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滞仏日記「父ちゃんは自分の中にある再生可能エネルギーで今日を紡いでいる」 Posted on 2022/09/05 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日はマッタリと過ごした。
朝、さんぴん茶~、と三四郎のことを呼び間違えたら、えええ、という顔で見事に反応してきたので、今日はずっと「さんぴん茶」で通すことになった。えへへ。
朝、8時にさんぴん茶と浜辺に散歩に行くと、ものすごい数の飛行機雲が空に線を描いていて、唖然とした。
すると、そこを4羽の白鳥が陸側から海に向けて、ほわほわっと不思議な羽音を轟かせながら飛行していった。
周辺のかもめもかなりでかいのだけど、その数倍はでかい。(携帯の電源がそこで切れ、撮影できなかったのは残念であーる)
さんぴん茶と二人、呆然としながらも、新たな一日をスタート!
ところで、フランスのミュージシャンたちとパリでニューアルバムのレコーディングを開始する。
ECHOESのナンバーを中心に、セルフカヴァー・アルバムになる。30年以上前の曲を2022年に蘇らせるのだ。再生可能エネルギー計画と呼んでいる。
ずっと構想をしていたものだけど、曲があり過ぎて、選曲が難しい。渡仏20年、しかも、ライブだって、続けてきた。
そして、ついに、来年、パリで記念碑的なコンサートを仕掛ける予定なのだ。
そこに新譜をぶつけたいじゃないか。それなら、1980年代に東京で始めたECHOESの楽曲が海を渡ってパリにたどり着くまでの軌跡を、この地で出会った仲間たちと現代に蘇らせるという流れは、ロマンがあるよね。

滞仏日記「父ちゃんは自分の中にある再生可能エネルギーで今日を紡いでいる」

滞仏日記「父ちゃんは自分の中にある再生可能エネルギーで今日を紡いでいる」



ということで今、選曲をしているのだけど、アルバム全10曲のうち、7曲から8曲はECHOESソングが占めそうな勢い。
いいバンドだったんだなぁ、としみじみ思う。
ただ、やはりサウンドが若いので、今のぼくがそのまま歌うのは気恥ずかしい。
そこで、プロデューサーのロブソン・ガリアノと組んで、ボサノバにしたり、ジャジーにしたり、今の父ちゃんのテイストにアレンジして、歌い直す。
これが、結構、かっこいいのだ、自画自賛、あはは。
やめずにずっと続けてきた父ちゃんだから、自分の大事な音楽をフランスの新しい人々にも届けない手はないじゃないか。(さんぴん茶も、ぼくの横で、頷いています。そうだそうだ、ムッシュ、歌ったれー、と、言いたいの? 笑)
それで、今日はさんぴん茶を前に、ギターでECHOES時代の名曲(あはは)を次々に演奏した父ちゃんなのであった。
もちろん、「ZOO」からはじまり、「友情」とか、「東京」とか。
実は「東京」は2019年のオーチャードホール一曲目に予定していた。弦楽四重奏でやる予定だったが、ゲネプロまで終わったのに、台風直撃で実現出来なかった。
あの時の悔しさが忘れられないので、その世界観を再度表現したい。

滞仏日記「父ちゃんは自分の中にある再生可能エネルギーで今日を紡いでいる」



で、アルバムに入れるかどうかで悩んでいるのが、ECHOESの代表曲でもある「ジェントルランド」である。
ぼくはあれをセルジュ・ゲンスブールのようなスロー・シャンソンにして歌い直したいと思っている。でも、どうだろう?
ビルボード大阪の最後のアンコールで思わず歌い、懐かしかった。なので、横浜のセカンドでも歌った。1985年が2022年に蘇った。うーん、どんなアレンジにするのがいいだろう。弾き語りはけっこう、しっくり来るけど・・・。
自分が作ってきた数々の創作物が、今のぼくを支える精神的な財産になっている。
新しいものも生み出しながら、過去作品も今のぼくをまた再生させていく。
実に不思議な循環エネルギーではないか。
20代に作った音楽を60代になったぼくが歌っても違和感がないのはなんでだろう。
今日、NHKの「パリごはん」ディレクターの義和さんから、ビルボードライブの「ジェントルランド」から「友情」と続くラインに胸が熱くなりました、とのメッセージを頂いた。
こういう一言にアーティストは一喜するのであーる。

滞仏日記「父ちゃんは自分の中にある再生可能エネルギーで今日を紡いでいる」



つづく。

ということで今日も読んでくれてありがとう。
レコーディングメンバーは、ジョルジュ・ベゼラ(per)、マリオ・フォルテ(v)、エリック・モンテニー(p)、ケンタウロス・スズキ(b)、プロデューサーがロブソン・ガリアノ(g)になります。さんぴん茶(マスコット)、えへへ。ロブソンとは十年以上の付き合いで、他のメンバーともこのコロナ禍で知り合って、活動してきました。ブラジル、メキシコ、フランス、イタリア、アルジェリアのミックスバンド。息の合った演奏をお届けできるでしょう。おたのしみに。
さて、そんな父ちゃんの小説教室、第二弾を、9月24日(土)に開催いたします。今回の課題のテーマは「食べるもの」「食について」の小説です。「一杯の掛け蕎麦」のような食べることをモチーフにした掌編小説、もしくは長編の冒頭を、原稿用紙10枚以内で。締め切りは9月20日。書き始めてくださいませ。詳しくは、下の地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

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