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滞日日記「息子と撮影のあと、毎晩一緒に居酒屋に行き、人生談義に花咲かせ」 Posted on 2022/08/18 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、三四郎は森での合宿を終え、ジュリアのところから、パリの飼育係、マント・フミ子さんの家へとひとたび移ったらしい・・・。感謝。
息子がぼくよりちょっと先行して帰ることになったので、ぼくが戻るまでのあいだ、交互に面倒をみるようだ(ほんとうか?)。
マントさんから今朝、「サンシーがあまりに痩せて、びっくりしました。少し、パリの生活で落ち着かせたいと思います」とご丁寧なメッセージを頂いた。
合宿生活もいろいろとあったのだろう。
まずは、マントさんが獣医さんのところに連れて行き、検査などをやってくださる。(虫くだしの薬とか注射とか・・・)
それにしても、ちょっと落ち着かない2022年になったが、ま、きっと大丈夫。マントさんが、いつもの公園やカフェなど、三四郎おなじみの散歩道を歩かせてくれることであろう。
マントさんから送られてきた写真の三四郎、なんか、ヘアスタイルが違ってる??
尻尾もやたら毛が伸びて、さらに、長髪犬になってしまった。ううう。

滞日日記「息子と撮影のあと、毎晩一緒に居酒屋に行き、人生談義に花咲かせ」

滞日日記「息子と撮影のあと、毎晩一緒に居酒屋に行き、人生談義に花咲かせ」



毎日、息子と一緒だ。
実は、実は、まだ、どうなるか、わからないところもあるのだけど、今回、息子がこの映画「中洲のこども」の音楽を担当することになりそうだ。
畳みかけるようで申し訳ないが、音楽監督を探していたプロデューサーチームに、とりあえず、ぼくの周りだと、推薦出来るのは(お金もかからないのは)こいつかな、と伝えたのがこのご縁のはじまり・・・。
すると、CMなども手掛けている平田プロデューサーや、元ミュージシャンの宋カメラマン、音楽エンジニアでもある録音技師の地福さんらが、気に入ってくださり、こういう流れに。
本人に言ったら、出来るかわからないけどやってみたい、というので、笑、何事も経験だから、やってみよ、となった。話がいつも早い。えへへ。
13日に、技師の集まりがあり、息子を紹介し、彼の音楽を全員で聞く機会があったのだけど、地福さんがことのほか、乗り気で、いろいろとアドバイスをしてくださった。息子にとっては嬉しかったみたいだ。
「あの、十斗くん、もっとそのフランスのヒップホップの世界観をですね、この映画に持ち込んでもいいんじゃないでしょうか? あまり、映画音楽にとらわれないで、思う存分その独特の感性を全面に出された方がいいような気がします」
地福さん、丁寧な物言いの方なのだ。全員が頷いていた。
とはいえ、ぼくの息子なので、ぼくが無理やり押し込むのもどうかと思ったから、台本には名前は出していない。
監督として、音が気に入らなければいつでも変えるよ、と含んである。
「うん。でも、ベストを尽くしたい」
息子はやる気だ。
大学、レストランでの給仕の仕事、そして、映画音楽まで・・・。
さて、いったいどうなることであろう。
実現できるか、最後の最後まで、わからないので、話半分で聞いていて頂きたい・・・。ただ、音楽だけはフレンチ風というのも、中洲と妙にミスマッチで、面白い気もするのであーる。
(父ちゃん、ライオンの親を真似て、崖から突き落とすことにします!)

滞日日記「息子と撮影のあと、毎晩一緒に居酒屋に行き、人生談義に花咲かせ」



ということで、息子君とは、仕事がらみの濃密な親子の時間を過ごしている。
撮影が終わると、ぼくは息子と毎晩、撮影現場に近い中洲周辺のレストランや居酒屋に二人で顔を出し、パリでは考えられないくらい、語り合っている。
「どんなイメージ?」
「うん、蓮司の心の中を音楽にしたい」
蓮司は戸籍のない子なのである。親の都合で、小学校にも行ってない。
「あの子の笑顔が本当に可愛い。ぼくが子供の頃に経験した感覚を大切に描いていきたい」
(閑話休題。息子はいつの間にか、ワインが飲めるようになっていた。それからコーヒーも飲んでいる。信じられないことに、目の前で、エスプレッソください、と注文したのだ。げっ。いつまでも、あのちっちゃな「息子」ではないのであーる。笑)



そういえば、昨日、とっても嬉しいことがあった。
3年前の映画「真夜中の子供」で美術を担当されていた杉本さんや、かつての仲間たちから、次々と、
「新作のニュースを聞けて、嬉しい。応援しています」
と連絡を受けたこと。有難いね。
「真夜中の子供の美術の杉本です。ニュース見ました。辻さんのブログも拝見させていただきました。福岡の有志の方々と全てを0から進めていたんですね。題名は変われど辻組であの映画作品が世に出る方向に進んだ事が当時携わっていた美術としてとても嬉しいです。そして蓮司役の弟さんが主演なんてもう涙出そうですよ!作品の完成本当に楽しみにしております」
涙が出そうになったのは、これを読んだ、ぼくの方であった。
2019年、「真夜中の子供」は10シーン程度撮影をしたところで、諸事情で、動かなくなった。
撮影済のシーンを新しい映画に持ち込むには時が経ち過ぎている。繋げようがない。2019年の光は、ハードディスクの中で眠っている。
2022年、ぼくらは新しい光を、1から撮影し直し、スクリーンに投影するのだ。
この作品が、辻父子にとっても意味ある作品になるよう、頑張りたい。

つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
いやはや、息子がカクテルとか飲んでるので、本当にびっくり。パリのレストランの先輩にシャンパンを一本頂いた、とか嬉しそうに喋っている。すでに、大人の十斗である。(とはいえ、まだまだぼくにとっては、子供なのだけど・・・)

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