JINSEI STORIES
滞仏日記「やっと息子と連絡がとれた。レストランの仕事はどうだったんだ!」 Posted on 2022/07/12
某月某日、ジュリアから送られてくる写真は全部、森の中を大型犬と散歩するものばかり、どんどんマッチョになっているのが、なんとなく気になる・・・・。
次に会う時に、三四郎がマッチョ犬になっていそうで、正直、怖い・・・。
そして、高級レストランで土曜日から働きだしている息子だが、ずっと連絡がつかなかった。土日と働いたはずなので、今日は休み、・・・SMSを送っているが、うんともすんとも返事がない。ところが今朝、
「電話で説明するよ」
とメッセージが入った。
で、あわてて、電話をしたが、時差が7時間あるので、出ない・・・。
「おーい、どうだったんだ? 父ちゃん心配しているぞ」
とメールを打つのだけど、やっぱり、返事はない。ううう、・・・。
ぼくは朝から事務所に行き、弟と書類の整理などをして、昼は近所のスーパーに昼食を買いに行った。
そこで見つけたのが、「新鮮長崎発、からし蓮根ちぎり」だった。
ぼくはからし蓮根が死ぬほど好きなので、この一口サイズ感、すごいと思ってしまった。
それが、福岡の行きつけの小料理屋の大将とか、「からし蓮根なんか辛くて食えないっすよ。あれ、熊本の食べ物ですから」と笑うのだ。
熊本の皆さん、本当に、ごめんなさい。こういうこと言うやつは一部ですから・・・。
というのも、ぼくはわざわざからし蓮根を買いに熊本まで行く男なのであーる。
しかも、ぼくは福岡空港でからし蓮根を探しまくって、ここは福岡ですからありません、とか言われながらもなんとか一つ見つけて、それを抱きかかえて機内に持ち込み、周囲の迷惑も顧みず、齧って食べきるのが好きなのであーる。ほんとうです。(この時、隣に座っていた見ず知らずの人がずっと唖然としていました。CAさんにも、なんか水とか必要ですか、と言われ、むせびながら、結構です、と断った父ちゃんであった)
ところがである。
弟といった市内スーパーに一口サイズに千切った蓮根をからしフライにしたのが売っていて、これが、ビールのつまみに最高なのであった。パリからきた父ちゃんには衝撃の新製品、そして、手軽さ、美味さ!!!
「おおお、恒ちゃん、こりゃあ、すごかばい」
「兄貴、確かに、ビールにいいね。そこまでからし蓮根じゃないけど、斬新だね」
ということで今日も書類整理に明け暮れた兄と弟なのだったが、そこにパリのレストランオーナーから息子の勇姿(写真)が届いて、鼻血ブーの辻兄弟!!!!
「兄貴、やばいっちゃないですか、これ、十斗か」
と恒久、・・・
おおおお、レストランの大人たちに交じって、笑顔のうちの小僧・・・・。
※ これはイメージです。本人とは関係ありません。笑。
高級レストランの店内でオーナーやシェフたちと並んで写真に納まっているではないか、オオオ、しかも、髪が短い。オールバックではなかった。七三分け? 昔の貴族みたいな髪型なのであーる。
なんか、家にいる時の息子ではない。めっちゃ、ギャルソンな十斗であった。
オーナーからのメッセージ、
「緊張していたみたいだよ。でも、すごく頑張ってくれたよ」
が届き、涙、涙、一安心の父ちゃんだった。
しかし、本人から連絡がない。
何度か、どうだった? とSMS送っても返事なし、寝てるな。
で、こういう時、父ちゃんは起きてくるのをまたずに、電話をしてしまうタイプなのであった。皆さん、ご存じのように、せっかちなのであーる。
「兄貴、寝てるよ、やめときなよ」
「大丈夫、もう、フランス、10時だから、こういうことちゃんとできないと、レストランで働けないでしょ?」
つーつーつー。
「出ない・・・」
※ これもイメージです。
何回か掛けたら、ついに、出たのであーる。
「・・・・うううううう、はい」
「おはよう。どうだった?」
「え? あー、うううう、ええと、楽しかった」
おおお、楽しかった、という返事に驚く、父ちゃんなのだった。
「楽しかったのか? そうか、それはよかった。どう楽しかったんだ?」
「え? いや、今、寝てたから」
「だから、どう楽しかったのか、ちょっと教えろよ。オーナーさんから、頑張ってたって、連絡来てたぞ。写真も来た。シャツも買ったのか、靴もか、そうか、やったな」
「・・・・」
横で恒久が、ぼくのシャツをひっぱっている。
「寝かしてやりなよ。緊張したんだよ」
「・・・・」
「みんないい人たちだろ? パパの行きつけのレストランなんだ。つづけられそうか?」
「うん。続ける。9月から正式に働くよ。夏は、ちょとちょこ練習する感じでやってみる」
「そうか、それはよかった。眠いか?」
「うん。寝ていいかな」
「ああ、よかった。安心をしたよ。ちゃんと食べてるか? お金足りてるか?」
「大丈夫」
「まかない食べたのか? あのお店のまかない、すごかったろ?」
「うん」
「そうか、口数の少ないやつだな、あいかわらず、あはは、じゃあ、良く寝なさい。パパは気分がいい。またな」
「うん」
電話が切れた。
ふー。恒ちゃんが呆れた顔をして書類の整理をしている。
でも、つながってよかった。
いよいよ、息子は船出なのである。素晴らしいことだ、とぼくは思った。
あの鼻たれ小僧が、レストランのギャルソンなのであーる。
信じられない、父ちゃん、今日は寝れそうにない・・・。
つづく。
ということで、今日も読んでくださって、ありがとう。
息子くん、一人暮らしに弾みがつきました。これからアパートを探して、独立へ向けてじわじわと進んでいくことでしょう。なんか、秋からが楽しみな展開だなぁ。
三四郎は森の写真ばかりなので、ジュリアに、もっと違うカットないのか、催促をしています。お待ちください。しかし、子犬だったのに、怪獣みたいになっちゃうのじゃないか、と心配な父ちゃんなのです。
ところで、そんなぼくら父子のエッセイ、「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」はマガジンハウス社から発売中です。とある劇団の方から「舞台化」のお話しを頂きました。全国展開したいそうで、マジか・・・。やめときはなれ・・・。誰も観に来ないでしょ。
そして、ライブも近づいてきましたね、演奏曲は決定しました。あの曲、歌います。
それから、7月28日は父ちゃんのオンライン・講演会「一度は小説を書いてみたいあなたへ」と題してお送りします。
一生に一度でいいから小説を書きたいけど、敷居が高くて、と半ば諦めかけている皆さん、そんなことはありません。ぼくがどうやって作家になったのか、どうやれば一冊書けるのか、など、講演会形式でお話をしたいと思います。
詳しくは、下のバナーをクリックください。