JINSEI STORIES
滞日日記「映画がついに完成!父ちゃんの手を離れた。中洲のこども」 Posted on 2022/11/17 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、父ちゃん、ぼこぼこにされたような酷い顔なので、家から出られない。
今日、午前中はずっと地球カレッジに送られてきたエッセイを読んで過ごした。
外出できないし、いつもより、応募エッセイが少ないので、逆に、ゆっくりじっくり読んで考えることが出来た。ふむふむ、なるほど~。
今回は「推敲」がテーマなので、どう、書き直したらよくなるかなぁ、などと考えながら、ベッドの上でおとなしく読書して過ごしたのだった。
すると、「外に出ておいでよ、お茶でもしよう」というライン、どの顔で? 友だちが心配して善意で言ってくれているのはわかるけど、こんな顔なんだから無理。ロキソニンを2錠飲んだ。薬で痛みは和らぐけれど、心は癒されない。
いや、ナルちゃんだからね、出かけられないし、この気持ち、わからないんだろうなぁ。本当にマジやばい顔なんだ。でも、心は錦なんだ。あはは。
唇の周辺がぶくっと腫れて、ナルシストな父ちゃんだからね、これは、なおさら辛い。歯のことよりも、顔の赤いかさぶたがもう気の毒すぎて、会ったら、びっくりぽーんだっちゃ。
19日のだんちゅう料理会、申し訳ないけど、ずっとマスクで帽子かぶって眼鏡かけて、誰だかわからない感じで、奥の方で、おとなしく、シェフしますが皆さまお許しください。
※ 今はもうない、この笑顔・・・。
落ち込んでいたら、イタリアの知り合いから、
「ミラノ中央駅に直結している本屋、la Feltrinelliに立ち寄ったら、辻さんのエッグマンが売ってましたよ。平積みなんだけど、あと、一冊! あと、一冊! 買いました」
という嬉しいメッセージが入った。マジか!!!
久しぶりに笑顔になったら、唇が裂けて、ぎゃああああああああ!!!!! せっかくかさぶた出来ていたのに、切れた。滲む血がまぶしいぜー♪
その本をロンバルディア州のビルの39階で読んでいるというイタリアン・マダム、うわ、不意に元気になった父ちゃんであった。
イタリアの皆さん、いるこんとぷれふぁぼーれ!!! けいさんしょちょせよー!
そうか、こうやって、イタリアの読者の人たちは「エッグマン」を楽しんでくれているんだ、かっこええ!
父ちゃん、落ち込んでる場合じゃないだろ、熱血じゃんか、こんなところでぐずぐずしていたらいけん。外に出なきゃ。仕事に行けよ!!!!
ちょうど、地球カレッジに届いていたエッセイ、7本を全部読んだので、ぼくは出かけたのであーる。目指せ、新宿のポスプロ・スタジオ。
※ エッグマン、イタリア人に受けている・・・。卵は世界を繋ぐんだ。今度、煮卵の作り方をイタリアの皆さんに教えてさしあげたい。えへへ。イタリア在住の日本の皆さん、どうかどうか、父ちゃんをイタリアで全国区にしてくだせー、イタリアに呼んでくだせー。飛んでいきます。飛んでイスタンブール! ちゃうやろ。
※ ここの一番読まれるコーナーにあったらしい。イタリア情報によります。売り切れている店もあるんだって、ほえ、いいね。前向きな話に飛びついて、歯の痛みを忘れられる単純な父ちゃんなのだ。
今日は休むつもりだった。プロデューサーさんも誰もいないのに、監督一人行ってもダメかな、と思って。しかも、手術の直後なのであーる。
体調も悪いし、でも昨日、母さんにも「投げ出さないで最後までやり切ります」と約束した映画の仕事である。
母さんも福岡の皆さんも全国の応援団も待っている。たった一人でも父ちゃんはやるんだ。エッグマンパワーで行くぞ!!!
「やっほー、来たぜー。父ちゃん監督だよー」
静かに仕事をしている整音部の皆さんが、ぼくを振り返って、引いた。中華の一笑WAKIYAさんで買ったチーズケーキを差し入れた父ちゃんであった。
「うまいぞ、みんなで食ったれー」
「監督」
「はーい、俺だぜ」
「監督、あの、どうされたんですか? 妙にハイですね」
※ ロキソニンを飲みすぎて、ハイ、な顔面腫れ男が静かなスタジオで大暴れ~。
「あはは、ミラノの駅前のマダムが39階で卵男のページめくってるんだ。君、ぼくの顔見る?」
「結構です。それよりも、ちょうどよかったです。これから、頭から出来たところまで、チェック頂きたいんですが」
「いいね、いいね。観ようじゃないの。問題点がないか、チェックだぁ」
ということでここから、父ちゃんはエッグマン・パワーで頑張ったのであった。
小宮さんという整音のボスがいるのだけど、この人は前作「東京デシベル」でもご一緒させてもらった録音の天才で、まるで別の映画を見ているようなダイナミックな音像、仕上がりになっていた。
驚いたのは、息子の音楽がかなり使われている点。
「こんなに十斗の音楽使うの? いいの。なんか邪魔じゃない?」
「監督、エンターテインメントにしましょうよ。彼の音楽、けっこう使わせてもらいました。いいと思います」
「おお、あいつ、観たら泣くな」
「大丈夫っすか?」
父ちゃん、号泣しているのである。エンドロールに、親子の名前が並んでいるのだもの。泣ける・・・。ありがとう。小宮さん・・・。
ということで、今日、ダビングの作業が終わったのである。
「監督、終わりました。どこで撮影します?」
「撮影?」
「はい、普通、ここで、全員で撮影するんですけど、監督しかいないから、ぼくらと5人で、完成の記念撮影を」
「完成の! そうか、ついに完成したんだ」(※本当の完成は公開前になります。配給が決まって)
おおお、号泣であった。長い3年だった。号泣の号泣・・・。涙がとまらん。ついに!!!! この作品が父ちゃんの手から離れていく~。がんばれよ~、映画「中洲のこども」
よっしゃ。みんなで記念撮影じゃあ。
「あのね、合言葉は熱血~といいながら、写真撮影するからね、いいね、行くよ、Vサイン頼むよ。みんな、カメラ見てね、わん、つー、すりー」
「合言葉は、熱血~」
※ 右から原さん、森ちゃん、小宮さん、岡部君、そして、痛々しい、エッグマン辻!!!
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで父ちゃんの仕事はほぼ、終わりました。普通の映画はここで完成をするのですが、この作品は配給も決まってないし、プロデューサーもいろいろ大変そうだし、笑、たぶん、来年、福岡中洲あたりから上映出来たら、という話にはなっています。その直前に、映画は本格的に完成をするはずです。ひとまず、「中洲のこども」はぼくの手を離れました。ぼくの中では、完成となります。お疲れさまでした~。←自分、3年間ほんとうに頑張ったな。おつかれ。by 心の声。