JINSEI STORIES
滞日日記「ついについに月曜日に大学病院でぼくは抜歯することになった。憂鬱な週末」 Posted on 2022/11/13 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は快晴の土曜日だからか、犬を散歩している人たちとけっこうすれ違った。ええと、3人かな。
一人は六本木ヒルズのカフェでお茶をしているマダムで、フレンチブルドッグをベビーカーの中に載せていて、その子がベビーカーによじ登って、周囲の人を眺めているという微笑ましい光景が・・・、え、え、え。日本もカフェにわんちゃん入れるんだ!
あ、ヒルズのテラスは半分外だから、犬連れもオッケーだったのだろうか。しかし、よく考えてみたら、昔、代々木公園のところに犬と入れるカフェがあったっけ。
いいカフェだった。
そこで、調べてみたら、ペット同伴で入れるカフェがけっこう都内にあった。保護犬が出迎えてくれる店とか、麻布十番のイタリアンレストランもOKだった。かなりあるんだねー。
パリのカフェはお犬様天国なので、三四郎はカフェに入れるのが当たり前だと思っている。自分から、どんどん、カフェに入っていくのだから、いつもお客さんらがほほ笑んでいる。
ふー、さんちゃん。ホームシック、半端ない。あともうちょっとでフランスに戻れるが、月曜日に手術が決まったので、ちょっと緊張感高まってきた。
帰仏よりもまずそっちの解決がまず重要であろう。抗生剤をとりにクリニック行ったら、月曜日にぼくがお世話になる病院の女医先生がいた。
歯科衛生士さんが日記を読んでいて、ぼくがあまりに暗く落ち込んでいるものだから、先生と面会をさせてくださった。
「どうですか? この治療、てこずりますでしょうか?」
ぼくは訊いた。
先生は、大丈夫ですよ、とは言わなかった。ぐぐぐ・・・。
「歯茎を切開して、歯の虫歯の進行具合を見て見ないと何とも言えないですけが、もしも、虫歯が酷くて、中がボロボロだと、ちょっと厄介ですね」
レントゲンに映った黒い虫歯の範囲はけっこう大きかった。二年前は真っ白だったのに・なぁ・・。歯茎の中にある親知らずなのに、なんで、虫歯になるの??
ボロボロだったら、どうやって、除去するのだろう。またまた、眩暈が、落ち込む・・・。
でも、一月ほど前から奥歯に違和感を感じていた。それで発覚したのだから、やはり、かなり問題があるのかもしれない。
「局部麻酔ですか? 全身麻酔ですか?」
ぼくは自分で質問をしておきながら、頭の中が真っ白になってしまい、先生が何と答えてくれたのか、覚えてない有り様であった。あはは。
とぼとぼとクリニックを後にした。
まず、歯を直して、パリに帰る。ここは修行だと思って頑張ろう。
なんか、今までぜんぜん痛くなかったのに、気のせいかめっちゃ歯がうずく気がしてならない。するとそこに、だんちゅうの植野編集長から、
「ところでTシャツのイラストですが、新しく描いていただけますか? 料理会までに間に合わせたいな、と思いまして」
メッセージが舞い込んだのだった。
えええ、そんな急な発注だったのか!
ぼくは「いつか」の話だと思っていた。来年とか再来年とか、今なんだ。
歯のことで落ち着かないので、何かに集中しようと、「わかりました、描きます、」と返信し、画用紙に向かった父ちゃんなのであった。
ぼくは素人だから、いきなり描き始めてしまう、そして、描き終わる時が完成なのだ。
さっそく、植野編集長に送ったら、
「面白い、でも、すいません。Dではなく、dなんですが、直せますでしょうか?」
というお返事。そこか、とひっくり返った父ちゃん・・・。
DANCYU じゃなく、dancyuだった。連載しているのに、ドジった。
修整ペンで直せるようなものではないので、結局、この絵はボツになってしまった。おおお、ぼくの失われた時間よ、帰ってこい!
植野さんの顔、ぜんぜん似てないなぁ。くくく。確かにこれはボツだね。
また、いつか再チャレンジしてみたいと気持ちを切り替えた父ちゃんであった。
そしたら、植野編集長から、
「辻さん、前のブログにアップしていただいたイラストでTシャツを作らせてもらいます」
と優しいお返事が・・・。あの絵は、下書きだったが、ま、いいか。
ぼくら二人のTシャツ、いったい、誰がどのタイミングで着るの?
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
そういえば、クリニックを出るときに、
「辻さん、保険証忘れないでくださいね」
と言われました。
「あ、ぼく非居住者だから、保険証ないんです」
「あ、じゃあ、かなり高いですけど」
「もちろんです。それでも、フランスよりは安いと思います」
そうなのです。
歯医者さんの治療費と、眼鏡を作るための検査代だけは異常に高いフランスなのであった。
癌だと全部タダ(病院までのタクシー代まで出る)なのに、なかなか、いまだよくわからない仕組みなのであります。