JINSEI STORIES
滞仏日記「長谷っちご夫妻がめっちゃ可愛いくて、やられっぱなしな父ちゃん」 Posted on 2022/12/01 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、昨日は力を使い果たした感じであった。
地球カレッジからの、ママ友とのカフェ。そのあと、料理をする気にもなれず、ぐったりしていると、夕方の終わりに、書生の長谷っちこと長谷川さんから電話があった。
「先生、キッチンの修理ですけど、不動産屋と話が出来ました。業者の人が一度、状態を見に来ることになりました。大家と不動産屋の方で支払ってくれます。これですすめてよろしいですか?」
「あ、長谷川さん(頭が上がらない時はさん付けになる父ちゃんであった。えへへ)、ありがとう。もちろんです。あ、あの、飯でもいきますか? 夜の予定なければ、奥様もご一緒に」
ということで、20時半に、長谷川さんがよく行くという韓国レストランで待ちあわせをすることに・・・。
ぼくは行ったことのない店だった。(満席で、お客の7割は若い韓国の人たちだった)最近、BTS人気で韓国料理店はどこも大繁盛なのであーる。
店に顔を出すと、長谷っちの横に奥様のコリンヌがいた。
「ゴブサタシテオリマス」
イナルコ外語大出のコリンヌは日本語がペラペラ。ペラペラだけど古風な日本語を喋るのでタイムスリップ感、半端ない。
「センセー、ゴキゲンヨロシュウゴザイマスカ?」
あはは。横で長谷っち、苦笑している。可愛い夫婦であーる。
「サンシローサン、ゲンキ? アナタハイツミテモカワイイコイヌデース」
あはは。子犬でーす。いちいち、受けてる父ちゃん。
今日の地球カレッジ、「長谷川さんの顔見たいコールが凄かったですよ」とコリンヌに説明をしたら、
「ジョーダン。マジオカシイ」
と変な単語がかえってきた。
「コノヒト、フツウノオジサンダヨネ~」
あはは。和む。焼きもち???
ぼくはちょっと寂しかったのかもしれない。気が緩んだ。
はじめてのお店だったが、長谷っちが常連らしく、お店の人たちを紹介してくれた。知っているいくつかの韓国語でご挨拶させて頂いた。
20年前、講演会とサイン会が何度か韓国で開かれ、その時、いくつかの言葉を覚えたのであーる。喋ると思わせるほど、発音がいいのかなぁ。笑。どばーッと韓国語が飛んでくるのだけど、実は、きょとん、なのであった。あはは。
「チョヌンイルボンチャッカ辻仁成イムニダ(私は日本人作家の辻仁成です)」
すると、ママさん、ぼくの本を知っていて、不意に、場内が騒然となり、携帯(折り畳み式のサムソン?)で、記念撮影会がはじまったのであーる。さあ大変・・・。
韓国では「冷静と情熱のあいだ」「愛のあとにくるもの」「サヨナライツカ」がベストセラーになっているのだ。えへへ。今、これらの著作にドラマ化の話もあって、父ちゃん、韓国で、すこーし、人気者。
隣の席の若いお兄さん(ハンサムな青年)が日本語で、おめにかかれて光栄です、と言った。ぼくは、マンナギウイヘパダルルコンノワッツムイニダ(海を渡ってあなたに会いに来ました)と告げると(これもサイン会の時に覚えた韓国語)、おおおお、と場内が再び騒然となるのであった。
「ゴンベー、ゴンベー(乾杯、乾杯)」とわけのわからないおじさんたちに焼酎をすすめられた。すすめられたら断っちゃいけない。
日本男児、負けるわけにはいかないので、ぐいぐい、とあおったのであーる。酒で負けたことはない! きっぱり。
韓国のママさんらが、豪快にやってきて握手会となったぁ。いやあ、その勢いで、ソジュ(焼酎)をさんざ飲まされた父ちゃんであった。ゴンベー、陽気なお店だぁ~。
※ 韓国でもいろいろと出版されていまーす。左から、「愛のあとにくるもの」「ピアニッシモ・ピアニッシモ」え? あともう一冊、なんだろう。ハングル読めない・・・。
「先生、韓国でもたくさん本が出てるんですね」
