JINSEI STORIES
滞日日記「NHKのあさイチに出るのだけど、なんとなく、心配なことがある」 Posted on 2022/08/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、明日(日本の今日)、朝の6時半にホテルを出ないとならないのだ。
NHKの朝の人気番組「あさイチ」に出演するのであーる。
たまに出させて頂いているので、勝手知ったるな番組の一つなのだけど、ぼくはちょっと最近、生出演恐怖症なので荷が重い。笑。
「生出演恐怖症って、辻さん、いまさら、うぶなふりして」とか叱られそうだが、コロナでロックダウンしていた時期は、なんとか日本にコロナ情報を届けなきゃと思って、パリから最新情報を語っていたのだけど、(ミスターサンデーなどにも出演してたっけ)、ところが、年齢的なものもあるのか、自撮り番組を作り過ぎた副作用のようなものだろうか、生出演が近年、怖いのであーる。
何か、とんでもないことを口走ってしまうのじゃないか、とか、逆に、挙動不審な行動をとったりするのじゃないか、とか、怯えている。
今回、なぜ出演が決まったのかというと、マガジンハウスさんが「パリの空の下で、3000日」を売り込みたくて、裏で動いたのだ。
しかし、台本を読む限り、そこに言及するところは一行もなかった。笑。そもそも、NHKは本の宣伝をしません。
なのに、マガジンハウスさんらは朝日新聞の広告(準備原稿)に「あさイチ出演」と大きな見出しを付けていたので、
「やめてください。本の話にならないのに、そういう宣伝は嫌です」
とお伝えしたら、広告からそこがきれいに削除されることになった。やれやれ。(ばらしてすいません。生きてることがすべてネタなので・・・)
気持ちはわかるけれど、本は手に取ってくださる方が素直に買いたいと思ってくれることが大事で、「あさイチ」出演は、マジ、関係なし・・・。苦笑。恥かく前でよかった。
こういうこともあって、ぼくはなんとなく、どんな顔で出ればいいのか、悩んでいたのであーる。
しかも、特集が「奥多摩」なのだ。
ぼくは日野市生まれなので、近いかな、と思ったけれど、日野からも1時間20分ほどかかる。
奥多摩には、いつか、行ってみたい。
ネットで調べたら、素敵な日本の原風景がそこにあった。
その上、マガジンハウスの編集者さんらがNHKにご挨拶に来る、と言われていて、来ても、ぼくは本の話を自分からできないし、振られても、こういう環境なのだから、ほとんど答えられないのであーる。ますます、生放送が怖い、父ちゃんであった。
しかも、あさイチは朝早い番組で、この日記を読者の皆さんが閲覧している時には、すでに、放送が終了している可能性がある。なのに、事後報告のような、こんな日記でいいのだろうか、と今、これを書きながら、ぼくはビビっている。ビビっている。
ぼくはソファみたいなところに、たぶん、借りてきた猫のような感じでちょこんと座っているのに違いない。で、もう一つ悩んでいるのは、衣装がないことだ。定宿にはライブ用の衣装がおいてあったのだが、今滞在しているホテルにはTシャツしかない。
本当は今日、ブティックに小奇麗な洋服を買いに行く予定だったが、暑くて、ホテルから出ることが出来なかった。
博多大吉さんとか色白で、すらっと背が高くて色男なのに、ぼくのような貧相な中高年がいったいそこで奥多摩について何を語ればいいというのだ。
奥多摩に遊びに行っとけばよかった。仕方ないから、ネットでこれから勉強します。
でも、奥多摩って結構、遠いんだよね、東京の中心地から・・・。
たぶん、番組をご覧になった皆さんは、ぼくがへらへらしているところを目撃されることになるのだろう。なんか料理コーナーもあるようで、試食とかもしないとならないらしい。
ぼくはだいたい、人前でものを食べるのが少し苦手なのだ。
顔が強張るので、口があかなくなって、一度、生放送の時に食べ物をこぼしたこともあった(ぼろぼろと、ご飯粒を・・・)。
食べる瞬間、日本中のお茶の間の画面に自分の間抜けな顔が映し出されるかと思うと、マジ、申し訳ない(母ちゃん、すまねー)。穴があったら入りたいはずである(未来形)。
ここまで心配すると、ちょっと病的なので、自分、大丈夫なのだろうか・・・。
ともかく、いまさらなのだけど、ぼくはあがり症で、対人恐怖症で、やや失語症的な側面もあり、緊張しーで、カメラ先端恐怖症でもあり、かっこいい人や綺麗なアナウンサーさんが横にいるとますます、怖気づく性格でもある。
だから、タイタンさんにはバラエティ番組とかは、年齢的にももう出ることが出来ません、宣言をさせて頂いている。
なぜ、BSの「パリごはん」はOKかというと、あれは自撮り番組だからなのであーる。
自撮りならば、安心して出演できる、というなかなか凄い言い訳をするおっさんなのであった。えへへ。
ということで、今日も読んでくれて、ありがとう!!!
ああ、テレビに着て出る服がないのは困ったものですね。ライブのためにジャケットを一着持ってきているから、それで出演というのでもいいでしょうか? 同じ服着てビルボードに立つことになりますが、見て見ぬふりをしてくださいませ。えへへ。