JINSEI STORIES
退屈日記「孤独にさようなら。息子が生まれた時に思い付いた物語の種子」 Posted on 2022/11/19 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、映画がひと段落したので、ぼくは作家に戻っている。
新しく書いているのは三田文学に連載中の「動かぬ時の扉」だけだけど、いつものように昔の作品も掘り起こしては、読み直したり、手を入れ直したりしている。
今日は、2007年に出版され、絶版になっていた「孤独にさようなら」という小説をリライト、再編集し、電子書籍版として世に出した。
ボタンを押したら、ひゅっと世界中で発売になってしまったのだ。
凄い時代じゃないか。
弟の恒ちゃんがやってるdesign stories booksの第三弾(合計4冊)となる。
個人的には「絶版文庫」と呼んでいるシリーズで、出版社が手放した子供たちを蘇らせる運動でもあるのだ。
ぼくは電子書籍で本を読むことがなかったから知らなかったが、意外と、これが読まれるのだ。
で、どこの国で読まれているのかなどもわかるのが面白い。
もちろん、日本が一番多いけれど、アメリカやカナダ、フランスという順番で世界各国の日本語人が読んでくれている。
日本を長い年月離れた日本の方が、ハワイとかブラジルとかに移民された昔のお爺さんとか?、きっと懐かしがって電子のページをめくってくれているのだろうか。
絶版になった作品だけど、その時代のぼくにしか書けない小説なので、なんとしてもこの世から消し去りたくなかった。
それで、design stories booksを立ち上げた。
だって、作品は財産だものね、想像の子孫だし。
出版社が見放した作品なのに、新たな方々に、読まれているのが実感できるので、kindleってすごいなぁ、と最近、感心している。
要は、これも、自家発電の一種なのだ。
絶版というと、暗い響きだけれど、自家発電で明るめに生きるのが信条のぼくにとって、この電子出版は、作家としての生き残りをかけた壮絶な戦いのささやかな武器になる。
自家発電で明るめ、大事だね。
「孤独にさようなら」、どういう物語かというと、・・・
『心に傷を負った少年イタルは、奥深い森の中に迷い込んだ。そこで出会った3人の男たち、キング、ヨゲンシャ、ブンセキ。不意に始まった彼らとの共同生活は少年に安らぎを与え、日々の小さな奇跡は少年に再び希望をもたらした。「生きる」とは?少年の成長を描く感動の長編小説』
ということらしい。
これはスタッフが書いたものなので、感動するかどうか、ぼくにはわからない、あはは。
ファンタジーの要素が強い、ちょっと不思議な物語であることは間違いない。
どうやって、ぼくはこの小説を思いついて書いたのか、もう思い出せないけれど、2007年に初版が世に出ている。
ちょうど十斗が生まれた直後から構想を始めたのは覚えている。
この子はどういう子になるのだろう、と思いながら、ぼくは構想を練ったのだ。
あ、今、ぼくの携帯に息子からメッセージが入った。今日、バカロレア(高校卒業資格)のディプロムの授与式が母校であったんだよ、と書かれてあった。
そうか、そうか、・・・
あの子が生まれてすぐに構想を開始し、あの子が3歳の頃に出版されたので、間違いなく、十斗の存在がこのイタルという主人公を生みだす最初のイメージになったのだと思う。
その子が今、大学生なのが信じられない。
そして、それを記念するように「孤独にさようなら」が世に出るのも不思議である。
イタルはある事情があって、言葉を失った。酷い人生を生きていたがある日、森の中へ、飛び込んでいく、という出だし・・・。
ぼくはこうやってたくさんの物語を紡いできた。百冊以上の本を出した。
それでも、もっともっと伝えたいことや、物語がある。どうなってるんだろう、ぼくの頭の中、・・・不思議である。
さて、読んでみたい皆さん、こちらから、どうぞ。
「孤独にさようなら」Kindle版
つづく。
今日も読んでくれてありがとう。