某月某日、十斗のお兄ちゃんとその奥さんがやって来た。
なんでかというと、誕生日（先月だった）のプレゼントを渡したい、というのであーる。マジか、嬉しい。もちろんだよ、おいでおいで、ご飯を作るね、となった。
息子夫婦は本当に絵に描いたような可愛いカップルなのである。奥さんがありえないくらいよくできた人で、彼は幸せなのだ。十斗のおにいちゃんは、かなり芸術家タイプなので、なんというか、この人がいて、よかった。ふふふ、自分を見ているようで面白い・・・。
息子さん（十斗を息子くん、おにいちゃんを息子さんにしておきます）は、ぼくに大きな絵をくれた。まだ油絵の匂いが生々しい、描いたばかりの作品である。おお！
とってもシュールな絵だけれど、引きあう力とバランスを感じるアートであった。
「ありがとう」
ぼくが言うと、息子さんはくすくす微笑んでいた。
「どうやって、持って帰ろう」
「このままでも飛行機、預けられるよ」

※　この写真はイメージです。東京のホテルでたまたま撮影していたので、一緒に撮影しちゃっただけで、知らない方々でした。おめでとうございます。

ぼくは若者が喜ぶような料理を数品つくって、二人の前に出してあげたのだ。
「今までは、〇ちゃん（奥さんのこと）の料理が世界一だったけれど、父さんの料理が圧倒的に一番になったなぁ」
と息子さんは言ったのであーる。えへへ。
それを何よりも喜ぶ、お嫁さんなのであーる。涙が出そうになる・・・。あわてて、ももの肉をつねった。痛―い。
明日から彼らはアメリカに仕事に行くのだそうだ。その前にどうしても、この絵を渡したかった、のだとか・・・。すまない。
ぼくらは家族とか、愛とか、未来とか、そういう話をした。
つまり、料理をしながらなので、重たいテーマの時も、さらっと流すことが出来たのだった。
「美味しい！」
「美味しい」
一皿一皿、彼らが歓喜してくれるので、ぼくはまた泣きそうになった。
これだよな、家族ってこれだよなぁ。
途中で、十斗の話題になった。
「大学どうなんだろう？」
息子さんは息子くんのことが心配なようだった。そこで、どういう大学にすすんで、どういう大人を目指しているのか、を説明した。なるほど・・・。
「大学は、凄く楽しいみたいだよ」
「そうなんだ、じゃあ、よかった」
ぼくら３人は時々、会っている。
息子さんはずいぶん前、ぼくがシングルファザーになった直後くらいに、我が家に泊ったことがある。前の、前のアパートが最初だった。
息子くんはずっと会いたい会いたいと言っていたので、その時の三人は、なんというのか、映画みたいだった。笑。
かおるちゃんという共通の知り合いが繋いでくれたのだ。かおるちゃんが、どんな時もぼくらを見守っていた。ぼくら３人を・・・。
その日からぼくらは不思議なトライアングルになった。何が三人を繋いでいるのか？
そうだ、それは、料理だった。
「やっぱ、父さんの料理が世界一だな」
「そうです。本当に美味しいです」
いい夫婦で、もう、号泣しそうだった。
食後、お嫁さんが、
「お父さん、ケーキ！　ケーキ、６３歳のケーキ、蝋燭、消しましょう」
「え？　いいよ、いいよ、そんなの」
ぼくはほうじ茶のブランマンジェを二人に出した直後のことである。
「うわ、美味いこれ」
息子さんが、言った。
「これでいいじゃん。食べてごらん」
「でも、ケーキ、せっかく、買ってきたから」
「そうだね、せっかくのバースデイ・ケーキ、蝋燭吹き消そうかな」
準備するお嫁さんの後ろからケーキを覗きこんで、涙がこぼれてしまった。

こんなに幸せでいいんでしょうか？
こんなケーキの蝋燭、消せますか？
ぼくは動画を回した。ぼくの前にケーキがあり、右手からお嫁さんがライターで火をつけた。ぼくの前に息子さんがいて、はっぴばーすでー、を歌いだした。手拍子をする二人。ぼくは泣くのを必死でこらえながら、作り笑いをうかべ、その火を消したのだった。
ふっと消えた炎の煙がぼくの心の中を静かに漂っていた。これが人生なのだ・・・。
なんて、幸せなんだろう、と思った。
ぼくはその写真を息子くんに送った。もちろん、なかなか既読にならない、笑。
「アメリカ、気を付けるんだよ」
2人は笑顔で、帰って行った。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ここのところストレスがマックスだったので、不意に、楽になりました。なんか、イイのかなぁ、とか、思いながら、今、後片付けしています。
このケーキの蝋燭、このホワイトチョコレート、大事にもっていようっと。