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滞日日記「息子はかき揚げづくりの名人に、父ちゃんは真夜中のコンビニで」 Posted on 2022/08/09 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ライブが終わり、こういう時期だから、打ち上げもなく、解散となった。
ほんと、いいライブが出来たので、その高揚感をもったまま、ホテルへと戻ったが、ぼくだけ、食事をしていなかったのだった。お腹がすいた。
23時半を過ぎているので、レストランはどこも閉まっている・・・。
メンバーとスタッフはファーストステージとセカンドステージの間に、ビルボードさんが用意した豪華な料理(バイキング形式で、ステージ裏で提供される)に舌鼓をうっていた。(かなり、美味しかったようであーる)
でも、歌手である父ちゃん、満腹になるわけにもいかない。
そこで、宿にギターを抱えて一度戻った後、夜中に近くのコンビニまで何か食べるものを探しに出かけることに・・・。
ホテル周辺はオフィス街で、時間も遅いし、真っ暗であった。
遠くに光っているセブンイレブンがあったので、入り、お弁当コーナーを物色していると、携帯に親戚のミナから一枚の写真が届けられた。
おおおお。
息子とミナの娘のメミちゃんが映っている。
その前には大量のかき揚げが・・・。
「十斗がね、かき揚げの作り方を習いたい、というので教えたの」
ぐぐぐー。お腹がなった。めっちゃ美味そうだ。ぬくもりがある。羨ましい・・・。
「途中から十斗が全部、揚げてくれたのよ」
ひゃあ、これが食べたい。

滞日日記「息子はかき揚げづくりの名人に、父ちゃんは真夜中のコンビニで」



もう一枚は、息子とメミちゃんの兄弟のような笑顔の写真であった。(メミちゃんは医学生なのであーる)
息子は時々、ぼくは不幸だ、という。
家族の幸せがないからだ、という。
直接言うわけじゃない。周囲の人間(パリのスタッフさん、ママ友さんら)に漏らし、それがぼくのところに巡り巡って来るのである。家族愛に飢えている。
今の息子は幸せそうだ。
笑顔の写真をじっと見つめる。うちにいるときには見たこともない満面の笑顔。
この子は今、日本で、埼玉で、幸せなんだ、と思った。父ちゃんは、大阪の梅田のオフィス街の一角で、・・・。

滞日日記「息子はかき揚げづくりの名人に、父ちゃんは真夜中のコンビニで」



「モールでおそろいのTシャツを買ったら、店員さんに、カップルと間違えられたって。二人で喜んでいたよー」
「あはは」
「そういえば、昨日、ロストバゲージだった荷物が無事にうちに届きました。中に、ヘッドフォンとか音楽機材が入っていたみたいだから、今日から曲作りとかしているよ。楽しそう」
よかった。
とりあえず、安心をした父ちゃんであった。
息子は、ミナちゃんの家で、疑似家族を楽しんでいるようである。
彼にとって大学生活が始まる前のちょっとした夏休みなのだ。
ぼくは目の前にある、おいなりさんと、ヒジキと、万願寺豆腐と、和風ポテトサラダを手に取って、レジへと向かった。
家族って、なんだろうなぁ、と思った。
ぼくには笑顔をなかなか向けてくれない息子君だけれど、彼が幸せであるなら、ぼくはうれしい。
父ちゃんは、ともかく、横浜ライブに向けて、体調を整えて挑まないと・・・。

つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
結局、コンビニのお惣菜とビールで、ホテルのお部屋で空腹を満たし、爆睡した父ちゃんでした。もうちょっと、食い倒れの大阪を堪能して帰りたいので、さて、お昼はどこで食べようか、というところです。いひひ。(昨日は、今井の名物、親子丼を食べたのであった)
三四郎は相変わらず、毎日、森に散歩の日々だそうで、ジュリアから届く映像はすべて、森また森・・・。まるで森で暮らしているような・・・。でも、大型犬とも互角に渡り合っていて、よく見ると、勝っているというか、他の犬たちを牛耳っている印象があります。ジュリア曰く、部隊のリーダー格になっている、とのこと。走る時も先頭を走り、犬たちの間に割って入り、大きな犬にも飛び込んでいくのだとか・・・。やれやれ、ずいぶん逞しくなったものです。もうすぐ、会えるので、父ちゃんのライブ映像を送ってあげることにしました・・・。えへへ。わからないか・・・。

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