JINSEI STORIES

退屈日記「慣れない一人暮らし、息子がちょっと寂しそうだ。仕方ないなぁ」 Posted on 2022/09/05 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、息子にSMSを送ると、即座に返事が戻って来るようになった。
「電子レンジ買ったか?」
「うん」
「洗濯機の取り付け工事は終わったか?」
「うん」
「新しいアパルトマン、どうだい? バイトは?」
「オッケー」
待ち構えているように既読になり、返事が短いながらも返って来るのは珍しい。
なんとなくだけど、新しい生活、期待もありつつ、寂しいのかもしれない。
そこで、
「来週、ごはん、うちに食べに来るか?」
とメッセージを送ると、これまた即座に、
「うん、行く」
と返ってきた。笑。やっぱり、寂しいのだ。
「いつでもいいよ、食べたいもの作るから言ってね」
「うん」←瞬返信。
あはは・・・寂しん坊、決定。なんだ、父ちゃんと一緒じゃないか。

退屈日記「慣れない一人暮らし、息子がちょっと寂しそうだ。仕方ないなぁ」

※ 昨夜の一人分量飯は、味噌汁と豆腐と鳥天とごはんとおしんこでした。



「あ、じゃあ、そっちのアパルトマンも一度、どうなったか見に行きたいのだけど、行こうか? で、近くのレストランで一緒に飯でもするか?」
「うん。オッケー」
言葉は短いけど、まだまだ慣れない一人暮らしなのだろうなぁ、と想像をした。大学がはじまれば、そんなこと言ってられないので、それまでの間で、慣れさせたほうがいいのかもしれない。
仕方ない、今日、パリに帰ってやるか。←本当は自分が一番、寂しい癖に。えへへ。
ということで、今日、一度、パリに戻ることになった。というか、戻るぞー。笑。
ぼくも十斗も寂しい一人暮らしなので、ここは、ま、慣れるまで、行き来を頻繁に持っても、いいのじゃないか、・・・。
パリに戻ると決めたら、不意にウキウキしだした父ちゃんなのである。
帰り道に、IKEAにでも、立ち寄って生活用品などを買って届けてやろう。
近くのスーパーに、調味料とかを一緒に買いにいって、使い方、教えてあげなきゃ、と思ったのであった。←世話できると思うと、ウキウキ。変なお父様。
ということで、これから三四郎を海に連れて行き、部屋の掃除をしたら、昼過ぎにはパリを目指すことになった父ちゃんなのであった。
こんなに寂しがったり、孤独を感じたりしていて、お互い一人暮らしが出来るのか、先々不安ではあるが、ま、次第になれていくのであろう。
「じゃあ、夕方、そっちに行けるから。そのあと、下のレストランで一緒にご飯でも食べようね?」
父ちゃん、朝っぱらからこういうメールを打ったのだけど、さすがに、返事がない。
時計を見たら、まだ、朝の7時であった。やれやれ。
一番寂しいのは、ぼく、なのであーる。ちゃんちゃん。

退屈日記「慣れない一人暮らし、息子がちょっと寂しそうだ。仕方ないなぁ」

※ サンシーは、浜辺に向かう道ですれ違った、ミニチュアダックスと仲良しになりました。

退屈日記「慣れない一人暮らし、息子がちょっと寂しそうだ。仕方ないなぁ」



つづく。

ということで、読んでくれてありがとうございます。
パリに戻るとなったら、元気が出てきた父ちゃんなのだけど、こんなんでこれから先の人生、大丈夫なのか、と心配になりますよね? 何事も少しずつ慣れていくのがいいのかもしれません。明日は、息子を我が家に招き、美味しい手料理でも食べさせてやりたい、と計画中。仕事よりも、楽しいウキウキがここにあるのでした。
さて、そんな父ちゃんの小説教室、第二弾を、9月24日(土)に開催いたします。(もう、課題が届いているというのだから、凄い熱心さ)今回の課題のテーマは「食べるもの」「食について」の小説です。「一杯の掛け蕎麦」のような食べることをモチーフにした掌編小説、もしくは長編の冒頭を、原稿用紙10枚以内で。締め切りは9月20日。書き始めてくださいませ。詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

地球カレッジ

退屈日記「慣れない一人暮らし、息子がちょっと寂しそうだ。仕方ないなぁ」



自分流×帝京大学