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滞福日記「辻さんはキャバクラとか夜の帝王なんでしょ? と映画Pに言われた」 Posted on 2022/10/21 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、「ですですですです」というのが今回の映画Pの口癖なのだけど、ようは「です」なのだけど、これはとくに意味もなく、いや、あるのかな、ひたすら、「です」を繰り返すのがこの人の特徴なのであーる。
いやぁ、今日は一日、この人と中洲周辺でロケハンをやっていたのだけど、会話は90%が「ですですですです」で締めくくられるのであーる。
「Hさん、やっぱり前の場所よりもこっちの駐車場の方が撮影しやすいかもですね」
「ですですですです」
「Hさん、撮影、やっとここまで来ましたね。あと一息で映画『中洲のこども』も完成ですね」
「ですですですです」
これ、最初の頃は面白かったのだけど、「ですですですです」が何回も続くと、さすがに、眩暈が起きそうになる。笑顔も萎むのであーる。あはは。ごめんね、Hさん。
「わかりました。もう、ここはいいので、次の場所にいきますか?」
「ですですです」
で、わかったのは、「ですですですです」と四回の時は、大いに同意、みたいな時で、速度も速く、そうでもない相槌の場合は「ですですです」と三回、ゆっくり目なのであーる。
その一回の差に何か大きな意味があるんでしょうか?
「あ、それはですね。やっぱり、気持ちの入り方の問題でしょうか? 勢いで4回!」
「ですですですです」
とぼくがまねをしてやったら、受けていた。

滞福日記「辻さんはキャバクラとか夜の帝王なんでしょ? と映画Pに言われた」

※ 交番をいま、作っているのだ。中洲交番である。小さいけど、愛のある交番になるといいね。

滞福日記「辻さんはキャバクラとか夜の帝王なんでしょ? と映画Pに言われた」



中洲の歓楽街が舞台の映画なのである。交差点で立っていると、綺麗な服装をした夜の蝶のような方々が、ひらひらと舞うようにぼくらの前を通過されていく・・・。
「Hさーん」
と手を振っていかれる人もいた。
「すごい。モテモテじゃないですか?」
「いえいえいえいえいえいえいえ」
「です」だけじゃなく「いえ」もやたら長いことが分かったHさんなのだった。
「この町のクラブのママさんたちですよ」
「へー」
「東京のクライアントさんとかがですね。博多といえば西日本最大の歓楽街ですからね、必ず、お姉さんのいるクラブで飲みたいわけですですです」
Hさんはテレビや映像の広告会社を運営されている。主に東京の大手企業から仕事が回って来れば、接待は拒めない・・・。あはは。
「ま、大人の社交場とかで飲みたい方もいるわけです。お付き合いですからね、ぼくはご案内だけして、帰るんですけどね、ママさんたちにはお客を連れてくる人として、ま、重宝がられています。その程度の関係ですですですです」
助監督のTちゃん、笑いをこらえている。こら、
すると、負けじと今度はHさんからぼくに話がふられた。
「辻さんはロッカーだから、ロッカーといえばキャバクラじゃないですか? ロッカー=夜の帝王みたいな気がします。辻帝王は今夜どこにいかれますか? キャバクラもありますよ。なんでもあります。ここは西日本最大の歓楽街ですですでっす」
世の中のぼくのイメージって、どんななんだろう、と思った。ぎゃふん。
「ぼく、自慢じゃないですけど、キャバクラとか今まで一度も行ったことないんですですですですです」
「ほんとうですですですです?」
「ほんとですですですですですですですです」
「です、何回言いました? あんまり多いと嘘くさくなりますからね。辻さん、気を付けてけてけてけ」
ぼくらは笑いあった。なんでか、世の中、ロッカーというとみんながセックス、ドラッグ、ロックンロールみたいなカリカチャなイメージしかないのは、はて、いったい誰のせいなんだろう?
「Hさん、ぼくはこう見えても若い頃はモテてましたからね、今でこそ、うらぶれてお爺ちゃん化しておりますが、昔は、札束で女性を口説く必要なかったですですです」
「ひゃあああ、来たーですですです」
「愛に生きてましたから、普通に恋人との恋愛で十分でございましたですですです」
「ですですですです?」
「ですですですです~!」
と、わけのわからない会話が続いて、夜、ロケハンは、終わったのだった。

滞福日記「辻さんはキャバクラとか夜の帝王なんでしょ? と映画Pに言われた」

※ ロケハンは小さな旅なのである。

滞福日記「辻さんはキャバクラとか夜の帝王なんでしょ? と映画Pに言われた」

※助監督のT君。

滞福日記「辻さんはキャバクラとか夜の帝王なんでしょ? と映画Pに言われた」

※おおおお、出た! さすが博多である。明太子の自動販売機じゃないか!!!



宿に戻ると、大倉先生の奥様、まさこさんから、メッセージが届いていた。
「お母さまが今日、来院されましたが、お元気でした。もう、大丈夫ですね。辻さんもお気をつけて、撮影がんばってください」
ということで安心したのである。
パリの長谷川からもメッセージが届いていた。
「先生、今日、光ファイバーの工事がありました。これでサクサク、ZOOM会議が出来るようになります。IKEAから事務机も届きました。長谷川用に使わせてもらいます。あと、三四郎君を朝、マントさまから受け取り、今、散歩に連れて行ってまいりました。夜にお戻しします。次は月曜日までさんちゃんはマントさまの家でご宿泊されます」
ということで安心な父ちゃんなのであった。
「先生はまもなく撮影開始でしょうか? お身体お気をつけてください」
「ですですですです」

滞福日記「辻さんはキャバクラとか夜の帝王なんでしょ? と映画Pに言われた」

※熱血先生は永沼っちのバーで、いっぱいやるだけですですです。あはは。横に美人がいるといいんだけど、これがねー。いないんですよ。永沼さんが、「びっくりした。暫く来ないって言ってたのに、不意に来るんだもの~」と嬉しそう。よかった。中洲はおひとりで飲む場所もたくさんありますので、皆さん、いらしてくださいね。自称中洲観光大使の父ちゃんであった。



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
中洲周辺の撮影地はだいたい決まりました。中洲周辺の皆さま、お騒がせいたします。明日、少年蓮司のアフレコがあり、明後日からいよいよ最後の撮影に突入ですですですです。時差ぼけが多少ありますが、体調はすこぶるいいですですです。とりあえず、今は一コマ一コマ、進めていくしかないわけですです。正直、本当に完成するのかどうか、ぼくは7割くらいしか信じてはいません。期待し過ぎてがっかりすることの繰り返しでしたから、まずは、クランクアップを目指します。笑。癖になりそうですですです。