JINSEI STORIES
滞福日記「驚愕!!! 息子が詐欺にあった。怖すぎるパリの実態」 Posted on 2022/07/22 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、驚くべき事態になった。
7月19日の日記のこの部分、皆さん、覚えていらっしゃるだろうか? もともとは888ユーロで15平米くらいが、相場のパリ市内の学生アパート。そこに好物件が出現したのであーる。19日の記事をもう一度、ふりかえって読んでもらいたい。こちらである。
今日、パリの事務所のスタッフさんから、
「十さん、お部屋を見つけたみたいです」
とビッグニュースが飛び込んできた。
彼が希望する大学駅の真ん前に位置するアパルトマンの大家さんが、「そこの学生さんなら貸す」と言ってくださったのだとか・・・、おおお。
最初に彼が見つけてきた15平米のアパルトマンより50ユーロも安く、しかも、広さは32平米と倍あり、しかも、駅前・・・。
フランスには「スロジェ」という賃貸サイトがあり、中には、不動産屋を通さず、直接、大家と借り手がサイト上で知り合い、やりとりできたりもする。息子が見つけたこの好物件も、スロジェを介している。
・・・で、その後、息子がここの大家さんと直接やりとりをしてきたのだけど、どうも、様子がおかしい、というのだ。パリジャンだが、今は地方にいるからすぐには会えない、と言うし、仏語のスペルに一部、違和感がある、というのであーる。
不動産屋を通さないで物件を貸すこと自体が、実はちょっと珍しいのである。
こうやって不動産屋を介さず、物件を借りた住人が、家賃を払わなくなり、そのまま不法占拠をして居座るケースがここフランスでは後を絶たない。
法律的には強制排除ができ難いらしく、知り合いも、何年も係争して、最後は勝訴したのだけど、今度は、彼らが出ていく時に、アパルトマンを破壊してから出ていった・・・。恐ろしい話だけど、こういうことが結構、起きている。
なので、不動産屋を通さない、というのは、仲介料を払わないでいいから借りる側にはいい条件ではあるが・・・、逆を言えば、レアケースでもある。
で、ともかく、その大家さんとやりとりが始まることになるのだけれど・・・。
まず、最初におかしいと思ったのは、「もう君に貸すことに決めたから、お父さんの収入とか契約に必要な書類を揃えてくれ」というメールが来た時。まだ下見もしていないのに・・・。
ぼくは今、福岡で大変な仕事を引き受けててんてこ舞いしている最中だから、それでも、息子の件が早く片付いてくれるなら、という思いもあり、ああ、いいよ、有難い話だね、とオッケーを出したのだった。
なので、ぼくは遠隔で納税証明書とか居住証明書を揃えはじめていた。
「でも、それでも、とりあえず、部屋を見てからにした方がいいし、まずは電話で話くらいした方がいいんじゃないの。出来れば、その人の名前を教えなさい。どういう人物か調査してみる」
とぼくが言ったら、息子がその人の名前を送ってきたので、パリ・オフィスのスタッフさんに調査を依頼、・・・。
す、すると、めっちゃ有名な実業家さんの名前が出てきた、というのであーる。若手実業家のような絵に描いたような紳士だ。え、この人なら最高じゃん、と最初は思った。
ところが、である。その後、その人からなんと自分のIDカードのコピーが送られてきたというじゃないか。なんで、そんなものいきなり送り付けてくるか???
しかも、やたら、聡明そうな紳士が映っている・・・。
「ぼくは君を信頼するから、IDを送る。だから、まず、この銀行にギャランティを振り込んでくれないか」
というメッセージが添えられていたのだとか・・・。えええ?
ちょっと待て。それはかなりおかしい話じゃないか、となりますよね?
「一度、ちゃんと電話で確かめた方がいい」
その後、息子が何度か電話をするも、出ない。翌日、やっと男から電話がかかってきたのだが、フランス人とは思えない、癖のある訛りの強いアクセントなのだという。その人物の経歴を調べると、パリ生まれ、ということになっている。めっちゃ、怪しい・・・。
これは詐欺に違いない、と思った父ちゃんと息子くん・・・。ぼくらは協議をし、危険すぎるので、この話は断ることにした。
「不動産屋を介していないので、こちらからギャランティを振り込むのはおかしいので、この話は取りやめにします」という内容のメールを送らせたのである。
その後、その人物から連絡はない。
幸いなことに、ぼくの納税証明書などは送る前のことであった。
恐ろしい話だけど、早い段階で気が付いてよかった。
パリ事務所のスタッフがその後、ネットで調べたところ、学生を狙ったこの手の詐欺がパリで頻発し、社会問題になっているというではないか・・・。(2017年くらいから、この手の学生を狙った詐欺が増えているらしい。パリで大学を目指すお子さんをお持ちの日本人の皆さん、お気をつけてください)
早めに気が付いてよかったし、きちんと不動産屋を通すべき、という教訓であった。
いい話には何かあると思わないとならない。
世の中、人をだますこと、嘘をつくことを何とも思ってないまさに詐欺師のような連中ばかりなのだから、しっかりと契約をし、自分を守っていくしかないのである。
息子は今日、大学周辺の不動産屋さんに別の物件の下見に出かけることになっている。
多少、高くても、狭くても、安心をして暮らせる場所を見つけてほしい・・・。
それにしても、うさんくさいこの世界で、あいつは生きていくことが出来るのだろうか?
ま、いい勉強になったのかな。
父ちゃんは見守るしかない。
ということで、いろいろとありますが、今日も読んでくださり、ありがとう。
いやぁ、怖い世の中ですね。誰も信用できない世界ですから、自分の身は自分で守っていきましょう。はい、ということで、父ちゃんからのお知らせです。
7月28日は父ちゃんのオンライン・講演会「一度は小説を書いてみたいあなたへ」と題しておおくりします。
一生に一度でいいから小説を書きたいけど、敷居が高くて、と半ば諦めかけている皆さん、そんなことはありません。ぼくがどうやって作家になったのか、どうやれば一冊書けるのか、など、講演会形式でお話をしたいと思います。
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