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退屈日記「パリに戻って5日目、12月の熱血父ちゃん復活へむけて、調整中なり」 Posted on 2022/11/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、早いものでパリに戻って5日が過ぎた。今日で11月も終わる。新しい新居兼事務所での生活にも少しずつ慣れはじめている。
片付けや新体制作りなどに日々あけくれている。朝(これは昨日の朝のこと)、三四郎を散歩に連れ出し、犬パークでご近所のわんちゃんたちや飼い主さんらとひとしきり遊んで、パンを買って帰ると、すでに真面目な長谷っちが事務所に顔を出しており、なんかしらないが、作業をやっていた。
「長谷っち、おはよう」
「先生、おはようございます。さんしー、おはよーさん」
三四郎は長谷川さんにめっちゃ尻尾を振っている。ぼくの周りは、動物に愛される人ばかりである。
「先生、課題、印字してあります」
「あ、ありがと。読んだ?」
「はい、読みました。6作全部、大変、興味深く拝読させて頂きました。文章教室、楽しみです。この作品から先生がどんな話をされるのか」
ぼくは事務所のソファに腰を下ろし、少し、長谷川さんと雑談をした。
今日の文章教室で話すことのおさらいというのか、彼を生徒にみたて、ぼくが今日語ることの流れの確認などをしたのだった。
「どうですか?」
「あ、なるほど、そうやって文章を研磨していくんだって、長谷川、感動です」
長谷川さんは感動屋さんなのである。
感動ですって、50歳過ぎのおっさんが言うと、苦笑がおきる。
でも、そこが長谷川さんの若さの秘訣かもしれない。感動はいいね。
「長谷川さん、小説は書き進んでいますか?」
「苦戦中ですが、がんばります」
「書き上げたら読みますよ。気兼ねなく、どうぞ」

退屈日記「パリに戻って5日目、12月の熱血父ちゃん復活へむけて、調整中なり」



「はい、ありがとうございます。でも、先生は63歳なのにオランピア劇場でのライブも決まったし、映画も完成させたし、新作小説も書いてらっしゃるし、ウエブサイト二つも主宰されていますが、どうやって頭を切り替えてるのか、長谷川そこが知りたいです」
「それね、長谷っち、ぼくもよくわからないんだけど、なんとかやってるね~」
「先生、幻の妻シリーズ、面白いですね」
「ああ、あはは」
「あはは」
「真似すんなよ。君」
「すいません」
ぼくらはもう一度、笑いあった。
でも、書生として長谷川さんに手伝ってもらえて、助かっている。
どちらかというと家周りのことがメインの仕事になる。崩落が見つかったキッチンの修復をさっそく不動産屋さんと協議してくれていたり、(こういうのが実は一番厄介なのだ)、インフルエンザのワクチンをどこで打てばいいか調べてくれたりね・・・。ぼくも生きているので仕事だけしていればいいというわけじゃない。
ま、ともかく、こんな、午前中の長谷川さんとの雑談が楽しいのであーる。

退屈日記「パリに戻って5日目、12月の熱血父ちゃん復活へむけて、調整中なり」



週の3日は他のスタッフさんも集まることになっていて、会議をやったりもする(実はまだそこまで出来てない)。
今だと、オランピア劇場へ向けての宣伝、新アルバムの宣伝販売、欧州の出版エージェントとの次作協議、完成した映画の映画祭への届け出、あ、スタートしたジャパンストーリーズの編集会議、などなど父ちゃんは今、欧州での展開を真剣に考えているので、事務所が大活躍中である。感動屋さんの長谷川さんもなんとなく、参加、笑。
会計士さんや弁護士さんとのミーティングもあるが、でも、だいたいは今の時代リモートでやっている。まだコロナも消えてないし、インフルエンザも流行中なので、リモートワークが中心なのであった。
長谷川さんも事務所にやってくると検温とか消毒をして頂いている。
長谷川さんが事務所にいるあいだにぼくは買い物など生活に関することをやっつけることにしている。※家と事務所のお掃除は中島君ことエリックが引き続き担当をしてくれている。

退屈日記「パリに戻って5日目、12月の熱血父ちゃん復活へむけて、調整中なり」



昨日、買い物に行くと、スーパーの入り口でボランティア団体の方々に囲まれ、「食べ物のない人に食料を与えてもらえないか」とチラシと袋を手渡された。
食料銀行というボランティア団体で、生活苦の人々に食料を配っている。チラシにかかれているような日持ちする食品を買って、お金を払い、レジを出たところで彼らに手渡す仕組みである。
横のスペースに段ボールが積まれていて、結構な数の食材がすでに集まっていた。この時期、大手スーパーでは、食料銀行のスタッフさんが入り口で食料を集めていらっしゃる。
カトリックの国なので、こういうボランティア活動が活発なのだ。
一方で欧州は戦争と隣接している。ガス代が高騰し、インフラが進んでいる。
パリは多くの課題を抱えているように思う。

退屈日記「パリに戻って5日目、12月の熱血父ちゃん復活へむけて、調整中なり」

退屈日記「パリに戻って5日目、12月の熱血父ちゃん復活へむけて、調整中なり」

退屈日記「パリに戻って5日目、12月の熱血父ちゃん復活へむけて、調整中なり」



買い物から戻ると、長谷川さんと事務所の代表MMさんが来ていて、(今日が)オンライン勉強会・地球カレッジがこの事務所の初お披露目になるので、その入念な準備などをやった。
でも、一日の中で一番好きな時間は、明け方から三四郎を散歩に連れ出す、朝9時までの父ちゃんの一人時間なのである。
ショートスリーパー父ちゃんが一番、頭と心を休めることのできる時間でもある。
そこから、熱血が、生み出される。えへへ。
はい、合言葉は、熱血~。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで明け方、今、ぼくはこの退屈日記を仕事部屋で書いております。コーヒーでも淹れようかな、というところ。原稿を福岡の弟に送り、弟が配信作業をやって、記事が配信されるという寸法です。凄い時代ですよねー。

地球カレッジ



自分流×帝京大学

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