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滞日日記「なんとなくパリから遠い父ちゃん、みんなどうしている?」 Posted on 2022/10/27 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、長谷っちから近況が届いた。三四郎は元気にしているのだそうだ。で、な、なんと、公園でリードを外して走り回っている、らしい・・・えええ? 
「というのはこの新天地近くの公園は皆さん、リードをはずされております。で、さんちゃんだけ、リードで繋がれているのが不憫で、ある日、外してみましたところ、遠くに行ったりもせず、わたくしの周囲で無邪気にみんなと遊んでおります。まるで人間のようで、長谷川、そのかわいらしさに驚きました。トロッフィちゃんというシェットランドシープドッグとものすごく仲良くなりまして、そこのご主人さま(アメリカ人マダム)と時間をあわせ、二匹はだいたいいつも遊んでおります。あと、一日に一度は先生の動画を見せるようにしております。時折、思い出すのか、寂しそうにじっと眺めておりますです。先生、映画の仕上げ作業、お忙しいとは思いますが、あと一息、頑張ってください。マントさまとのリレーションはうまくいっておりますので、ご安心ください。それから、申し訳ないご報告ですが、長谷川、ちょっと田舎に妻と旅行に出たいのですが、よろしいでしょうか、その時はセギュールさんにお願いをいたします。コリンヌが牡蠣を食べに行きたいときかないので、ブルターニュまで小旅行、行ってまいります。さて、パリは、19区で24歳の女性が12歳の少女を拷問して川に投げ捨てるという残忍な殺人事件が起きました。国民戦線のマリ・ルペン党首が「移民を退去させないからこうなる」と発言され、炎上中でございます。一方、わたくしごとで恐縮ですが、先生からのアドバイスをもとに新作の構想に着手いたしました。先生が戻られるまでに、書き上げてみたいと思っております。31日の文章教室も楽しみにしております。時節柄ご自愛ください。不一」

滞日日記「なんとなくパリから遠い父ちゃん、みんなどうしている?」



パリの犬は首輪とかリードをしていない犬がけっこういる。
法律がどうなっているのか知らないが、大型犬などが、普通にスタスタ歩いていて、驚かされる。
うちの田舎の海岸はリードを外してもいい浜辺だが、ダメなところもある。
どちらにしても、フランスは、お犬様にとってかなーり、天国なのだ。
カフェ・レストランはほぼ100%、普通に入店できる。どこのカフェも犬だらけなのである。
東京にいて驚くのは、都内中心部で犬を連れている人とあまりすれ違わない。
もちろん、喫茶店とかレストランはダメみたいだし、どうしているのだろう、と心配になる。そういえば、昔、十斗が小さかった頃、青山で、入店を拒否された。誰かが、ファミレスに行きなさい、と言った。ま、行きましたけど、ファミレス、有難いね。ぼくは大好き。
パリの場合、子供の入店拒否というのは珍しい。(先日、中華街で三四郎は入店を拒否されました。あはは・・・)だって、カフェに犬が普通には入ることが出来るわけだから、子供もオッケーは当たり前か。(食料品を扱うスーパーは入れません)
前に星付きレストランのルグラン・ベフォー(当時、2つ星だった)に行った時、ベビーカーに赤ちゃんを載せたお母さんがやってきて、普通に一人ランチを食べていた。赤ちゃんがわんわん泣きだして、ぼくはびっくりした。
どうするのかな、と思って興味深く眺めていたら、ギャルソンが二人やって来て、交代で、あやしはじめ、お母さんはその間、ずっと食事・・・。あはは。
もちろん、素早く、料理を平らげ帰って行かれたのだけど、これは東京ではありえないだろうね。
お客さんがクレームを言うこともなかったし、中には赤ちゃんの顔を覗きに行く人もいた。ま、ちょっと特別な事例かもしれないけれど、ミシュランで二つ星を持っているレストランの対応としては、なかなか、素敵すぎた。
シェフのギー・マルタンさん、哲学のある素晴らしい人柄である。携帯が壊れて電話番号がなくなったので、・・・今、どうしているのかなぁ。(DSでインタビューをしたこともあるので、読んでみてくださいね)

滞日日記「なんとなくパリから遠い父ちゃん、みんなどうしている?」



息子の咽喉炎も心配だけど、連絡がない。
彼が映画の主題歌を作っているので、待っているのだけど、まだ届かない。
咽喉炎がけっこう酷いようで、つばが飲み込めない、とSMSでぼやいていた。
アルバイトはどうなったのだろう? 大学には行ってるのか・・・。
一万キロ離れた日本にいるので、なんとなく、すべてが遠く感じる。
ぼくは今日、一歩も宿から出ず、映画の編集をやっていた。
集中したので、全シーンが先ほどつながった。90分くらいの作品になる。
全シーンの全カットが繋がり、一つの映画のカタチになった。これはちょっと感動的な瞬間でもあった。
実はこの宇宙が繋がるような瞬間が一番好き。
撮影しながら、本当にこの方法でいいのだろうか、と悩みながら撮っているが、全部が見事につながると、壮大なパズルが完成したような興奮を覚える。
今日は、自分にご褒美、寝る前に美味しいご飯を食べに出よう。
昼間はコンビニで買った中村屋のレトルトカレーに納豆を添えて、インドと水戸の合体ランチなのであった、はぁ?

滞日日記「なんとなくパリから遠い父ちゃん、みんなどうしている?」



つづく。

今日も読んでくださって、ありがとうございました。
息子から連絡がない、と書いたら、今、SMSが飛び込んできました。映画音楽の制作は頑張っているようです。細かい質問が舞い込んだ。よしよし、生存確認!
NHKのBSのディレクターの義和さんに9月に撮影した映像を送ったのだけど、返事がないので、どうしているのかなぁ。パリに戻ったら、クリスマス時期の料理やら、冬景色などを撮影しないとねー。義和さん、お返事まっていますよ。黒ヤギより。
さて、「パリごはん、夏編」の再放送のお知らせです。
「ボンジュール!辻仁成のパリごはん〜 2022 夏〜」11月3日、文化の日の夕方の放送となります。
●再放送「ボンジュール!辻仁成のパリごはん〜 2022 夏〜」
【BSP】 11月3日(木) 午後4時35分~〜5時34分

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