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滞日日記「息子にカッチーンしていたころが懐かしい。父と子の未来とは」 Posted on 2022/11/14 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、息子がつくった映画のテーマ曲が、関係者内でだけど、とっても評判がよくて安堵する父ちゃんなのであった。
ちょっとクラシック曲っぽいが、途中から流行りのヒップホップのリズムになって、最後は再びテーマに戻って、終わる。
大学とアルバイトのはざまで作った曲なのだが、いい曲が生まれてホッとしている。
タイトル訊いてなかったことを思い出し、今朝、メールをしたら、先ほど、七月の空「Ciel de juillet」と決まりました。(山笠の期間の映画だからね)
息子は6年間大学&大学院に通うことになるらしいので、彼が卒業するのは2027年ということになる。あれ、2028年かなぁ。
ま、とにかく、まだまだ先は長い。フランスの大学は相当卒業が難しいので・・・。
彼が世に出るのは23歳か、24歳以上ということで、やれやれ、いったいどこに就職するというのだろう。
「その大学を出て、どういうところに就職できるの?」
と前に訊いたことがあった。
「うーん、国の仕事かなぁ。都市開発だから、街を作る最初の段階がぼくの仕事になるんだよ。どういう都市を作るか、地盤や環境問題とかの調査もするし。そこから都市全体の最初のイメージを組み立てる仕事・・・」
「ほー」
「ぼくはフランス政府と日本政府が共同で開発をするような大規模なプロジェクトに参加出来たらなぁ、とは思っているけれど、ま、いつだろうね」
と言って、笑った。
今は夢が多い年齢なので、否定は絶対にしちゃいけない。いいね、いいね、と盛り上げておいた。
「でも、環境問題だけじゃなく、人口問題とかもあるから、大変な仕事だね。百年後とか、何百億もの人がこの星で生きなきゃならないものね。パパはもういなくなるけれど、君たち以降の世界は、君たちがデザインしていかないと」
「いや、パパ、人類は100億を超えることはないよ。この星の大きさには限りがあって、コップを想像してよ、無限に水を入れられるコップはないでしょ? 同じように、この星も一定数以上の人間は生きられない。つまり、土地やエネルギーや食料も含めて難しいんだ。わかる? 容量がないんだよ」
「なるほど」

滞日日記「息子にカッチーンしていたころが懐かしい。父と子の未来とは」



「都市開発というけど、どうやって人々が未来、この星で生きていくことが出来るかを、研究している大学なんだ。つまり、現実的な開発ばかりがぼくの仕事じゃなく、その逆もある。そうしないと、人類はここに収まらない」
「ほー」
「残酷な話だけれど、この星で生きられない人々はすでに相当数いて、飢餓などもそうだし、今、起きている戦争もある周期で起こるのはどういう因果関係があるのか研究していかないとならないだろうし、不完全な人間が本当にこの星とずっと共生できるのかを考える学問なんだ。そういう仕事があれば、そこで働きたいと思ってる」
「音楽は?」
「音楽は仕事でやる必要もないよね? お金にしようと思うと、苦しくなるから、機材買ったり、コンサート開催できるだけの予算を稼げたら、それで十分。ぼくにはちょうどいい。むしろ、ぼくの音楽も都市開発の中に組み込めたらいいよね。人々が求める音楽と都市が融和するようなもの」
「ほー、いいね」

滞日日記「息子にカッチーンしていたころが懐かしい。父と子の未来とは」



ここしばらく息子とは会ってないけれど、会うと、だいたい、こういう話になる。
高校生の時のやりとりではなかった。大きく変化した。
それから、同じ屋根の下で一緒に暮らしていた時は、会話がなかったけれど、彼が一人暮らしをしはじめ、実家(ぼくの家)にやって来るようになってから、会話が増えた気がする。
親子関係は良好であろう。
実は昨日、彼がつとめる(つとめていた?)レストランのオーナーと電話で話をした。
ワインについての別件のやりとりだったが、ちょこっと息子のことについて話が及んだ。
せっかく雇ってもらったのに、大学の勉強が忙しくなって続けられなくなり、迷惑をかけたのは事実で、とはいえ、親が口出すことでもない、と思ってはいたが、ひとこと、すまなかったね、と謝った。
「いやいや、彼はうちで働いた短い期間に、社会人として大事なことを学んだんじゃないかな。それが何よりの意味だったよ。また、余裕が出来たら、いつでも戻ってきてほしい。彼はソフトでお客さんの受けもよかったし、筋がいいと言ったらおかしいけれど、人当たりがやさしいので安心して任せられた。スタッフとの相性もよかった。でも、大学生は勉強をするのがまず仕事だからね、仕方ないよ。まずは勉強を頑張ってほしい」
どうやら、ちゃんと先方に説明が出来ているようだ。よかった。親として、安堵した。
そのことを十斗に伝えるか、悩んだけれど、言わないことにした。彼はもう、先へ向かっているはずだから・・・。
でも、パリに戻ったら、また、会えるのがうれしい。
どんどん成長していく息子を見守るのが、まだまだ、ぼくの大事な役目なのだから、頑張らなきゃね。
久しぶりに言っておこう、
「合言葉は熱血~」

つづく。

滞日日記「息子にカッチーンしていたころが懐かしい。父と子の未来とは」

※ 抗生剤、明日から呑み始めます。



今日も読んでくれてありがとうございます。

ニューアルバム、ミックスが終わりました。現在、パリでマスタリングという作業に入っています。順調にいけば年末に世界配信できます。で、アルバムタイトルで悩んでいましたが、「Echoes」にしようかな、と、あはは。というのは半分がエコーズの曲で、残りがソロ時代の曲、一曲新曲、という、セルフカバーアルバムだから、ぼくの人生の反響のようなものなので、反響=Echoesだから、ちょうどいいし、・・・。
いや、違うなぁ。今回のアルバムの特徴は、ブラジル、アフリカ、フランスのラテンミュージックが混ざった演奏スタイル、かなり、ソウルフルだから、ZOOもジャズボッサだし。・・・ソウルマン辻かな。笑。
実は、「熱血」にしたかったのだけど、辞書で調べたら、hot bloodと出て来て、明日に手術を控えて、熱い出血、みたいな、やばいよね。
アーティスト名は、前にお伝えした通り、ここから、シンプルに「TSUJI」でいこうかな、と。フランス人は「ひとなりつじ」って言えないんですよ。「じんせいつじ」も言えない。みんなに、ツジーと呼ばれてるから、だから、ただのつじ。いいね。
あ、歯の手術、頑張ってきますね、熱血~。どぱー。

地球カレッジ

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※ 帰国にむけて、新しいトランクを二つ、買いました。



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