JINSEI STORIES

滞仏日記「吉方位とか信じますか?吉方位なんか、とバカにしてた自分が悲しい。吉方位あります」 Posted on 2022/09/08 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、親戚のおばさんに方位にやたらうるさい人いる。うちの母さんもうるさい。
年配のマダムの方々に「その日の自分にとってのいい方角」を気にされる人が多いみたい。
「ひとちゃーん、今日は西と北が吉方位だよ」
と滅多に連絡のこないおばさまからのメッセージにうろたえた父ちゃんであった。
えええ、吉方位なんか、知らんがな、とは思ったが、・・・気になる。
「最初に家を出たら、その方角に向かうのがいいのよ。本当は毎日吉方位に向かって生きないといけないし、1キロは吉方位の方向へ歩かないといけないし、そこでその土地の何かと触れ合う、たとえば、コーヒーを飲むとかしないとダメなんだけど、ま、西と北が今日のお前の吉方位だから、気にしてみなさい」
謎だった。無視をしたいけれど、むむむ、気になったので、三四郎の散歩、まず、西へと一キロ歩いてみることにした。←気にしてるやん。
「ムッシュ、そっちに行きたくないわん(犬語)」
「でも、吉方位はこっちなんだよ、さんしー」
「???」
あはは、ごめん。
とりあえず、西の方に向かって、歩いてみた。すると、一キロほど歩いた時、携帯にメールの着信音が、・・・おおお、いきなり、来た。
立ち止まり、恐る恐るメールを開くと、集英社文庫の栗原さんからだった。
「『父 Mon Pere』の重版が決まりました。おめでとうございます。長く読者に届けていきたいと思っています!」
おおお、いきなりの「吉方位現象」であった。←本当です。

滞仏日記「吉方位とか信じますか?吉方位なんか、とバカにしてた自分が悲しい。吉方位あります」



その後、銀行から、「引っ越しに必要な銀行保証がやっとおりたので取りに来てください」と連絡が入った。銀行はうちの家から北の方角にあった。おおおお、吉方位じゃん!!!!
急いで取りに行った。待ちに待った銀行保証である。不動産屋に電話をすると、
「これで契約が出来ますね。今から電子契約書を送ります。よかったですね」
と言われた。吉方位万歳。
まもなく、契約書が届き、サイン、をした。
今日は、韓国ドラマ「愛のあとにくるもの」の原作契約書にもサインをした。
このドラマ、大ヒットするかもしれない。なんとなく、吉方位である。
そういえば、人から聞いた話ではあるが、ぼくの知り合いの日本画家のKさんが、引っ越しの当日、お母さまに、
「そっちに今日向かったら大変なことになるわよ」
と忠告されたのだそうだ。引っ越しを取り消すことも出来ない。仕方なく引っ越したら、その夜、火事にあったのだという。恐ろしい・・・。

滞仏日記「吉方位とか信じますか?吉方位なんか、とバカにしてた自分が悲しい。吉方位あります」



そういえば、20年前、ぼくが渡仏するとき、方位をやっている有名な先生に、
「この時期、辻さん、パリに行くと大変なことになります。方位が悪すぎる」
と忠告されたのに、引っ越したら、マスコミには叩かれるし、仕事はなくなるし、そこからずっとよくないことが続いたのだった。今思うと、フランスは方角が悪かったのだろうか? いいや、息子と出会ったのだから、いいこともあった。
あれから20年が経ったので、今はきっと吉方位なのかもしれない・・・。長い20年であった。えへへ。
方位とかぼくは気にしたことはない。ちょっとは気にした方がいいのかもしれない。
少なくとも、今日はその後、いいことが続いたのだ。
小さな問題がいろいろとあった映画関係でも前進があったし、そんな中、新しい人との出会いもあった。あ、そうだ。フランスのライブに向けて、大、大、大前進もあった。フランスの大手、プロモーターから、
「ハロー、辻、契約書にサインをしたから、そっちに今日、送ったよ」
とSMSが届いたのであーる。
長年の夢だった、劇場ライブの契約日が、今日!!! ←発表、ちょっと待ってね。
むむむ、かなりな、吉方位じゃないか???
どうなっているんだ。さすがに、怖すぎるぞ。
気が付くと、南と東を避けて歩いた父ちゃんであった。←なかなか家にたどり着かない。
ぼくは、気になることがあったので、親戚のおばさんにメールを送ってみた。
「あの、9月・・日に引っ越すんです。・の方角なんだけど、これ、大丈夫すか?」
ドキドキしながら、待つこと、一時間、おばさまからメールが届いた。
「ひとちゃん。あんた、そっち、最高の方角なのよ。超吉方位だわ。おめでとう。その日に、必ず、越しなさい」
おおおお。
俄然、いいことは信じる父ちゃんなのであった。
えへへ、ちゃんちゃん。

滞仏日記「吉方位とか信じますか?吉方位なんか、とバカにしてた自分が悲しい。吉方位あります」



つづく。

ということで、今日も読んでくれてありがとう。
集英社刊「父、mon pere」とっても嬉しいです。なぜなら、これは大人に成長した息子が、頑固で健忘症の画家の父を心配しながら、父をとるか、恋人をとるか、で悩む連載小説・・。なんか、正夢になりそうな、そういう小説なのです。自分の20年後を想像して書いた作品だけに、今かよ、と待っていた待望の重版なのでした。ご興味のある皆さん、どうぞ。てへへ。
あと、NHKの「パリごはん」新作・夏ご飯がまもなく放送されます。調べて、詳しい時間をお伝えしますので少々お待ちください。いよいよ、夏が終わったのに、夏ご飯って、これも、吉方時期なのでしょうか。笑。
さて、父ちゃんの小説教室、第二弾を、9月24日(土)に開催いたします。一度は小説を書いてみたいけれど、小説の敷居が高くて、なかなか書けないとお嘆きの皆さまに、わかりやすい、父ちゃんの小説講座です。愉しみながら、小説を書いちゃいましょう。

今回の課題のテーマは「食」「食べるもの」「食について」の小説です。「一杯の掛け蕎麦」のような食べることをモチーフにした掌編小説、もしくは長編の冒頭を、原稿用紙10枚以内で。締め切りは9月20日。書き始めてくださいませ。詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

地球カレッジ

滞仏日記「吉方位とか信じますか?吉方位なんか、とバカにしてた自分が悲しい。吉方位あります」



 

自分流×帝京大学