JINSEI STORIES
滞仏日記「気管支炎が急激に悪化、とりあえず救急病院へ駆け込んだ父ちゃん」 Posted on 2022/09/25 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、昨夜は咳のせいで、一睡もできなかった。
昼間も咳が出るが、夜になると、激しく咳き込む。
3週間も続いていたが、急に、この2,3日で悪化している。
処方された薬を飲み続けてきたが効かない・・・。
「熱血小説教室」生オンライン授業、このままでは厳しそうだ、と昨夜は絶望的になった。
三四郎を寝かせつけてから、三四郎が起きるまで、ずっと咳が出続けていたのだから、弱気になっても仕方がない。体力の消耗ったらありゃしない。
ぜーぜー、肺が鳴って、苦しい。これはただ事じゃないな、と思いはじめていた。
もしかしたら、気管支炎をこじらせ、肺炎になったのかも。やばいー。下手すると、入院しないとならないじゃないか・・・。
上の階の人にも、下の階の人にも、この咳は届いているだろう。肺が飛び出しそうな嗚咽級の咳が永遠と続くのだから、・・・。
処方された薬は飲み続けているけれど、よくなる兆候がなく、明らかに悪化している。主治医のクリニックを再訪したいが、今日は土曜日、お休みだ。
※ ポルト・ロワイヤルの駅・・・。
アドリアンに相談をしたところ、ポルト・ロワイヤルにSOSメドゥサンと呼ばれる救急クリニックがある、と教えられた。
SOSメドゥサンは巡回救急医たちの総称で、電話で気軽に呼ぶことが出来る。
医師が車で自宅までやってきて、診察してくれるが、日本の「救急車」とは違い、医師が乗って来てくれ、そこで診察をして、帰っていく。
ただ、混雑していると、時間がかかる。
アドリアン曰く、巡回している医師を呼ぶのじゃなく、予約をして、自ら常設クリニックへ出向いた方がいい、その方がちゃんとした診察を受けることが出来る、と言うのである。
SOSメドゥサン常設クリニックが、パリ市内に3,4か所ある。
ネットで調べたら、ちょうど、3時半にあいていた。地球カレッジが終わって、飛び出せば、間に合う時間帯である。ぼくは予約をした。
授業が終わり、とるものもとらず、三四郎を一人部屋に残して、ぼくは自宅を飛び出した。すまない、サンシー。緊急事態だ!!!
ポルト・ロワイヤルという場所にある、意外と綺麗なクリニックであった。クリニックの前に、SOSメドゥサンの救急車両が停車している。
中に入ると、がっちりしたマッチョな医師がぼくを待ち受けていた。
「むっしゅ、ちゅじー?」
「あー、いぇーす」
なんでか、英語になる父ちゃん。
ぼくは主治医に出してもらった処方箋を見せ、これまでの状況を説明した。
自分が歌手で、今、レーディング中で、どうしても治さないとみんなに迷惑がかかる、と訴えたのである。ふむふむ、とマッチョな医者は頷いた。
「おっけー、じゃあ、そこに座って」
診察台に座るよう促された。けっこう、細かい検診の後、
「耳の下に大きなガングリオン(ぐりぐり)が出来てますね。耳からここまで炎症が広がっているんですよ。喉の中も痰が酷い。これじゃあ、眠れないの当たり前でしょ?」
「はい、一睡も出来なくて。ずっとのたうち回ってました」
「そりゃあ、かわいそうに、辛かったねぇ。でも、大丈夫、こんなの一気にやっつけてやろう。一気に。馬でも治す勢いでね」
「一気に? 馬でも治す勢い? 馬って、・・・」(馬でも治す勢い、という仏の慣用句? 諺? があるのだ)
先生が処方してくれたのは、抗生物質と強いステロイド薬だった。
これを3,4日続けて飲まないとならない。でも、それで終わる、とマッチョ医師は言い切った。
「それで終わり。その後、ムッシュは再び歌えるようになりますよ」
マッチョ医師は太い腕を腕組みし、高らかに歌うように、宣言するのだった。
※ 監視カメラで時折、様子を見ていましたが、ずっと寝ていたさんちゃんでした。この肘掛け椅子はもう、噛み千切られ、この引っ越しで、おさらば、となります~。
つづく。
今日も読んでくださり、ありがとうございました。
SOS先生の処方でどうなったか、また、お知らせします。よくなりますように。そして、地球カレッジ受講生の皆さん、ご迷惑をおかけいたしました。でも、なんとか熱血授業、出来ましたかね・・・。ぼくが病院に行っている間、三四郎はずっといつも椅子に寝転がって待っていてくれました。一歳ですからね、おにいちゃんになったものです。監視カメラに映る三四郎をご覧ください。それでは、よい一日を!!!
そして、今日はとくに父ちゃんからのお知らせはないので、よければ、横浜でのライブ映像でもご覧ください!!!こちらのリンクをクリックくださいませませ。
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https://youtu.be/V6Cb_gjtLYU