JINSEI STORIES
退屈日記「新居のキッチンの食器棚崩落のおそれ。ここでもまた大惨事始まる。やれやれ」 Posted on 2022/11/27 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、実は、三四郎との新生活がスタートしたパリの新居兼事務所のキッチンのガス台の上に設置された食器棚に異変があった。
戻って来て、キッチンを眺めていたら、違和感があったのだ。
「あれ? なんか変だな、眩暈がする」
壁が歪んで見えるではないか。おかしい。首が斜めってしまう。ガス台の上にあるいくつかの食器棚が大きく(ピサの斜塔のように)傾斜して見えるのである。
こんなだったっけ?
それで、勝手口のドアのところに行き、壁と食器棚の間を覗いてみたら、上部が壁から7~8センチほど剥がれちゃってるではないか?
かろうじて底部はくっついているので崩落は免れているが、そのせいで食器棚全体が斜めになっている。どうなってるの?
食器棚はキッチンの上に4つのユニットが結合される感じで取り付けられてあり、そのうちの2つが勝手口側から上部が剥がれている状態であった。(3つ目は見えないだけかも)
ちょっと手で押してみると、ギーッと音をたてて、揺れ動いたので、驚いた。
慌てて、中に仕舞われていた食器たちと取り出し、棚が崩落しないよう軽くしたのはいいが、これではいつ食器棚が落下してもおかしくない、状態であった。
前のアパルトマンで3年もの長きに渡って苦しめられてきた水道管破裂からの水漏れのことを思い出してしまったのであーる。
ここでも、再びカタストロフ(大惨事)・・・。マジか。
※ 後ろに隠されているはずのヒューズBOXなどが露出している状態なのである。黄土色のでっかいBOXが、むき出しに・・・。
すぐに不動産屋と管理組合宛てにメールを書いて送ったのだけど、今日は土曜日であった。月曜日まで返事はないだろう。
長谷っちに電話をした。
「マジっすか? 気が付かなかったっす。というのは、ほとんど、キッチンは使ってないので、コーヒーを淹れる時くらいしか入ってなかったので、すいません、気が付きませんでした。大丈夫ですか? 行きましょうか?」
というのである。
「いいや、君にこれ以上迷惑かけられないから、自分でやります。月曜日、ちょっと一緒に検討して貰えれば助かる・・・」
確かに、料理をしないとこの異変には気が付かないかもしれない。
それに、ぼくは一月ぶりに戻って来た人間だし、料理をするから、何か変な圧迫感があるなぁ、と気づいたのだった。
で、換気扇の奥を見たら、壁のタイルがメリッと剥がれていた。ひび割れが走っているのを発見して、変だな、と思ったら、食器棚が傾斜していた、という次第であーる。
ぼくはとりあえず、応急処置をしなければならなかった。
食器棚が崩落したら、大変なことになる。もしも、その時、ぼくが揚げ物料理をしていたならば、大やけど~の、大火災になってしまう。ぼくの足元にいつもいる三四郎は焼け死んでしまうじゃないか!!!!!!!!
とはいえ、キッチンが使えないのも困る。
とにかく、応急処置として、上部が剥がれている二つの食器棚を下から何かで支えることにした。
「何で支えればいい?」
ぼくは三四郎に相談をした。三四郎が首を傾げてぼくをじっと見上げている。
※ こんなタイミングで食器棚が崩落したら、さんしー、一巻の終わり。涙。
ともかく、まずは重たいお皿などの食器を取り出し、移動させることから始め、次に家中探し回って、つっかえ、になるものを見つけ出し、そこに設置してみたのだった。
なんとか、3か所を支えることに成功をしたが、この状態で、NHKの「パリごはん」の撮影はよろしくない、と思った。
出来なくはないかもしれないが、そんな恥ずかしいキッチンは見せたくない。実に奇妙である。
まずは、不動産屋から派遣されるだろう専門家の意見を聞いて、どういう工事がいつできるのかを相談する必要があった。
工事がすぐに出来るならいいが、クリスマスを挟むこの年末に、さて、どうなることであろう。
この国は病院も工事もやたらと時間がかかるので、来年までかかるのじゃないか、と想像をしたら、別の眩暈に襲われてしまった。
一番右側の食器棚の中にはこの家全体の電源のヒューズBOXなどが設置されているし、さらに調べたら、ガス管も食器棚の背後を横断しているのであった。
もしも、食器棚が崩落をしたら、大惨事になるのかもしれない。
やれやれ、「人間万事塞翁が馬」の連続である。ここでもまた、災難がやってきた。しかし、生きているのだから、災難もあればいいこともあるさ。
こんなことで一喜一憂してもしょうがないので、とりあえずは、見なかったことにして、ぼくは世の中が動き出す月曜日を待つことにしたのであった。
※ 右のつっかえはコニャックの箱と升ですですです。真ん中のはなんかの箱の上にゴマすり棒、最後のはカーテンを仕切る伸縮自在な棒がたまたまあったので、これで上にある換気扇を支えているのでーす。右二つの棚は崩落寸前なのであった。あはは。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
とりあえず、30日の文章教室が終わったら、パリを離れ、クリスマス前までは、田舎に逃げようかな、と思っています。週明け、不動産屋さんとやり取りをしてからになりますけれど、長谷川さんにここはまかせて、笑、ぼくは一旦パリを脱出する、がよかでしょう。すまんです、長谷っち。(長谷っちは元通訳、在パリ30年超のベテラン仏語人なので)えへへ。夏休みも土日もずっとなかったので、12月はちょっとだけ、のんびりさせて貰いたいので、この災難はなかったことにします。「パリごはん」のディレクター義和さん、そういうことなので、料理は田舎でやることになりますけれど、よかでしょうか? タイトルを「父ちゃんのフランスの田舎ごはん」にしませんか?
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