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滞福日記「母さんが宿までいろいろと届けに来てくれた。親に感謝である」 Posted on 2022/10/24 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ちょっと撮影が佳境で、食べる時間はないし、パリから入ってちょっと体調もベストじゃないんだ、と弟の恒ちゃんにメッセージしておいたからか、宿に戻ったら、受付に母さんがいた。
最初は、幻か、と思った。
というのは、前回、レストランで倒れて自宅で療養をしている、と聞いていたからだ。
「母さん?」
恐る恐る近づき、言ってみた。
「母さんにきまっとろうが、幽霊でも見る目でみなさんな」
「何しに来たと? もう、よかと?」
「恒ちゃんと、様子見にきた。いろいろと事務所に郵便物が届いているからそれも届けにきたったい、お兄ちゃん撮影終わり次第、東京に行くとやろ。体調は大丈夫とか?」
「うん。大丈夫だよ。あれ、でも、一人で来たの? (まさか、幽霊かな、と思った。マジで・・・)」
母さんは笑った。
「恒ちゃんとよ。今、車を停めに行ったと」
そこに弟がやって来たので、頼んで、一枚写真を撮影してもらうことになった。87歳の母さん、こうやって会えるうちに・・・。
それにしても、似てる・・・ふふふ。

滞福日記「母さんが宿までいろいろと届けに来てくれた。親に感謝である」



「母さんはもういいと?」とぼくは恒ちゃんに訊いた。
「うん。元気になった。お兄ちゃんに会いたいというから、連れてきた」
「ありがとう」
彼らはパリにもって帰るお土産とか、頼んでいた三四郎のドッグフード(知り合いに頼んで取り寄せておいてもらった貴重なもの)などをぼくに手渡すと帰って行った。
幻ではなくて、安心した父ちゃんであった。
何かきつねに摘ままれたような短い再会だったが、きっと、安心させたかったのであろう。恒ちゃんに撮ってもらった写真は十斗にそのまま転送していた・・・。

滞福日記「母さんが宿までいろいろと届けに来てくれた。親に感謝である」



撮影はしんどい。疲れたので食べないでバタンキュー。
ところがまたしても、怖い夢をまた見てしまい、丑三つ時に目が覚めてしまった。
またまた、丑三つ時である。やだなぁ、笑。
どうも、今回の福岡は邪気に付きまとわれているようである。
何かいるのかな、ぼくの近くに、調子が出ない。
寝汗をかいていた。
眠れなくなったので、なんか食べなきゃ、と思った。でも、自炊はできない。
このままじゃ映画監督として体力がもたない。
寝巻(ジャージ姿)のまま、近くのコンビニまで何か食べ物を探しにでかけることにした。
フランスは21時には、だいたいどこもしまってしまうので、不夜城の日本のコンビニは、超便利である。
深夜だというのに、店は賑わっていた。
すると、
「辻さん」
という声に呼び止められた。振り返ると、行きつけのバーのシェフさんだった。ゲラゲラ、笑っている。
「ど、どうされたんですか? その恰好。やばいっすよ」
あわてて、ガラスにうつる自分を見た。
「オーマイガ」
寝巻で来てしまった。しかも、スリッパである。
寝巻といってもジャージとTシャツだけど、ひ、ひどい・・・。父ちゃんたるものが・・・。
いつもの父ちゃんスタイルではない。しかも帽子もかぶってないから、ぼさぼさ爆発頭なのである。
「あ、眠れなくて。やばいとこみられた」
「辻さん、目立つから、早く帰ってください。その頭はまずいです」
「ああ、そうする」
その辺のお惣菜コーナーで適当に買って宿に戻った父ちゃんであった。
「かっこわるい」
宿に戻り、掴んで帰ったお惣菜などを温め、丑いつ時に食べた父ちゃんだった。太る~。
買って帰ったものを組み合わせて、コンビニ「カレーセット」を作って食べたのだった。あはは。
もう、遠くの空が白み始めている。
このまま、撮影に向かうことになるだろう。
今日も熱血で行きます。
「合言葉は熱血」

滞福日記「母さんが宿までいろいろと届けに来てくれた。親に感謝である」

滞福日記「母さんが宿までいろいろと届けに来てくれた。親に感謝である」

※ 自分が怖くなる深夜に作ったもの。メンチカツ、納豆、しらす、明太子、カレー?おにぎり載せプレート。・・・何がしたかったんだろう。これ、食べたのかな?記 き、憶にないーい。大丈夫か、父ちゃん!!!!



つづく。

今日も読んでくださり、ありがとうございます。
あと、撮影もあと二日となりました。ここは死んでも撮りきらないとなりません。
熱血父ちゃん、出し切っていくよ。母さんが会いに来てくれたので、元気が戻ってきた気がします。じゃあ、行ってきます。

 

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