JINSEI STORIES
滞仏日記「ソファをはしご車で地上までおろす、フランスの引っ越しは怖すぎる!」 Posted on 2022/10/02 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、フランスの引っ越しだが、何が凄いって、まず、通りの反対側に停めたはしご車から、はしごを伸ばして、4階のぼくのアパルトマンの窓に接岸し、窓から荷物を出して、そこから下ろすのだけれど、荷物といっても、段ボール箱だけじゃなく、ソファ、ベッド、本棚、机、など、すべてなのである。
うちのソファは3メートル近くある巨大なソファなのだが、これも、はしご車を使って、地上までおろした。それだけじゃない・・・。
はしご車はもちろん、油圧シリンダなどを使って、地面にしっかりと固定されているのだけれど、はしごを移動するバスケットはあっても、普通のバスケットではなく、平らな板なのだ。平らな板、タタミ2畳程度のただの板!
板の一部が、折り曲がって、ちょっとした衝立みたいには、なり、それで、なんとなく、固定は出来る。
で、その平らな板がはしごを移動するのだけど、そこに、ソファとか、机とかを載せて、原始的に、下ろすのである。
ロープとか紐で縛ったり、固定したりはしない。ただ、置くだけ。ただ置くだけだ。
もっと怖いのは、巨大な家具をおろしている、そのはしごの下を通行人が普通に歩いていくのが、おフランスの常識であった。(日本だったら、危険すぎて法的に認められない行為であろう・・・たぶん)
渡仏したばかりの20年前、その光景があまりに信じられなく、また、ただただ怖かったので、はしご車が前方で荷物を下ろしている場合は、ぼくはその下を歩かず、迂回していたのであーる。(今も、迂回しています)
文章化するとこれだけのことだけど、実際に見てもらえば、この光景がどれほど普通じゃないか、が分かっていただけるはず。
とりあえず、今日は、写真で、その一部始終をご紹介したい。
※これがはしごを上から見たところ。下の土台は油圧シリンダで、しっかりと固定されている。
※衝立がいちおう、このように荷物の落下を防ぐ役割で、飛び出す。
※段ボールとかだと、楽々に、載せられる。横で見ているぼくは、ハラハラではあるが・・・。
※横から見ると、こんな感じ。隣の部屋からの撮影。
※そして、ついに、3メートル級のソファが・・・。大丈夫か?うしろのおじさんだって180センチはある。このソファがどれだけ巨大か分かってもらえるだろう。平台にただ、載せて、下ろすのであーる。怖すぎる・・・。
※いよいよ、始まった。恐ろしすぎる。
※ああ、しかし、これ、普通に考えて、やばくないですか!? やばいでしょ!
※これ、これ、もう、マジやばいでしょ? 落ちたら、地面破壊するし、通行人いたら、死亡間違いなしでしょ・・・。日本では考えられないフランスのお引越し。
※横から見ると、こんな感じ・・・。
※降りていきます。なんとか、なった・・・。ふー。
※上で作業していた連中は、平台が下がり始めると、急いで駆け下りていき、下の連中と合流し、4人がかりで、これをトラックに積むのであったー。見ている方が疲れたわい!
ということで、このような恐ろしい搬出と搬送をやって、無事に引っ越しは終わったのだった。
新しいアパルトマンは事務所兼自宅なので、地球カレッジ配信や、料理の撮影などができるスペースとか、ジャパンストーリーズのオフィスが付帯している。
ぼくの居住区は鍵のついたドアで隔てられているので、鍵をしめてしまえば、別世界。
ちょっと広めのワンルームマンションというかんじ・・・。
ま、寝るだけだから、別に十分なのであーる・・・。
ただ、前のところのような商店街は周辺になく、ギャングがいる、実はちょっと危険な地区でもある。あへ。その分、安い。
もっとも、基本は田舎暮らしなので、息子と会ったり、スタッフさんとミーティングしたり、する以外はここにはいない、かな・・・。
段ボール箱が今は積みあがっているけれど、書類とか書籍ばかり・・・、実に、たくさんのものを捨てたので、すっきりしている。
ここは、書生の長谷っちにでも管理してもらおうかな、と今は思いはじめている。
長谷川は今回、本当によくやってくれたので、仮弟子だったけれど、一年期間限定弟子に昇格をさせた。
「先生、いいんすか? 俺とかで」
「いや、別に結婚するわけじゃないし」
あはは、と笑った長谷っちであった。
怪しい関係じゃないけど、怪しいおやじ、二人であった。きっと、国虎の呑もちゃんとか、レストラン関係者とか、ミュージシャンとか、作家仲間とか、ピエールやアドリアンが集まる場所になるんだろうなァ・・・。
ま、生きてる間だけ、楽しい人生を生きようじゃあーりませんか?
「長谷川ァ~~」
「はい、先生、なんでしょう?」
「呼んだだけ」
※余裕ぶっこいて、自撮りしている父ちゃん。
つづく。
ということで、今日も読んでくださり、ありがとうございます。
まだ、引っ越しが終わったばかりで、体調も完璧じゃないので(ちょっと肺に残留物があり)、今日はここで筆を置きますね。長谷川君ですが、めっちゃ役に立ちました。50歳過ぎの書生として、弟子として、今後、どういうお付き合いになるのか、わかりませんが、多少はお支払いをしないとならないだろうし、昔の作家と書生さんとのその辺の関係を調べて、どのような雇用形態でいくか、ちょっと考えてみたいと思います。ま、仏語が完璧なので、助かります。新しいアパルトマンのガスとか電気の契約とかはやってもらうことにしました。まずは、Wi-Fiを繋がないと、日記の更新が出来ない!!!