JINSEI STORIES
退屈日記「階段に敷かれた絨毯の謎。渡仏20年目にして偶然の大発見」 Posted on 2022/09/28
某月某日、フランスで暮らしだして、長年、気になっていたことがあった。
それは、階段に敷かれた絨毯がどうやって、設置されたのか、という問題であった。
というのは、各建物で階段の大きさも螺旋の角度も違うので、それに合わせていちいち、絨毯を作ることもないだろうに、と思っていたからである。
この20年に及ぶ難問の解決に貢献してくれたのは三四郎であった。
※ フランスのオスマン調などの古い建物の階段には、こんな風に中央に見事な絨毯が敷き詰められている。
最近、ぼくらは、自宅の4階まで、競争を駆け上っている。
降りる時は、抱きかかえて降りている。
ミニチュアダックスは短足だから、腰が悪くなりやすいので、階段の昇り降りはよくない、と言われている。でも、登りは絨毯が敷き詰められているし、うちの建物の階段は緩やかなので、たぶん、大丈夫だろう、と思って、ここ最近は自力で上ってもらっている。
最初はゆっくりと二人で歩いて上っていたのだけど、或る時、三四郎が走り出した。
追っかけるのだが、若いからね、素早い。
4階の踊り場で、座って、後ろ脚で首のつけねを搔きながらぼくを待っている。ひひひ、勝った、と言う得意げな顔で・・・。
そのうち、ぼくらは競争をするようになったのだ。
ほぼ、ぼくの負けである。そりゃあ、そうだ。血気盛んな子犬に敵うわけがない。
ところが、ある時、ぼくは全力で駆け上がり、三四郎を負かしてしまったのだった。
しかし、さすがに4階までのダッシュはきつかった。ぼくは踊り場でへたり込んでしまったのであった。
その時、20年間の謎が解けた・・・。
長い絨毯を、段差ごとにこのように折りたたんで、ビスのようなもので、丁寧に打ちこんで動かないように固定しているのである。これは、すごい、と思った。
一段一段、よく見ていったが、手作業で、織り込んで、ビスを打つ。カーブするところでは、さらに細やかに織り込んで、丁寧に頑丈に釘が打ち込まれていた。
おおお、素晴らしい!!!
ただ、それだけのことだったが、こういう建物に対応する長い階段用の絨毯を作る人がいて、200年前とかは手作業だったに違いない、それを長さに合わせて切って、設置する専門の業者さんがいるのであろう、いやはや、こういうこだわりが実にフランス。丁寧な仕事であった。
三四郎が、わん、と吠えた。
「どこ行くの? 家はここだよ」
と教えてくれた。あはは。
ぼくはカーブする場所から、三四郎を振りかえり、
「ああ、すまん。今、ドアを開けてあげるからね」
と謝るのだった。
ほとんどの人には気にもならないことなのだろう。しかし、ぼくは感動屋なので、謎が解けて、あまりに嬉しく、これを書いてしまった。
つづく。
ということで、今日も読んでくれてありがとう。
絨毯ですけど、比較的新しい建物の階段にはないですね。古い地区の、どちらかというとご年配の方々が住んでいるような剛質な建物で多くみかけます。こういうのにも、流行とかがあるのかな。映画祭のレッドカーペットって、思えば、こういうことから始まっているのかもしれないなぁ、と思った父ちゃんでした。いつか、レッドカーペット、歩いてみたい!
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