JINSEI STORIES
滞日日記「ぼくは自家発電で明るめに生きる。ちょっとだけ、明るめに」 Posted on 2022/11/19 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、人間は鬱になったり、ハイになったり、忙しい。
父ちゃんはだいたい起伏が激しい性格で、人生の浮き沈みが半端ないので、ほんと、自分のこの性格には、かなり手を焼いている・・・。
でも、しょうがない。自分を嫌いになるのはよくない。
自己嫌悪は父ちゃんにもあるが、父ちゃん的には、そんな自分でも好きであらねば、とつねに心掛けている。
他人を嫌いになるのは百歩譲ってもしょうがない。他人だもの。そりゃあ、みんな考え方も生き方も全部違うのだからうまくいかないのは当たり前と思って、腹を立てないようにしている。
でも、自分を嫌いになるのはよくない。
他人を尊重出来ない時でも、自分は尊重しなきゃ、と思っているのだ。
どうじゃ、この図々しさ。でも、このくらいじゃないと押しつぶされてしまうよ、この世界で生きてる限り・・・。
たぶん、生きている間だけが、ぼくの世界、なんだと思う。
死んだら終わりじゃ、とうちのお祖母様が言っていたが、その通りだな、と思う。
昨日、誰かが、生まれ変わったら大学で勉強をし直したい、と言った。
ぼくは、「今からでもぜんぜん遅くないですよ」と言った。
そもそも、生まれ変わるとか、来世とか、まじで興味がなく、辻さん、どうするの? と言われたので、
「もう、二度と生まれかわりたくないんですよ」
とだけ言っておいた。
生きているうちに現世に未練があるのはぼくの生き方じゃないので、次のことまで考える余裕がない、というのが本心なのであーる。
とくに辻仁成なんかもう二度とごめんである。
そもそも、生まれ変わりたくない。こんな面倒くさい人間、二度と関わりたくない。あはは。
でも、今は、まだ辻仁成の生存過程にあるから、そんな自分でも好きでいたいのであーる。それが自分を尊重するということだ。
来世を夢見る暇があったら、ぼくは今を徹底的に素晴らしいものにしたい。
今日は、またまた事情があって、キッチン付きのマンションから出て、今はホテルの部屋でこれを書いている。
日本滞在中はいろいろな場所に宿泊する父ちゃんだけれど、移動先で自分の生活空間を創ることにはベテランになった。
どこでも自分らしさを適応できるよう、身の回りはコンパクトにしている。
ホテルは、ベッドがあって、小さな机があって、窓が開かないので、まぁ、仕事には集中できるじゃん、と自分に言い聞かせている。
昔、作家は出版社がホテルを用意し、そこで缶詰めになったものだ。
今、小説は読まれなくなったので、出版社も作家を缶詰めにするほど、お金もない。
ぼくは自力で、頑張る。
都内を移動する時は最近買ったTUMIの小型トランクが気に入っている。
なにせ、ぼくのイニシャル入りなのであーる。
パソコンが二台入るし、機内持ち込みが出来るので、可愛いし、かっこいい。これを引っ張って颯爽と東京を闊歩している、父ちゃんなのだった。
こういう小道具に凝るところは「男の子」だねぇ。
抗生剤のせいか、ここのところ、風邪ではないけど、なんとなく安定していない。おかしな感じがする。あれだけの手術をしたので当然だろう。
こういう時に、ぼくは自家発電で明るめに生きることを志している。
自家発電しかない。
自分で自分を発奮させることが大事だ、ということであろう。
自分をおだてるというか、自分を励ますというか、自分を褒めてやるところからまずはじめ、盛り上がってきたら、自分の背中をおし、自分の肩を抱きしめ、自分にはっぱをかけるのである。
調子が出てきたら、自分の応援団になり、自分の伴走者になり、自分の一番の味方になるのである。
これが父ちゃん流の自家発電で明るめに生きるコツだと言える。
たまには、美味しいレストランでお金を使い、たまには好きなものを買い、たまにはちょっと贅沢したって、いいのである。
そのために頑張って稼いだお金なのだ。がめつく貯蓄していくのはしょうにあわない。
いつミサイルが飛んでくるかわからないこの世界なのである。
稼いだら使えばいいんだ、とぼくはぼくに言い聞かせている。
よし、こうやって書いていたら、やる気が出てきた。
これこそ、自家発電の真骨頂と言えるだろう。
えへへ。
合言葉は熱血~。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ホテルは好きだけど、長くは暮らせないですね。やはり、キッチンがないと。明日はだんちゅう料理会なので、キッチンで頑張る父ちゃんなのです。また、詳しくご報告しますね。