JINSEI STORIES
滞仏日記「気管支炎に苦しむ父を心配をした息子が様子を見にやってきた」 Posted on 2022/09/25 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、「最近の日記を読んだけど、気管支炎大丈夫なの?」とバイト終わりの息子からSMSが入った。
SOSメドゥサン(病院)に行ったことなど、正直に伝えると、三四郎の散歩ぼくがやろうか、と連絡が入った。それは助かる。
息子は18時半くらいにやってきた。
息子がいるのは安心である。
息子が三四郎と散歩に出ようとしているので、一人お留守番も寂しいから、ぼくもついて行くことになった。(本末転倒)
・・・家にいても、体調がよくなるわけでもないので・・・。←言い訳です。
行きつけの公園などを歩きながら、ぼくらは語り合った。
「バイト、どう?」
「うん、慣れてきたよ」
「ワインとか、注いでるの?」
「お客さんに直接は注がないよ。それはソムリエの仕事で、でも、ぼくは裏でグラスに注ぐ。それを運ぶ感じ」
「へー、出来るんだ」
「うん、慣れたよ」
「みんな、優しい?」
「うん、料理人の先輩からいろいろと料理を教わって、家で試している」
「まかないは?」
「めっちゃ、美味い。助かってる。美味しいものは店で食べて、自宅では自炊」
「自炊はどう?」
「ほぼ、毎日、自炊をしてる。で、一日置きくらいに仲間たちが集まって来て、みんなでご飯食べてる。ぼくがシェフだよ。この間はから揚げを5人分作って、みんなで食べた」
写真を見せられたが、小さなテーブルの真ん中にどんとから揚げが置かれており、その周りに、ごはん大盛のお茶碗が5つ並んでいた。
「一キロの鶏肉が5ユーロだから、飲み物とかみんなで2,3ユーロずつ出し合って、うちで食べた方がレストランよりうんと安いし、うんと美味しいんだって。だから、みんなから、電話がかかって来て、今日はそっちで食べる、みたいな感じになる。これが食べたい、というリクエストもあるんだよね。パパ、何か、みんなで食べるのに適した簡単な料理ない?」
「カレー作ってやればいいじゃん」
「ああ、そうだね。それからパパの得意な餃子を作ろうかな、と思ってる。餃子の皮は目の前のアジア食材店で売ってるから、豚のひき肉かな?」
「豚のひき肉は気を付けた方がいい」
「ひき肉にする機械、買ったから、それでやる」
「マジか、本格的だね。でも、餃子作ることができたら、みんなもっと集まるね」
ぼくらは笑いあった。
「(笑)寂しくはなさそうだけど、勉強出来ないな、それじゃあ」とぼく。
「でも、大学は厳しいから、みんな勉強しているよ。本当にやりたい勉強だから、高校生までとは違うんだ」と息子。なるほど・・・。
「大学はどう?」
「うん、めっちゃ面白い。友だちが物凄く増えたんだ」
「4,5人?」
「何、言ってるの、もっともっとだよ。幼馴染みとは違う、みんな同じ目標を持った仲間たちなんだ。先輩たちとも仲良くなったし、人生の目標が決まった、と思う」
息子は都市開発の勉強をしている。将来、街を作る、と意気込んでる。
「授業終わりで、先輩たちとの懇親会が毎日のようにあって、先輩たちが語るこの学校のすばらしさを毎日、肌で感じているようなところ。来年になったら、留学先も含めて、自分がどういうところで働くことになるのか、決まって来るんじゃないかな」
ぼくらは、足元を行く一歳になった三四郎を見下ろしながら、語り合った。
「そうか、三四郎は今日で一歳なんだ。何もプレゼントがないなァ」と息子。
「来てくれたんだから、それでいいよ。なァ、軽くレストランでこのまま食事でもするか?」
「大丈夫なの?」
「たぶん。咳き込んだら、携帯掴んで電話するふりでもしながら、外に出るよ」
ということでぼくらはタイレストランに飛び込んだ。
「給料日、いつ?」とぼく。
「9日に、最初の給料が振り込まれるんだァ」
「ほー、いくらだろうね、楽しみだね。お金、足りてる?」
「文房具とか冬服とか買わないとならないんだけど・・・」
ぼくは財布を取り出し、100ユーロ札を手渡した。ありがとう、と息子くん。
「パパはどうするの?」
食事をしていると、息子が、言った。
「これから」
「そうだね。どうするかね。でも、まずは、ここまで続けてきた創作を一つ一つ完成させていきたい。そして、幸せになりたい」
「いいね。パパの幸せはぼくが望んでいることだよ」
つづく。
今日も読んでくださり、ありがとうございます。
ということで、空腹な息子に美味しいタイ飯をご馳走した父ちゃんでした。美味しかったァ・・・。頼みすぎて、食べきれないかな、と思ったのは杞憂で、あっという間に平らげた息子くん、18歳でした。
さて、お知らせです。本日、急ですが、日本時間、18時過ぎから新世代賞の公開審査会があります。ぼくもちらっと登場します。(今回、父ちゃんは審査員ではなく、ご意見番みたいな立ち位置になるので、審査には参加しておりません)ご興味のある皆さん、御覧ください。
こちらの視聴URL(YouTube)からご参加ください。
https://youtu.be/NWNKZmMIzsM
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そして早くも「夏ごはん」の再放送も決まりました。
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●「ボンジュール!辻仁成のパリごはん 2022 夏」(59分)
【再放送日時】2022/9/27 (火)23:00~23:59<BSPのみ>
2022/9/27 (火)17:00~17:59<4Kのみ>
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えへへ。ちょっと、顔色の悪い近影・・・