JINSEI STORIES

滞仏日記「マーシャルの八百屋の軒先が茸ランドになってた。そして、父ちゃん最後の料理!」 Posted on 2022/09/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は、息子くんの誕生日なのであった。
といっても、もう一人の息子っち(おにいちゃん)の誕生日。メールを送って、お祝いをしておいた。奥さんとの2ショットが送られてきた。じーん。
そして、明日はいよいよ、NHK・BSの「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」の本放送じゃないか。秋深しなのだけど、夏編、である。あはは。懐かしい・・・。
制作会社プロデューサーのLさんから今後の撮影についてのメッセージが届いていたが、気管支炎と引っ越しが忙しくて、撮影にはなかなか気が回らないのが実情なのであーる。
気管支炎なので、自撮り撮影の難しさ、ひしひし・・・。困ったものだ。
世の中が、こんなに激動しているというのに、ぼくは停滞している。咳が止まらないのである。
気管支炎、どうなってるんだろう? 
治りかけたかと思うと咳が出て、ちょっと苦しい。
もしかすると、これ、気管支炎ではなく肺炎かもしれないなぁ。
強い薬がまったく、効かないのは、ちょっとおかしい・・・。
いや、原因はもしかすると、埃にあるのかもしれない。
引っ越しの片付けや準備をやっていると、埃が舞う。今日は衣服類を片付けたから、とくに埃が凄くて、しかも地下室の片づけもやったから、黴もすごかった。
黴と埃まみれで、これじゃあ、治るものも治らない。
「ダーリン、私がやるから、あなたは歌手だし、休んでいてね」
とか、言ってくれる人はおらんし、笑、別に、いらんけど・・・。
目に見える埃の中、Tシャツ、コート、セーターを片付けながら、目の前が雪のような埃で真っ白になるのを、咳を我慢しながら、呆然と眺めていた父ちゃんなのだった。
三四郎を散歩に連れ出した。マーシャルの八百屋が秋色に一変していた。
店の軒先の棚にもの凄い数の茸が並べられていたのである。
秋を代表するフランスの茸たちの中に、大好物のトランペット茸が混ざっていた。(日本だと黒ラッパ茸という。自生したものしかないのだとか・・・、農家で栽培をして販売すればいいのに、ダシも出て、土鍋にしてもすごく美味いのであーる。自生しているのに、実にもったいない。美味しいからフランスでは大人気なのである)
このトランペット茸で作る父ちゃんのクリームパスタが、さらに、とっても美味しいのだ。
と、その時、息子君から、「授業が早く終わりそうだから、ちょっとなんか食べに行ってもいい?」と連絡が来た、おお、グッドタイミング! 昨日、来たのに、また来るのかい。
「すいませーん。この黒い茸、二人分、ください!」
と思わず買ってしまった、るんるん、父ちゃん。
旬を食べない手はないのだから・・・。

滞仏日記「マーシャルの八百屋の軒先が茸ランドになってた。そして、父ちゃん最後の料理!」

滞仏日記「マーシャルの八百屋の軒先が茸ランドになってた。そして、父ちゃん最後の料理!」

滞仏日記「マーシャルの八百屋の軒先が茸ランドになってた。そして、父ちゃん最後の料理!」



家に帰り、とりあえず、キッチンへと。
Lさんから、このタイミングでメッセージが届いたのは、もしかすると、引っ越し周辺の撮影をお忘れなく、という気遣いかもしれない。
「明後日の三四郎君のはじめてのお誕生日、どんなお祝いになるのでしょうか?」
と最後に、さりげない撮影指令が書かれてあった。
そうか、地球カレッジの日が三四郎の一歳の誕生日だったっけ。何も計画してない。
ぼくは申し訳なくなって、息子とトランペット茸のパスタを食べる動画でも撮影しようか、と思ったのだけど、体調がすぐれないので、自撮りで自分を撮る気にまず、ならないのである。
一応、カメラは回したのだけど、
「体調が悪くて最悪の状態です。ぼろぼろ、へろへろの料理になりそう」
とか呟いている始末。撮影しながら、これは使えないな、と思ってしまった~。
なにせ、料理しながら咳き込んでいるのだから、そこは使えないし・・・。
ところが、息子は来なかった。あはは。

でも、この料理、(撮影が終わって、気が付いたのだけど)このアパルトマンにおける最後の料理となってしまった。
というのは、その料理の後、すべての調理道具、カトラリー、フラットウエアー、などを段ボールに詰め込んでガムテープしてしまったからであった。
やや、落ち着いて、
「あああ、トランペット茸のパスタがこのアパルトマン、最後の料理だったじゃん!!!」
と気が付いた父ちゃんなのであった。
不幸中の幸いというか、きつかったけど、カメラを回しておいてよかった。一応、制作過程は抑えることが出来ているはず・・・。

滞仏日記「マーシャルの八百屋の軒先が茸ランドになってた。そして、父ちゃん最後の料理!」



ということで、ここでレシピを、ご紹介!
トランペット茸が売ってないので、日本の皆さんは再現が難しいかと思われるが、他の茸(マッシュルームとかシメジ)でも応用が利くので、簡単なレシピを。茸の砂や土をブラシなどで払い、鶏肉はパン切り包丁でひき肉にするような感じで細かく切り裂き切り、オリーブオイル、ワイン、塩胡椒、生唐辛子、ガーリックなどでマリネにしておく。マリネは1時間くらいかな。タリアテッレを茹でる準備しながら、鶏肉とトランペット茸を炒め、生クリームとワインを回し掛け、塩胡椒をして味を調えたら完成。簡単なのであーる。
ぼくはノアゼットのマスタードを加えたのだけど、いろいろと応用が利くので、遊んでください。
ということで、いきなり、来ると言っていた息子が来れなくなって、夜も同じものを食べるハメになった父ちゃん。ま、もっとも、引っ越しが終わるまでは外食もままならないので、今日は、茸三昧ということで、よかろうもん!

滞仏日記「マーシャルの八百屋の軒先が茸ランドになってた。そして、父ちゃん最後の料理!」



つづく。

今日も読んでくれて、ありがとう。
さすがに二食、パスタはきついので、夜はオムレツにしたのであった。トランペット茸と鶏肉のオムレツ!! 美味しかったです。えへへ。
さて、そんな父ちゃんからのお知らせですが、まずは、「ボンジュール、パリごはん、夏編」が今日、23日、ついに、ついに、放送となります。(夏編、ぼくはオンタイムでは見ることが出来ないから、皆さんの感想をお待ちするしかない。お待ちしておりま~す)
■「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」
 本放送:2022/9/23 金曜日 22時〜22時59分
番組ホームページもできましたのでお知らせします。
https://www.nhk.jp/p/ts/6XW8NZ748V/episode/te/ERJW2WJQ8B/
そして「2022春」「2022夏」はオンデマンドが1年間になりました。
より長くオンデマンドでは視聴いただけます。

小説教室が本放送の翌日、9月24日(土)に迫ってきました。熱血でいきます。一度は小説を書いてみたいけれど、小説の敷居が高く感じて、なかなか書けないとお嘆きの皆さまに、わかりやすい、父ちゃんの小説講座です。愉しみながら、小説を書いちゃいましょう。
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