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滞日日記「またしてもぼくの身体に異変が、外科の先生まで出て来て、大騒動に!」 Posted on 2022/11/08 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、なんかここ最近、ものを食べる時に、歯が浮くような変な感じ?違和感につきまとわれていたので、ま、せっかく東京にいるんだから、そうちゃん先生に相談をしてみよう、と思い立ち、クリニックへ。そしたら、大変なことがわかってしまったのだ。とりあえず、レントゲンをとることになった。
そうちゃんが、どこからか、外科の先生を連れてきたのである。
「辻さんね、こちら、外科の先生ですが、ちょっと相談をしました」
「はい」
ぼくは治療椅子に横たわっている。外科の先生が登場するということはただ事ではない、と思って、その瞬間、「簡易覚悟ボタン」を押しておいた。(これは超便利です。なんか起きそうだな、と思う前に、簡易覚悟ボタンを押せば、たいていの大変はごまかせまする)
「この左上の奥歯のところに、親知らずがあります」
ぼくは舌先で触ってみるが、歯茎があるだけで、ない。
「ありませんよ」
「その歯茎の下にこんなに大きな親知らずがあるんですよ」
「ほー、親知らずじゃなく、本人知らず!?」
「で、2年前に撮影したレントゲン写真がこちらになります。真っ白でしょ?」
「あああ、ほんとだ。今は中心が黒くなってますね」
「虫歯です」
「歯茎の中でも虫歯になるんですか?」
「これは非常に珍しいケースです」
出た、来たよ来た来た!
非常に珍しいケースの虫歯め、ぼくは負けないぞ。簡易覚悟ボタンを三回くらい叩いておいた。でも、怖い、・・・・。
「先生、どうなるんです?」
「歯茎を切開し、この歯を抜かないとなりませんが、上の奥歯で、頭に近い・・・」
「ううう、大変そうですね」
「しかも、辻さんは男性にしては口が小さい。だから、その、切れる可能性があります」
「切れる?」
うわ、そんなこと、さらっと言うのかい。眩暈。

滞日日記「またしてもぼくの身体に異変が、外科の先生まで出て来て、大騒動に!」



簡易覚悟ボタンをぼんぼん叩いたが、もはや黒田バズーカ砲程度の効き目・・・。
「飛行機の気圧でものすごく頭が痛くなる可能性があります。今まで平気でしたか?」
「平気でした。でも、いつ起こるかわからない? そういうことですね?」
「その通り。痛みが急に出る可能性あります。かなり虫歯は大きいので」
オランピア劇場のようなライブが決まっていて、そのタイミングで歯茎の中の虫歯が騒ぎ出したら、と、想像し、ぞっとした。
「でも、パリに戻られてから手術をされてもいいと思います。上手な先生を探して、やってもらってください」
フランスの歯医者は予約がとれないので世界的に有名なのだ。歯が痛いのに、一月待ちという人もいた・・・。
ぼくは携帯をとりだし、11月中のスケジュールとにらめっこした。なんとか、日本で手術を受けられないか、・・・しかし、空きがなかった。映画が完成したらその足でパリに戻ることになっている。
いつ痛み始めるのかわからない盲腸みたいなものを抱えている、のだ。

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ひとたび、病院を出て、ぼくはトランクを買いに鞄屋さんまで歩いた。
快晴の東京、表参道が美しかった。
頭の中には、いつ爆発するかわからない親知らずの画像が、あった。
鞄屋さんで可愛いトランクがあったので、それを購入した。なんと、ぼくのイニシャル、HTを付けてくれた。わお、なんてかわいいんだろう。
ウキウキしながら店を出たのだけど、外に出た途端、現実が押し寄せ、親知らずがうずいた、気がした。
フランスの歯医者さんのクオリティは高い。でも、やはり日本人の馴染みの先生の関係でやってもらった方がいいのじゃないか。
いらいらしながら、年を越すのも嫌だ。痛いのを我慢して、ストレスがたまるよりも、今、スケジュールのあいだをぬって、手術をしちゃった方がいいのじゃないか。
もしも、もしも、不意に、オランピア劇場でのライブが決まったら、歯が痛いなどと騒いではいられない。おらんぴあー、しらんぴやー、どうなってるんぴあー。
ぼくは、携帯を取り出し、そうちゃん先生に電話をした。
「先生、やはり、手術してもらえないでしょうか?」
「辻さん、うちではちょっと難しいオペになるんですよ。もし、ぼくに預けてくださるなら、うちと提携している大学をご紹介させてもらいます。大学病院でやられた方がいいです。まずは、スケジュールを出してください」
そうだ。顔が腫れるんだった。
そういう顔で、だんちゅうの料理会、ダメでしょ? マスクはしているし、ロン毛だから、大丈夫かなぁ。別にぼくの顔見に来る人はいないか・・・あはは。
「わかりました。スケジュールは映画のスタッフと相談をし明日には出します」
ということで、日本で親知らずを抜く、歯茎を切開して、そこを抜歯する、ことになりそうだ。しかし、わかった以上は先延ばしにはできない。問題は解決して前進をする!
よっしゃ、熱血で、乗り切ろう~。
「合言葉は、熱血」

滞日日記「またしてもぼくの身体に異変が、外科の先生まで出て来て、大騒動に!」



つづく。

今日も読んでくださってありがとうございます。
いや、次から次にいろいろと出てきますね。そういう年齢だからしょうがないですね。でも、違和感がある→クリニックへ、という対応は正しかったと思います。フランスは本当に予約がとれないのです。たかが歯だろ、と笑ってはいけません。目医者さんも歯医者さんも一月待ちが普通だったりするフランスなのです。友だちが歯医者さんで助かりました。そうちゃん先生を信じて、今は、続報を待ちます・・・。

地球カレッジ

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※ お知らせ、2
今、小田急線で「新世代賞」の展示やっていますよ。ぜひ、小田急線沿線のみなさま、見上げてください。

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