JINSEI STORIES
滞仏日記「新しいアパルトマンが落ち着かない理由。ううう、トイレがつかえない!」 Posted on 2022/12/06 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、やっといろいろなことが一段落したのと、ストレスも溜まって来たので、三四郎を連れて田舎を目指すことに。
パリの新居は事務所が併設されている。そのせいで人の出入りもあるし、仕事をするにはいいが、実はあんまり落ち着かないのであーる。
コロナ禍のこういう時期だから基本はテレワーク、人が集まる機会はそれほど多くない。しかし、書生の長谷っちは来る。二日に一度くらいだが、家周りの雑務処理に、来てもらっている。
今はキッチンの修復のやりとりが中心、出版関係の翻訳や領収書整理とか事務仕事もある。
でも、神経質な父ちゃんなので、長谷っちに事務所でうろうろされると、落ち着かないのだ。何せ、父ちゃんは「男性恐怖症」を患っている。
その上、長谷っち、坂本龍一さんに似ているからか、廊下とかですれ違うと、貫録があって、思わず、よけてしまう父ちゃんなのであったぁ。えへへ。
もちろん、長谷っちは2時間くらいで事務仕事が終わるので、その間だけ、ぼくは自分の部屋から出なければいいだけのこと。
しかし、である。トイレが一つしかないのだぁ。
先日、もよおしたので、トイレに行ったら、ドアがしまっていた。あああ、中にいるのかぁ・・・。いる~。長谷っちが・・・。
ぼくはトイレの時間をとっても大切にしている。
おちついて出来るように、トイレの便座は木製という、こだわり。物事を考えるのに、トイレほど想像力が広がる場所はないのであーる。
実際、トイレでいくつかの小説のヒントも生まれている。
でも、そこが思う存分、使用できないというのだから、これまでにない精神的負担を持ち込んできた・・・。ううう。
長谷っちに、トイレを使わないで、とは言えないし、ああ、こんな風に書くと、「長谷川さんも読んでる日記に、そんなこと書くなんて、パワハラですか」とか、読者の皆さんに叱られそうだ。長谷川さん、どんどん、使ってください。思う存分、用を足してください。
それにしても、フランスの昔の家って、トイレに洗い場がついてないのがなぜか普通で、うちのトイレにも手洗い場がなく、使用後、キッチンで洗わないとならない・・・。
「先生、調べたところ、水タンクの上に簡易手洗い器をつけられるみたいです」
「いいね。それ、でも、工事しないとならないよね?」
「いや、ぼくが出来るかもしれないので、やりましょうか?」
長谷っちのおかげで、いろいろと助かっている。トイレくらい、我慢しないと。最悪は、尿瓶(しびん)という手がある。あ、それはいい手かもしれない。
尿瓶かぁ、しびれる~。
事務所に人がいる時に、もよおしたら、ぼくは尿瓶で用を済ませる、ことになりそうだ・・・。あはは。大はどうする?
そもそも、新しいカルチエには友だちがまだいないし、行きつけのカフェもない。知り合いのギャルソンもいないし、肉屋も魚屋も八百屋もお気に入りがないのである。
野菜は相変わらずマーシャルのところまで買いに行ってるし、肉と魚は大きなスーパーまで車で調達しに出かけないとならない。
トイレに手洗い場がないし、・・・。
なので、ぼくは当然だが、田舎の自宅に行くことにした。
田舎は自分の家なので、当然、愛着があるし、友だちも増えているし、お風呂場は広く、トイレものんびりと誰にも邪魔されずに出来るのであーる。
クリスマス月だから、みんなで集まる機会も増えるだろう。今年は映画を完成させたし、ニューアルバムのレコーディング、出版、オランピア劇場ライブが決まり、7月から日本とフランスを行き来していたので、さすがに疲れ切った。
寛げる場所で、のんびりと過ごしたい、と思うのは当然だ。
9月に来て以来、田舎のアパルトマンは2か月半ぶりであった。家主が長いこといなかったので、すっかり冷え切り、血が通うまでに数時間を要した。でも、落ち着く。
我が家だぁ~。
昨夜、炊き込みご飯を多めに作ったので、残ったご飯を百均(セリア)のおにぎりケースに入れて、持ってきていた。これにいれると、ぎゅっと詰まって美味しいのである。
ルッコラをお浸しにし、わかめが残っていたので胡瓜を加えわかめ酢を作った。
卵焼きを作り、大好きなラディッシュを添えて、田舎の家で、「一人飯」とあいなった。この感じ、とってもいいじゃないの~。
一人で生きる感じが溢れている。
食後は思う存分、トイレで思索にふけることも出来る。
ありがとう、俺の家、と叫びたくなった。
食後、三四郎と海まで歩いた。
鳩には飛びかかるさんちゃん、かもめはビビッて、避けていた。あはは。親にそっくりな小心者であーる。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
夕方、家でのんびりとしていたら、シェフのチャールズから電話があり、ブリュノとアリスが今夜ごはんに来るけど、君、今、こっちにいるんだろ?と連絡がありました。昨日、なんとなく、そんな予感がしたので、田舎に行くよ、とメッセージを入れていたのです。早速、気の合う仲間たちと再会できることになり、ウキウキな父ちゃんなのでした。父ちゃんの二拠点生活、いよいよ新しい幕開けの始まり始まり。仲間を増やすぞ~。
さて、お知らせです。
12月22日は父ちゃんと歩く冬の散歩道と題して、父ちゃんが長年暮らし慣れ親しんだ地区を一緒に歩く、オンラインツアー。ゴールはマーシャルの八百屋さんになります。クリスマス直前のパリのノエルな風情をお楽しみください。ゲストもありませんし、イルミネーション点灯式とかも一切ない、ひたすら散歩な地味な地球カレッジ。ご興味ある皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックくださいね。
父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン(11曲)」を聞き齧りしたい皆さん、こちらの再生ボタンをどうぞ~。※アルバムの予約も同時にはじまっています。ECHOES時代の「友情」もはいっています、・・・ばったり出会った街角で~♪
※ オランピア劇場ライブ、チケット発売中でーす。
直接チケットを劇場で予約する場合はこちらから。
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フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、
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