JINSEI STORIES
退屈日記「術後の父ちゃんの愉しみはマスクを外して腫れた顔を見せて驚かすこと」 Posted on 2022/11/15 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、さすがに昨日の手術のあとはスタジオには行けなかった父ちゃんだったが、今日の朝は8時に起きて、一日ぶりにヨーグルトを口にいれ、抗生剤、胃薬、頓服を飲んで、出発とあいなった。
10時からポスポロのスタジオで仕上げの作業を行った。
今日は、ほぼ映画が完成に近づき、最後のダビングという作業に。
ダビングとは、映画に音をはりつけていく作業、整音の作業だけれど、ここで映画が見違えるように変化する。
顔はめっちゃ腫れているけれど、身体は元気なのだ。歯は痛いし、頭もちょっと・・・。でも、休んでも一緒だから、一応、毛糸の帽子かぶって、マスクをしていると、顔が腫れていてもわからない、へへへ。
で、会う人会う人に、
「今ね、こんな顔だよー」
と見せている。
きゃあー、とか言われるのでちょっと楽しい、おバカな父ちゃんなのだった。(でも、唇は腫れが酷く、本当に元に戻るのか、ちょっと心配。数か月は痣が残るかもしれないなぁ・・・)
「辻さん、手術、どうでしたか?」
スタジオで夜の帝王ことHプロデューサーに言われたので、マスクを外した。
「うわああああ。やばいですですです」
「ふふふ」
スタジオでも、整音の小宮さんに、
「ほら、今、こんななんですよ」
「うわああ、大丈夫っすか、ぼくらだけでやりますから、辻さん、休んでいてください」
「平気平気、手術なんてあっという間に終わったし、ずっと楽勝で笑ってましたわ」
泣いていたくせに、この性格、なんとかしてほしい・・・。
それでも、過去はもう振り返らない。昨日があんなに辛くても、今日は明るく前向きに、前進している熱血父ちゃんなのだった。
スタジオの昼休み、みんなはレストランなどに食事に行った。父ちゃんは外食も無理なので、コンビニで買った豆腐そうめんで済ませる。
何が辛いって、お酒が飲めないことである。
思えば、ここ十年、アルコールを半日たりと抜いたことがない。ずっと呑んでいる。しかし、さすがに昨日は先生に、禁酒、と言われたので、守った。抜糸するまでは禁酒が続くのかと思うと、精神的に不健康で仕方がない。
コンビニで、じっとガラスの向こうに並ぶ、ハイボールとかビールを見つめて、いいなぁ、と思っている。
というか、まだ硬いものを食べられる体力がないのだ。
昨日は何も食べなかった。
豆腐そうめんが最初の食事になるのだけど、口が開かない。けっこう、食べるの、難しい。しかも、片側の歯だけで食べるのもっと難しい。
可愛い唇(ゲッ)と思っていた父ちゃんの唇、昨日の手術のせいで、今は左側に5ミリくらい裂けてる感じ、その周辺が赤く痣になってどんどん腫れていく。ふわあ、恐ろしい。
先生、この唇は元に戻りますか?
19日にdancyuの料理会があるのだけど、撮影もあるんですけど・・・。
そこまでには元通りにはならないでしょうね。マスクをして、髪の毛で隠して、やるしかないか、ま、コロナ禍でよかった?
おっと、笑い事じゃないのであーる。
で、みんながこの顔を面白がるので、自撮りをして、ラインの仕事関係者に送ったら、さすがに皆さん、ひいた。
「っ、辻さん、お、お大事に・・・」
つまらない。誰も誘ってくれなくなった。
もっとも、ご飯は食べられないし、お酒も飲めない、あ、アルコール禁止だから、幻の妻にも会えないじゃん、やれやれ。
お医者さんに言われた注意事項、
1, つばを強く吐いてはいけない
2, 激しくうがいをしてはいけない
3, 刺激物、硬い食べ物、飲酒、熱い風呂、などの禁止
4, 可能しやすいので自分の指で触らないこと
それでも、熱血父ちゃん。手術は無事に終わり、問題は解決されたのだから、前向きに進んでいきたい。きっといつか、また元気よく美味しいご飯を噛めるようになるなら、大丈夫だ。
ともかく、身体は元気だし、熱血は戻りつつあるので、今回の出来事はポジティブにとらえていきたい。歯は男にも女にも命なので、歯磨きとか、定期健診とかぜひ、怠らないで頑張っていきましょう。
あ、唇の横がかさぶたになってきた・・・。これはこれでやばくない??? 暫く誰にも会えない感じ? プロモーションビデオ、先に撮っていて、不幸中の幸いでした。
ともかく、熱血で、行きます。
※ このスタイルだと、顔の腫れははた目にはわからない!
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
というか、そっか、地球カレッジ、この顔でやらないとならないのですね。まだ、二週間あるけれど、たぶん、腫れは引いていると思いますが、この様子じゃ、唇の周辺の痣は残っているかもなぁ。申し訳ありません。その分、熱血で頑張ります。その頃には、抜糸も終わり、食事も普通に出来ているはずですからね。よしゃあ、熱血~。