「アジアでは、台湾と韓国がよく出版されています。今、『父ちゃんの料理教室』と『息子とぼくの3000日』が両方の国で翻訳中~」
「へー、センセー、モウカリマンナー、ガッポリ」
笑った。ガッポリじゃないよ、と言い訳をする父ちゃん。コリンヌには敵わない。
お肉が出てきた。最近、疲れが酷い、と訴えたら、牛肉セットをすすめられたので、チョセヨしたら、美味しそうな赤身と霜降りだった。ふいに、テンションあがったぁ。
長谷っちと文学談義、コリンヌも文学好きなので、日仏両方の言葉が混ざりあい、面白い会話となった。とくに、コリンヌが学生の時に勉強したのが、夏目漱石、だった。
「あ、三四郎って、夏目の小説の三四郎からとったんですよ」
「ホントーデスカ、センセー。ボッチャン、ダイスキナンデス」
そういうと、コリンヌが足元の三四郎を抱きかかえたから、さらに、大変に。三四郎が顔を出すと、周囲の韓国人の若い女子たちが、ざわざわしはじめたのであーる。
というのは、韓国の若い女子たち、ミニチュアダックスフンドが大好きで、よく、声をかけられる。なぜか、韓国人の女子ばかり。
BTS風の青年の前にいた若い子が、なんか興奮して、ぼくに言った。たぶん、写真撮影していいか、と言ったのだと思うので、適当に頷いたら、携帯で撮影会に、・・・他の子もやってきた。不意に人気を奪われた父ちゃんであった。あはは。
発音のいい父ちゃん、みんなぼくが韓国語をしゃべると思いこみ、いろいろと話しかけられるものだから、頷いておくしかなかったぁ。(あかんでしょ?)
「シンレーハムニダ、ソジュ、ハンビョンチョセヨー(すいません。焼酎、一本ください)」とごまかす父ちゃん。(これもサイン会のあとの飲み会で覚えた韓国語であった)
それにしても、コリンヌと長谷っち、ぼくの前で実に実に仲睦まじい夫婦なのであーる。羨ましかったけど、嬉しかった。こっそり携帯で二人を撮影した。いい写真だったので、二人に見せた。
「先生、その写真、DSにはあげないでください」
「あ、そうだったね。でも、なんで?」
「いや、それは言えません。でも、30年前にいろいろとありまして」
と長谷川が神妙な顔で言うのだった。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
フランスはコロナが再拡大中(第9波)なのでほんとうは大騒ぎ出来ないのですが、久しぶりだったので、ちょっと気が緩んだ父ちゃんでした。帰ったら、手を洗い、うがいをし、目薬をさしたので、大丈夫でしょう。オランピアが近づくと、もう、本当に誰とも飲めなくなるので、年内だけ、許してください。気管支炎、インフルエンザ、コロナに気をつけて、いいライブを目指します・・・。それから、たくさん焼酎を飲んだので、超爆睡をしてしまい、「おはよう、日本」が出来ず申し訳ありませんでした。人間らしい、ということでね。えへへ。地球カレッジの文章教室も無事に全過程が終了をしたので、安心したのもあります。みなさん、ありがとう。来年もいろいろ勉強会しましょうね。(12月22日、地球カレッジはクリスマス散歩やります)
食べ終わり、韓国語で「ケイサンショチョセヨー(お会計ください)」した父ちゃん。ママさんにすっかり覚えられた日本の父ちゃんなのでした。ちゃんちゃん。
お知らせです。
クリスマスイブとクリスマスに再放送決まりました。
『ボンジュール!辻仁成の冬のパリごはん』
【BSP】12月24日(土)午後2:59〜3:58
【BS4K】12月25日(日)午後0:00〜0:59
(初回放送 2022年2月23日)
※ オランピア劇場ライブ、チケット発売中でーす。フランス以外からお越しの、ちょっとチケットとるのが不安な皆さんは、ぜひ、ジャルパック・サイトをご利用ください。こちらです、
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