたのはいいが、今朝、起きたらバスルームが水浸しって、あまりにもドラマティック過ぎるやろが・・・。あはは、じゃない!
いくら、古い建物ばかりのフランスでも、ここまでひどいと自分があまりに気の毒になる。今朝は「またかよ~。ええかげんにせーや」と思わず激怒した父ちゃんであった。
原因を追究すべく、冷静に調べてみたところ、トイレの水タンクの管から水が漏れているのだった。
「これか、こんなことでぼくの人生は再び、最悪になるのか? 呪われている。くそー、悪魔め、俺をこんなに苦しめて何がそんなに楽しいんだ、きさま、出てこ~い。こそこそ、水道管を攻撃するな、一般市民を狙うな、卑怯者め」
と毒づいたのだけど、足元で、三四郎が、くー、と心配そうな顔で見上げている。
ううう。落ち着け、自分・・・。
とりあえず、水の元栓を閉めてからシェフのチャールズに電話をかけ、水道業者を紹介してもらうことになった。
本来なら、ここの工事をやったジェロームに電話すべきところだが、彼は、悪い奴じゃないのだが、いい加減で、こういうお金にならない工事には到底来てくれそうもない。
そもそも、一年前の10月の台風(タンペット)で屋根が飛んで出来たあの壁の亀裂が、まだ直ってないのである。去年、10月ごろの日記をご参照ください。あれ、まだ解決してないとよ~。それがフランス。
怒っても埒が明かないので、父ちゃんはいい奴じゃなくてもいいからちゃんと仕事をしてくれる人を探すことにしたのだった。さよなら、ジェローム・・・。
こちらは、人の良さそうなジェロの写真。これからは友だちでいようね。
とりあえず、応急処置をしないとならなかった。
這いつくばって、溢れた水をぞうきんに吸わせては絞り、水が下の階のカイザー髭さん家に達しないよう、大掃除にあけくれた父ちゃんなのであった。へとへと~。
水を始末してから、ぼくは日常を取り戻すため、三四郎を散歩に連れ出すことに。三四郎には関係がない。彼を走らせなきゃならないのであーる。
それでも海は優しかった。もの凄く寒いのだけど、浜辺を猛然と走って行く、三四郎の姿にぼくは励まされるのであった。
ま、命があるだけマシじゃないか。きっと、なんとかなる。
なんとかならなかったことはなかった。
それが救いだ。生きていればいいこともある。
帰りに、行きつけの「犬カフェ」(この村の犬と飼い主が集まるカフェ)でクロワッサンとカフェオレを飲んで、気分を変えた父ちゃんであった。
カフェのムッシュがとっても優しい。ボンジュール、と笑顔を向けてくれたのだ。
呪われた父ちゃん、一瞬、ハッピーになった。フランスのカフェはそのためにこそ、あるのであーる。
とにかく、こんなことで積み上げてきた人生を放棄するのはよくない。
どんなことがあっても、丁寧な日常を取り戻さなければ、と自分に言い聞かせ、カフェを出て、商店街で鶏肉、茸、生麺、パンを買って帰ることに。
昼食の準備をしていると、工事業者さん(アレクサンドルさん)がやってきた。
いい感じのムッシュであった。
シェフのチャールズとは20年来の友人だというし、このアパルトマンの前の家主とも友だちだったことが判明。世界は狭い。
前の住人、ルクルー氏がここを手放したのは、「70代になり5階までエレベーターがないのが辛くなったから」ということのようであった。
ということは、ぼくもあと、10年ほどでここを手放さないとならなくなるのか・・・。マジか・・・。
360度の絶景が広がる、天守閣のようなアパルトマンは素晴らしいのだけど、海からここまで上がって来ると、膝はがくがく、肺は苦しい・・・。相当に辛い。
しかも、ダックスフンドは足腰が弱いので、階段の昇り降りはさせられない。6キロの犬を抱えて、ぼくは上り続けないとならない・・・、ふー、ぼくは心の中ですでに次の住処を探し始めている。
ということで、幸いなことに、ものの30分で、トイレの水漏れは直ったのだった。
やはり、ジェロームに頼まないでよかった。今後は何かあれば、このアレクサンドルさんに頼むことにしよう。
※ アレクサンドルさん、てきぱきと修理をしてくれたのだ。素晴らしい。さようなら、ジェローム~。
ぼくが料理をしている間、三四郎はぼくの足元で待っている。
おこぼれを待っているのである。
あげたいけれど、彼には長生きしてもらいたい。
鳥の胸肉をソテーにし、マッシュルームのクリームソースで和え、生パスタの横に添えてみた。ルッコラの苦みとクリームソテーのバランスが美味しい一皿となった。
パンは「木こり」と呼ばれる田舎風のパンにした。とろとろのトリュフ入りブリーを塗って食べた。美味かった。素晴らしいご褒美や、いいことは、自ら作っていくしかない。
「くーん(ムッシュ~)」
と三四郎が足元でなくので、仕方がないから、柔らかい肉の中心部をほじくって、ちょっとだけ食べさせてやった。調子にのるなよ、と釘を刺しながら、・・・。
このアパルトマンを購入して、2年が過ぎた。問題点がいろいろと分かってきたが、総じて、素晴らしいアパルトマンであることは間違いない。
あとは、ぼくの体力があと何年もつか、ということになる。10年ほどのスパンで、ぼくはもっと高台の開けた農地を買い、そこに小さな家をたて、田畑を耕し、終の棲家にしよう、と思うのだった。ふふふ・・・。
父ちゃんがじいさんになる日が待ち遠しいぜ。
その頃、三四郎はまだ生きているはずである。
相棒よ。
※ こちらが「木こり」パンである。
※ フロマージュリーHISADAで買ったブリー・チーズ。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
それにしても、それにしても、トイレの水漏れ、大事に発展しなくてよかったです。でも、ぜんぜん、心が休まらないのが、辛いですね。ここが落ち着いた頃にはパリから呼び出しが、で、戻るとパリでまた別の問題が、とならないことを祈りながら、来年は幸せになりたい、父ちゃんなのでした。えへへ。
ぼくが暮らすパリをクリスマスの直前に歩いてみようというスペシャルイベントを開催しまーす。今回は自撮りではなく、カメラマンさんが同行をして、20年間、生きてきたパリのカルチエ(街)を12月22日に散歩します。ゴールで待ち受けるのは、「パリごはん」でおなじみの八百屋のマーシャル。のどかで幸せなひと時を一緒にブラツジ出来たらなぁ、と思います。冬の散歩道、ご参加を希望される皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。
気分をかえたい、皆さん!!!
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